文化財級 交響曲
作曲家 ディミトリー・ショスタコーヴィチ
曲名 交響曲全集
指揮 ベルナルト・ハイティンク
演奏 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 1977年から1984年 キングスウェイホールほか
プロデューサー アンドリュウ・コーナル ほか
エンジニア John Dunkerley Collin Moorfoot
Simon Eadon James Lock 
John Pellowe
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.4
商品番号:4757413 デッカ  ステレオ 
解説
評価点数は全集の平均である。1977年から1984年までの7年間をかけて、ショスタコーヴィチの15の交響曲を録音したアルバムである。アナログからデジタルへの移行期の最中、デッカがレーベルとしての威厳をかけて取組んだプロジェクトである。いずれの録音も、ホールの空間的広がりを充分に意識し、空気感や奥行感を良好に捉えている。アルバムにはオーケストラもホールも複数あるので、各々の雰囲気の違いも伝わってくる。アナログ録音は、幾分ノイズ感を聴き取るが、反面、粘りのある骨太のサウンドに好感を抱く。デジタル録音は、エンジニアのノウハウがまだ十分に反映できていない様で、音像が散漫になっているものもある。デジタルとは言っても、さほど透明感は高くなく、いわゆるデジタル臭い質感に期待を裏切られるかもしれない。最も人気のある第5番「革命」においてその傾向が強く、アルバムの肝が欠けてしまっているのが残念である。それでも、15曲を総括してみればアルバム全体の完成度は格段に高く、デッカレーベルのデジタル移行が順調に進んでいったことが窺える。その20年前に打ち立てられたショルティ・ウィーンPoによる「指環」シリーズには及ばないものの、ショスタコーヴィチの交響曲録音が一部の楽曲に偏っていた当時、これだけの完成度で全15曲を仕上げたデッカのプロデュース力には敬服する。この全集は、スタジオセッションに拠って丁寧に進められた貴重な録音として、今後も愛聴されていくものだと期待できる。
各楽曲の録音評価を以下に紹介する。

第1番:1980年デジタル録音 評価8・9・8・9・9
各セクション、各楽器が見通しよく定位し、アンサンブルのつながりも良好である。オーケストラが一つの響きとして有機的に結びついていて、まとまりのある自然な音像に仕上がっている。デジタル録音初期にはなかなか得られない見事な仕上がりである。ホールトーンはさほど積極的には捉えられていないが、ステージ上のオーケストラが持っている自然な残響成分が音像全体を伸びやかで広がりのあるものに仕立てている。ダイナミックレンジも充分にあり、オーケストラプレイヤーの気配、アンサンブルの呼吸なども感じ取ることができる。左右への広がりのあるステレオイメージと、奥行への豊かな広がりが得がたい魅力となっている。

第2番:別項参照

第3番:1981年デジタル録音 評価9・9・8・9・9
左右へ一杯に広がるステレオ感が好ましい。ダイナミックレンジも申し分なく、各楽器が曖昧にならずに分離し、粒立ちの良い音像に仕上がっている。デジタル録音ではあるが腰のある重心の低い音像である。高音への倍音成分もよく伸びている。Tuttiでのffも破綻せずによく持ちこたえているが、若干耳障りな硬質感がある。しかし、最終楽章で合唱が加わるオーケストラ音像は、見事なダイナミックレンジで、荘厳にズシリと響き渡る。

第4番・第7番:1979年アナログ録音 評価8・8・8・8・8
音質に若干荒さがあるが、それが不満になるようなマイナス要素にはなっていない。ダイナミックレンジの広い骨太な音像であり。アナログらしい腰の据わった伸びやかな低音の質感が良い。高音もまずまず伸びている。

第5番:1981年デジタル録音 8・8・8・8・8
アルバム中最も凡庸な内容であり、他の録音が良い反面、この録音の仕上がりの悪さが悔やまれる。

第6番:1983年デジタル録音・12番:1982年デジタル録音 8・8・8・8・8
左右へ広がるステレオ感が素晴らしいが、音像が平面的で奥行への見通しも悪い。爽やかで軽快ではあるが、デジタルの弱さが露呈しただけだとも言える。

第8番:別項参照

第9番:1980年デジタル録音 8・8・8・8・8
空間的な広がりや奥行感は良好だが、各楽器の音像のまとめ方が曖昧で統一感がない。つかみどころのないオーケストラ音像になっている。全体に散漫な印象が否めない。

第10番:別項参照

第11番:別項参照

第13番:別項参照

第14番:1980年デジタル録音 8・9・8・9・9
クリアで透明度の高い高品質な録音である。各楽器の分離も良く、響きが干渉し合って曖昧になることもない。ホールの空気感も程よくブレンドされていて、空間的な広がりを狙った音像表現となっている。室内楽的な小編成オーケストラを、幾分近接的に捉え、独唱などはオンマイクで明瞭に納めている。実物大で生々しいオーケストラの迫力が伝わってくる。

第15番:1978年アナログ録音 9・9・8・9・8
アルバムの中でも、とりわけワンポイント的な雰囲気にまとめられた録音である。オーケストラの全景が距離感を持って見通せる。自然な音像表現が好感を抱く。
各楽器は小粒であり、ステージレイアウトも左右への広がりは程よく抑制されている。スピーカー間の中央に実物大に演出されている。オーディオ的な迫力には欠けるが、こうしたステージへの距離感が、ホールの空間的な広がりや空気感を伝えることに貢献している。Tuttiでのffでも過大なダイナミックレンジにはならず、耳障りな響きはまったくない。音像のブレもなく、終始穏やかなサウンドを楽しませてくれる。
ブラスセクションの静謐なコラールが澄み切った空気の中で美しく響く。またグロッケンなどの打楽器も、高音域までストレスなく伸びている。アナログ品質の最高レベルの内容だと評価できる。
文化財級