スクリアービン入門講座 by K.Hasida その1:
ショパンや印象派の影響を受けた???最初期作品
スクリアービンの作品番号は、ほぼ作曲年代順につけられています。
そこで常識的には、作品30未満が初期、30以上60未満が中期、
60以降が後期、と分類することになっており、ピアノソナタ4番とプロメテ
を新しい時期の始まりとみなすこの分類は十分に妥当だと思います。
今回はその初期のそのまた初期、作品20まで、を紹介します。
ショパンの影響を受けた???作品:
ピアノソナタ第1番作品6(葬送行進曲付き)、12の練習曲作品8、
24の前奏曲作品11他
・・・となりますと、タイトルだけでもショパンのピアノソナタ作品35
”葬送”、
12の練習曲作品10、24の前奏曲作品28が思い出されます
(なら、上記スクリアービン作品の中で一番有名な8の12がちょうど革命の
エチュードか。なかなかうまい)。CDの解説等見ても、もちろんそう書いて
ありますが、なにがショパン的・・・となるとスクリアービンの前にショパン
の
ことを書かねばなりません。
吉田秀和氏がショパンの作品について、”日記を書くように書いたと思える、
エチュードとマズルカが一番好き、まあ日記を書いていれば小説も書きたく
なるわけで、そういう曲も勿論好きだが”という意味のことを書かれたことが
あります。ショパンがとことん好きだとこうなるのかもしれない、と理解できます
が、共感はしない私はショパン好きではないのかな? 私は”こしらえもの”を
作る時のショパンのセンスが好きなのです。だから、マズルカよりポロネーズ、
エチュードよりプレリュード、バラードよりスケルツォ、の方を好みます。
この私の好みからして、上記スクリアービンの諸作品中一番分がいいのは
エチュードです。練習曲としての要素と、演奏会用作品にもなりうる音楽性を
兼ね備えた曲集であり、”もう1つの12の練習曲”と言えると思います。
そこに込められた情感はショパンとの時代の差を反映してますが、これは
これで素晴らしいと思ってます−−で済ませられるのが、根っからのショパン
好きでないところです。
作品8の12曲がまとまっているのは、私の手元ではソフロニツキのCDだけ
で、カップリングは作品11全曲、この人はスクリアービンの義理の息子という
ことですが、演奏はホロビッツ(CBS)ほどおもしろくはないものの、そうまずく
ないと思います(が、録音はよろしくない)。
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24の調性によるプレリュードでは急に分が悪くなります。ショパンの作品28
は個々の曲の統一感と24曲全体の統一感が見事に両立している傑作です。
色とりどりの各曲に引き込まれて全部聴き通した後に、大きな1つの作品を
聴いたという充実感があり、その秘訣は私ごときの理解を超えたところに
有ります。
それがソフロニツキのCDで、スクリアービンの作品11全曲を続けて聴くと
退屈するのですね。個々の曲はよく出来ているのですが、全体を見通す
形式感がショパンに全く及ばない。
その結果、ホロビッツが作品11にとどまらず作品13等も混ぜて再構成
することになるわけです。壮年期のホロビッツの音楽性が最初期の
スクリアービンのそれを上回ったからといって、スクリアービンをけなして
いることにはなりますまい。この演奏ではホロビッツの瞬間芸の凄さが堪能
でき、好みはあるでしょうが,、録音もモノラルですがホロビッツらしさを伝えて
いるように思います。これ(RCA)はスクリアービンのCDというよりホロビッツ
のCDで、そこが気に
いらないという人がいるでしょうが。
ガブリーロフも24の前奏曲と題して作品11から16曲をピックアップした録音
としていて、その理由も多分同じなのでしょう。
国内盤では”スクリアービンとその信者たち”というタイトルが付いていたと
記憶しておりますCDで、自作自演が聴けます。これに入っている作品11の1
のふわっとした広がりは素晴らしいものです、がこのCDを初めての人に勧める
気にはなりません。
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ショパンのソナタ2番も私にとって最上の”こしらえもの”です。3番と共に
第1楽章の第1主題再現を欠いていますが、ショパンは第1主題の再現の
あるソナタ形式をいくつも書いていてそういう曲の方がロマン派への傾斜が
はっきりしていること、古典形式を志向した時にむしろ第1主題再現を省いて
いること、にショパンの形式感がうかがわれると思いますし、その独自の
形式感はシューマンのイマジネーションをはるかに超越したところで作品35
を統一していると思って います。
で、スクリアービンのソナタ1番をみると、私には興味が持てません。ショパン
風の響きがすると言えるかも知れませんが、出だしの無理のある楽想を
引き摺り回しているところなんかはブラームスみたいにも見えます。ソナタ
全曲を購入した時についてきますから、それ以上無理して求めなくとも
よいでしょう。
#この投稿をするために聴き直した曲です。私に手元に今あるのはシドンと
#アシュケナージだけで、聴き直したのはアシュケナージの方です。この曲
#についてはどの演奏も褒めもけなしもしません。
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印象派の影響を受けた???作品:
ピアノソナタ第2番作品19”幻想ソナタ”
普通にはこの曲がスクリアービンで一番なじみやすいのかもしれませんが...
出だしの楽想がソナタ1番に続いて重ったるくてね...
弾く分にも弾きやすい方なのですが...2楽章でつらいところもあります...
#これも手元に今あるのはシドンとアシュケナージだけです。どんな曲
#だったっけ、という状態ではありませんでしたが、やはりこの曲の演奏に
#ついてはついては褒めもけなしもしません。
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で、結論を申します。スクリアービンの作品20までについては、ホロビッツ
のスクリアービン集、RCAとCBSの各々1枚ずつを入手して、そこに入って
いるエチュードとプレリュードを聴いてみて下さい。CBSのほうは国内盤
(32DC443という番号は古いですね)より、輸入のMK42411のほうが
盛りがいいですし、私は国内盤CDそのもので聴いていないので何ですが、
音も輸入の方がましと思います...まし、というのは、ホロビッツの録音で
はCBSが一番雰囲気が出てないとおもっているもので。