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15.薄いポリマーフィルムには穴がある

「13.ポリマーフィルムは簡単にははがれない」でフィルム同士を簡単にはがすためにシリカ粒子を入れると書きました。するとフィルムを薄くするとシリカが抜け落ちて穴ができる心配があります。
実際に、12 μm(0.012 mm)厚さのフィルムには結構な数の穴が開いています。25 μm(0.025 mm)の厚さのフィルムでも数は非常に少ないものの穴が存在します。

  広い範囲でフィルムを用いて絶縁する必要にあるコンデンサでは、従来では25マイクロメートルのフィルムを2枚用いることで穴が重なる確率をほとんど零にして構成していました。そこで、穴があったら敢えてその場所で絶縁破壊を発生させ、穴近くの電極を溶かして飛散させることでコンデンサ全体として高い絶縁特性を確保する方法にすることで、コンデンサの小型化をしています。

 近いうちに東南海地震が来るかも知れないとことあるごとに言われるようになりました。地震が発生すると食料、水よりもトイレが非常に重要と言われています。下水道が破損して流れなくなる可能性が高いので、ビニール袋に用をたした後に吸水ポリマーを振りかけて固めビニール袋を閉じてさらに大きなビニール袋に入れることで保管するものが一般的です。

 この場合、使用するビニール袋が薄いと小さな穴が開いているので、この穴から匂いが漏れることになります。このため保管するための袋は極力厚い方が良いのですが、この頃大きな袋は厚くても20 μm(0.02 mm)のものしか目にしなくなっています。20 μm(0.02 mm)のビニール袋1枚で匂う場合には2枚重ねて使用することで匂いは少なくなることが期待できます。

2025年04月24日

14.ポリマーフィルムは簡単に剥がれない

 歳を重ねると指の油脂と湿り気が減り、ポリエチレンの袋の口を開こうとしてもなかなか開かなくなります。しかし、工夫していないポリエチレンの袋は指に油脂と湿り気があっても容易に開きません。

 これには分子同士が引っ張り合うファンデルワース力が影響しています。「12.ポリマーフィルムの作り方」でも書きましたがポリエチレンが同じ方向に向いていると結晶化します。この結晶化に影響する力がファンデスワース力です。付着したフィルムは、面全体でファンデスワース力で引き合っているので通常では引き離すのは非常に大きな力が必要になり、場合によってはポリエチレンフィルムが破れてしまうほどの力が必要になります。これでは困ります。

  この問題を解決するために、ポリエチレンのフィルム同士で大きなファンデスワース力が働かないようにすることが必要になります。それにはフィルムがぴったり張り付かないようにポリエチレンにシリカの粒をいれることです。そのことによりシリカの粒がフィルムの表面から突き出し、ぴったり張り付くのを邪魔をして非常に小さなファンデスワース力しか働かないようにします。こうすることにより小さな力でポリエチレ袋を開くことが可能になります。

 このようにすることでフィルム表面で電荷交換をして引き離す際に沿面放電を発生させない効果もあります。

 

2025年04月16日

13.トランプ関税はB.C.1177を引き起こす

「B.C.1177」とは、著者はエリック・H・クライン氏、翻訳は安原和見氏の2018年に話題になった書籍です。

 ヒッタイト、ミタンニ、エジプト等の地中海に面する国々は争いながらも交易をしていろいろなものを手に入れて栄えていました。しかし、紀元前、1177年を境にこれらの交易がおこなわれなくなり地中海の文明が衰退してしまった、というのです。それぞれの国が自国の特産品を売り、他の国の特産品を買うというグローバル化が進んでいました。このため交易が滞ることでいままでできていた生活ができなくなり元の状態にもどるまで300年以上かかる非常に大きな転換点です。しかし、どうして急に交易がなくなってしまったのかの原因は不明とのことです。

 現在、米国のトランプ氏が高い税率の相互関税を発動することになっています。これにより貿易が減り、さらに他国が報復関税を発動することで貿易自体が滞ってしまうと、紀元前1177年と同じことが起こる可能性があります。紀元前1177年も関税を課そうとして交易が止まってしまったのかもしれません。さすがに300年では無いにしろ元に戻るまで30年位はかかりそうです。

 トランプ氏の支持者層で中核をなす白人の中流の労働者層は、株をもとに老後の年金を得ているはずです。景気の先行きの不安から株価の低迷が続けば株の運用益で得ていた年金が吹っ飛んでしまいます。すると白人の中流の労働者層は、こんなはずでは無かったと一転して支持しなくなるでしょう。根拠の無い大幅関税増額により世界の景気を低迷させ、米国民の年金を喪失させることでトランプ氏はアメリカを偉大にしたのではなく、老後の年金を台無しにすると共に国益を損なった大統領として名前を残すことになると思われます。

2025年04月16日

12.ポリマーフィルムの作り方

 普段の買い物でお世話になっているポリ袋ですが、数年前から有料化されて自前の買い物袋を用意している方も多いとは思います。しかし、便利なのでポリ袋を何かと使用しているのではないでしょうか。

 買い物で使用される袋は、通常はポリエチレンが多いはずです。ポリエチレンの内でもほとんど高密度ポリエチレン(HDPE)が使用されます。一方、魚や肉のパッケージが万一破損しても内部の液体が他のものに付着しないように、柔らかいポリ袋に入れる場合が多いですが、これもポリエチレンです。こちらは密度が小さい低密度ポリエチレンです。

 高密度ポリエチレンは、ポリエチレンの分子が一方向に伸びて横方向に突き出た枝が少ないため、他のポリエチレン分子と同じ方向に向いて並列に並んだ部分が多く、そのためぴったりとくっ付いて結晶化した体積が多くなり密度が高く、やや硬い特性を持っています。対して低密度ポリエチレンは、ポリエチレンの分子に横方向に伸びる枝が多いため、他のポリエチレン分子と並ぶことがほとんどできず結晶化した部分が非常に少ないため柔らかく伸びやすい性質を持っています。

 さて本題ですが、これらのポリエチレンのフイルムはどの様に作られているのでしょうか。
これは高温にして溶かしたポリエチレンを丸いノズルから噴射させます。この丸いノズルの中央に空気を噴射するノズルを忍ばせているのがミソです。溶けたポリエチレンの中に空気が大量に入ってくるので、ポリエチレンは延ばされて円筒状に膨らみます。しかも、ポリエチレンは円周方向に延ばされるだけでなく巻き取られるため進行方向にも延ばされます。このようにして袋状のフィルムが作られます。このように縦方向と横方向に延ばしながら作るためインフレーション法と呼ばれます。

 高分子は引っ張られることでそちらに高分子が並びやすく結晶化しやすいので丈夫になります。この引っ張られる方向が縦横の2方向の場合2軸延伸フィルムと呼ばれます。

2025年04月03日

11.放電を使用した空気清浄機の危険性

 空気清浄機には各種方式があるがファン式、電気集塵方式、イオン発生方式がある。この内、電気集塵方式、イオン発生方式は高電圧を使用して放電させてイオンを発生させ集めるべき塵を帯電させて反対極性の電極に吸着させます。

 たばこを吸う人が少なくなった現在では室内で喫煙する機会が少なくなりましたが、1980年台はまだ多くの人が喫煙し、家庭、職場、電車、飛行機内での喫煙が認められていました。このような多くの人が喫煙する場所の汚れた空気をきれいにするために空気清浄機が使用されていました。この時点では、現在の空気清浄機で多く使用されている高性能HEPAフィルターは半導体の製造工場に使われ始めたばかりで非常に高価であったため、家庭や職場で使用される空気清浄機は電気集塵方式がほとんどでした。

 当時、空気集塵方式の空気清浄機が火を出した現象があり、この現象の解明にために高電圧の部門に依頼がありました。対策をするために、現象の再現をさせる必要がありました。火を出した空気清浄機はたばこのヤニが多く付着していたことから、たばこの煙を多く空気清浄機に吸い込ませる必要がありました。このため研究費でたばこが吸えるということで喫煙者が喜んでたばこを空気清浄機の前で吸いました。数人の喫煙者が、1日に一人50本以上吸うようなハードな喫煙をしても付着するニコチンの状況が発火した事故当該機とは程遠いものでした。この状況を3日続けた段階で限られた人がたばこを吸っても明らかに限界と分かりました。そこで縦横10本ずつ並べて100本のたばこを支える容器を作り、100本同時に点火して煙を出し、フィルターのところに火が来たら新しい100本のたばこに交換することを繰り返しました。すると3日後に空気清浄機が発火しました。

 この現象はたばこから発生するススはニコチンと炭素が主成分なので導電性があります。このため集塵されたススが溜まり高くなることで高電圧側の電極と間隔が狭くなりついには大きな放電が発生してその熱でススに火が着き、スス全体に火が広がりついには空気清浄機が燃えることが分かりました。

 上記のことからたばこの煙を大量に処理しないのであれば、電気集塵方式の空気清浄機は発火する危険性はありません。しかし、喫煙場所のようなたばこの煙が漂うような場所でこの頃広告を良く見るこのタイプの空気清浄機を使うと火災の原因になる可能性あります。このような状況で電気集塵方式の空気清浄機を使用する場合にはこまめに電気集塵の電極の清掃する必要があります。

2025年03月26日

10.昭和100年問題

 西暦2025年は昭和100年にあたります。

 西暦2000年になる際はミレニアム問題と言われて、19××年の下2桁を変数にして西暦を表していることが多かった。このため2000年になった瞬間にコンピュータ上では1900年となり誤動作を発生する可能性が指摘され、1999年の年末にはこの年が逆戻りしないようにソフトウエアのコードを書き換えることに膨大な時間と費用を費やしたと大きなニュースになっていました。

 1970年当時から日本のコンピュータが輸出されて海外の基幹コンピュータとして使用されていると言われており、日本のコンピュータは昭和を西暦に変えて年月を決めているとされていました。コンピュータが本格的に作られた1970年代後半の当時も昭和が100年になることは無いとして2桁で表されたため昭和100年は昭和0年として認識してしまい、その結果西暦は1925年になることになり、2000年問題と共にこれも大きな問題になると言われていました。

 しかし、2000年の時とは違い昭和100年はほとんど話題にされること無く、しかも表面上何も問題なかったように見えます。しかし、年末年始に鉄道会社、航空会社においてサイバー攻撃が原因でうまく動作しなかったと報道されているものや年始にかけて銀行がシステムを変更するために数日間運用を停止したものが実は昭和100年問題であった可能性があると思っています。

2025年03月19日

9.PTFEはスポンジのごとし

 PTFEは絶縁抵抗が高すぎて問題を引き起こす可能性について「8.PTFEは絶縁材料として過ぎたるは及ばざるがごとし」で書きましたが、他にも変な特性があります。PTFEは合成すると長いひものような構造になります。しかし、不活性のため他の分子とはほとんど結合せずにお互いに絡まっているだけの状態です。このため、内部はスカスカのスポンジのような状態になっています。

 PTFEはスポンジのようにスカスカなのでいろいろなものを内部にため込み保持します。ため込むだけならたいしたこと無いと思われるかもしれませんが、ため込んだものにより体積が変化します。空気中に置いておいた場合に比べてSF6ガス中に入れると体積が大きくなります。PTFEは他の分子とは結合しないため滑りやすいという自己潤滑性を持つため軸受けに使う場合があります。空気中では問題なく動作したものがSF6ガス中では動かなくなることがあります。しかも、室温を超えると急に柔らかくなるので相当気を付けてPTFEは使用する必要があります。

2025年03月12日

8.PTFEは絶縁材料として過ぎたるは及ばざるがごとし

 「4.アブレーション材料のPTFE」で書いたようにPTFEは遮断器のふいごの材料に使われていると書きました。遮断器は接続された2つの電極を切り離し電流を零にした瞬間にアークが消えて完全に切り離されます。この瞬間、切り離された2つの電極(2つの電力系統)間に高い電圧を発生します。極端な場合、交流電圧の位相が180°異なることもあり得ます。(これについては機会があれば書きます。)

 このふいごに使用されるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)はアブレーション材料としだけでは無く、優れた絶縁特性、高い絶縁抵抗率を持つために、何か困りごとがあった時につい使いたくなる材料です。

 しかし、「過ぎたるは及ばざるがごとし」のことわざにあるようにPTFEは極めて難しい材料です。抵抗率が高すぎるために一度内部に電荷を溜めると容易に放出しません。

 これは材料の時定数に関係しています。時定数はその材料の抵抗率と誘電率を掛け算したもので単位は秒です。時定数の時間が過ぎると電荷は約1/2.7(=0.367)倍に小さくなります。PTFEは製造方法にも拠りますが時定数が100万秒になることがあります。これは約2年です。2年経ってやっと電荷が0.367倍になるということです。

 このように一旦電荷を蓄積する(帯電)と途方もない時間経たないと電荷を放出しないため、この電荷が製品の絶縁特性に悪影響を及ぼす可能性があります。(これについても機会があれば書きます。)
このためこの高い抵抗をあえて下げるために混ぜ物をして時定数を下げることもあります。

2025年03月06日

7.昨日の水道水と今日の水道水は違う

 毎日お世話になっている水道水ですが、昨日の水道水と今日の水道水は同じと思っているかもしれません。しかし、少なくとも電気的には全く異なります。と言うのは水道水には、消毒用の塩素や空気中の二酸化炭素が溶け込んであり日々違うだけでなく、上水道に入る川の水には雨の量や空気中に漂うほこりやしみ込んだ大地中のミネラル成分にもばらつきがあります。海岸から数十キロメートル離れていても海水のしぶきや中内陸部から飛んでくる黄沙の成分も入り込んできます。このため、塩素イオン、水素イオン、二酸化炭素イオンが日々変わり水の抵抗率を大きく変化させます。

 純水を用いた実験で抵抗率の実験をする際に上記の塩素イオン、水素イオン、二酸化炭素イオンを純水器で除去する必要があります。ある一定の抵抗率の純水にするために純水器を循環させる必要がありますが、日によって水道水の抵抗率が大きく異なり、ある抵抗率になるまでの時間に大きなばらつきがでます。

 1日違っても抵抗率は10倍以上異なることがあります。水も魚や肉と同様に生ものということです。

2025年02月26日

6.ファインバブルは肌に優しい?

 近年、ファインバブルを適用したシャワーヘッド、風呂、洗濯機が販売されている。シャワーヘッドや風呂ではお肌に優しいといううたい文句で販売されている。

 石鹸の泡が汚れを落とす理由は、泡と泡の間に汚れを取り込むことであり、ファインバブルは負に帯電しているとされておりお互いに反発するので泡同士が接触せず、泡と泡の間に取り込んで汚れを取ることはできない。

 タンカーを代表する大きな船の海中の先端に丸い突起が取り付けられている。これは先端で発生する水の乱流を低減させるためである。乱流が発生すると一部に圧力が低い部分で泡が発生する。この泡が消滅する際にキャビテーションと呼ばれる高い圧力の衝撃波が発生し船を構成する鉄板を削り取り、ひどい場合には穴が開くこともあるという。

 非常に多いファインバブルが消滅する際に発生する衝撃波で汚れを落とすため、本来落としたい汚れはもちろんある程度残したい皮脂も徹底的に落とすことになる。その結果、皮脂を取られた肌は皮脂を多く出すようになり、油肌になるはずである、美肌を目指すはずが逆になることが考えられるのに、このことはシャワーヘッド、風呂の説明はされていないように思う。

一方、洗濯機ではファインバブルの衝撃波で汚れが良く落ちる。

ファインバブルは本当にお肌に優しいのか疑問である。

2025年02月20日

5.ナノ材料の脅威

 2025年2月8日の中日新聞朝刊に「プラ粒子脳内に蓄積」という記事があった。この記事では米ニューメキシコ大学のチームが人間の遺体の脳には腎臓や肝臓より7~30倍のポリエチレン中心の粒子が含まれていたと書かれていた。

 この記事を見て思い出したのは2008年のCIGRE(Conseil International des Grands Reseaux Electriques:国際大電力システム会議)パリ大会の材料と新技術のセッションにおいて見たPPTである。これはミジンコがエサと間違えてナノ粒子のプラスチック数十個を食べたものの消化できずお腹がパンパンに膨れあったものであった。会場にいてその画像を見た人は一様に驚きの声をあげていた。これを見てナノ粒子は結構危ないと皆感じたはずである。

 当時からナノ材料を添加した化粧品で、プラチナやコラーゲンのナノ粒子が肌の細胞間の隙間から肌の中に浸透するというメカニズムを説明していたものがあった。ということはナノ粒子はどのようなものも肌から体内に侵入して蓄積することが想像できる。さらに、脂肪や糖は代謝して消費して無くなるが、プラスチック粒子は代謝できないのでそのまま体内に居続けることになるはずである。

 これはカネミ油醤事件が発端で毒性が確認されて、現在法律で製造・販売・保存が規制されているPCB(ポリ塩化ビフェニール)と同じである。ということはナノ粒子のプラスチックはPCBと同じ毒性を示す可能性が高いことを示す。大変怖いことです。

2025年02月12日

4.アブレーション材料のPTFE

 「2.遮断器と遮断機」の題目においてアークを冷却するためパッファという「ふいご」構造の機構により冷たい気体を吹き付けてアークを構成する高温でイオンと電子に分解したプラズマを元の分子に戻して絶縁性能を回復させて電流を遮断する構成をしています」、と書きました。この「ふいご」にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)という材料が用いられることが多いです。PTFEといってもなんだか小難しい材料と思うかもしれませんが一般にはテフロン🄬と呼ばれています。🄬が付くのは商標で米国のデュポン社が開発し売っている材料です。スマートフォンを一時アップル社の「アイフォン🄬」、摺動型電圧調整器を一般に東芝の「スライダック🄬」と呼ぶのと同じです。最も普及している特定の機器の名前が一般呼称にされることは良くあります。

 話を戻して、PTFEをふいごとして用いる理由はPTFEが持つアブレーションという特性です。今は現役を引退してしまったスペースシャトルが宇宙空間から地球に帰還する際に、底部分が空気との摩擦で高温になり内部にいる人間や機械に影響するために、この熱の発生を抑える特性がアブレーションです。自らが熱により蒸発し、蒸発熱により温度の上昇を抑えることができます。

 遮断器ではアークを吹き消すために高い圧力でガスを流す必要があります。このガスを流すために大きな力でピストンを動かしガスを押し出して高い圧力を発生し流れを作るのですが、このアブレーションにより発生した圧力を加えることでピストンに加える力を少なくすることができます。これによりピストンを動かすための操作機構を小さくできるため小型の遮断器にすることができます。遮断器の性能は遮断可能な電圧、電流と遮断器を操作するエネルギーで評価されます。

2025年02月05日

3.コンセントの電圧はなぜ100V?(パッシェンの法則)

 家庭に来ている電気の電圧は100 Vが多いと思いますが、エアコンで大容量のものは200Vのものもあります。しかし、電気は電圧と電流の掛け算が送ることのできるエネルギーになるので、多くのエネルギーを送ろうとすれば高い電圧にして電流を少なくすると損失が小さくなり有利になるはずです。では家庭に来ている電気の電圧は200Vまでがほとんどで、どうして400V、1000Vが無いのでしょうか。

 答えはパッシェンの法則にあります。パッシェンの法則とは気体の絶縁破壊現象のことです。あるギャップ長で破壊電圧が最低になり、この距離より短くても長くても破壊電圧は高くなる、いわゆるU字特性を持っていることを示す法則です。この法則は空気を絶縁媒体として用いた場合に320Vpeak以下では絶縁破壊(ショート)しないことを示しています。

 ここで電気工学を学習したことが無い人はなぜpeakをVの後ろにつけるの?と思うはずです。実は、通常電気の電圧を表すのは実効値というある特殊な平均値を用いています。電圧と電流の実効値の掛け算が送ることのできる電力を表しています。実効値と明確にするためにVrmsと記載する必要がありますが通常はrmsを記載せずに表すことが多く、実効値と区別するためpeakをVの後ろに付けてピーク値と明確にしています。実効値は、ピーク値を√2(約1.414)で割ったものです。つまり通常200Vというのはピーク値が282.8Vということになります。この電圧値では電線が少しでも(今はやりのナノメートルの距離でも)離れていれば、ショートしないということになります。

 このため家庭に電気を送る際に200V以下であれば、配線でどのようなミスをしても接触していないかぎりショートして火事の原因にならないことになります。うまく設定されています。

2025年01月29日

2.遮断器と遮断機

 電力系統で電流を入り切りする遮断器という機器があります。遮断器では無く遮断機はよく目にする機器です。電車が通る際に棒を上げ下げして人や車が線路に侵入しないようにする機器です。では、電流を入り切りする遮断器の「器」と線路に人や車を入れないようにする遮断機の「機」は何が違うのでしょうか。

 簡単な構造の機械は「器」を、複雑な構造の機械は「機」を用いるとのことです。開発当初の遮断器は、電流を遮断するのに接点を切り離して2つの電極の距離を開けるだけの構造でした。一方、遮断機は、電車が接近すると電車の通る2本の線路間を電車の車輪で導通することを検知して警報を鳴らし遮断棒を下ろし、電車が過ぎていったら警報を鳴らすのを止め遮断棒を上げるという複雑なことをしました。このため電力系統は遮断器と電車のものは遮断機と使われるようになったということです。しかし、今となっては系統の遮断器は大きな進歩を遂げ遮断機に比べて非常に複雑となっています。

 小さい電流なら接点を切り離せば遮断できます。一方、現在の電力系塗は通常の電流でも1 kA、地絡事故が発生すると30 kAを超える電流が流れるため接点を切り離しても電流はアークとなり流れ続けて遮断ができません。このためアークを冷却するためパッファという「ふいご」構造の機構により冷たい気体を吹き付けてアークを構成する高温でイオンと電子に分解したプラズマを元の分子に戻して絶縁性能を回復させて電流を遮断する構成をしています。特に地絡事故時の大電流は発生から3サイクル以内(50Hz区域では0.06秒以下、60Hz区域では0.05秒以下)に電流の遮断を完了する必要があります。何十日も動かずいた接点電極をこの時間内に静止状態から急に動かして開く必要があります。機械に精通する人であればこれがどれほど難しいかが分かると思います。

 しかも、雷による送電線の地絡事故は電流遮断を行って地絡現象が無くなるためすぐにまた送電を復活させるため接点を閉じます。この時、地絡現象がまだ続いていれば再度接点を開きます。この開極・投入・開極(OCO;Open-Close-Open)の動作を他からエネルギーを供給することなく遮断器内に溜めたエネルギーでおこなう必要があります。

2025年01月22日

1.感電には2種類ある

 感電に2種類ある、とはどのようなことでしょう。1つは可逆性的な感電、もう1つは不可逆性の感電です。この2つの違いを説明するために感電とは何かを明確にする必要があります。

 そもそも感電とはどのようなことでしょう。人間の組織は、大雑把に骨、脂肪、筋肉、神経、血液で構成されています。抵抗率は、骨>脂肪>内臓>筋肉組織>神経組織>血液となっており、電気を流しやすい抵抗の低い組織は血液と神経です。神経は脳で発生した電気信号を筋肉に与えて動かしたり、痛みや接触を脳に伝えるために電気を流しやすくなっています。逆に脂肪は非常に抵抗が高く良い絶縁物です。
このため高い電圧充電部に接触して体内に電流が流れるのは抵抗の低い血液と神経です。神経細胞は0.05 V、0.001 Aという程度の非常に低い電圧電流で信号を伝えているので、家庭に来ている100 Vのコンセント部分を触っただけでも過大な信号となります。この過大な信号が神経に流れ込むことが感電です。大抵は強烈な痛みを感じます。

 ここで可逆性感電と不可逆性感電に話を戻します。

 可逆性感電とはどのようなことでしょう。高圧充電部を触って神経に大きな電圧電流が流れて刺激を感じるけれども、神経そのものが損傷を受けず元の状態と変わらず電気信号を伝えられる感電です。冬に服を脱ぐときにぱちぱち音がしたり、絨毯を歩いてドアノブでパチッと音がして神経に電流が流れびっくりするものがこれに相当します。これは電気のエネルギーが神経組織を壊すことが無かったために、幸いに元に戻ったことになります。パソコンやスマートフォンでリセットがかかった状態と似ています。

 一方、不可逆的感電は、神経に流れ電圧電流が神経の電気抵抗でジュール熱を発生して温度が上昇して44 ℃を超える温度になり神経細胞が壊死してしまうものです。いわゆる火傷で神経細胞が壊死してしまうので2度と電気信号を通すことができなくなってしまいます。この神経細胞の壊死が腕で発生すれば腕が動かなくなり、心臓で発生すれば死んでしまいます。パソコンやスマートフォンの内部で電気配線が切れて故障した状態と似ています。

2025年01月21日