花鶏絵
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<第三十三回 比べてご覧 夜の星を>

・・・う〜ん、なんだったかしら?
アトリさん、こんにちは〜!
あれ?いきなり考え事ですかぁ?
あんまり考える過ぎると眉間にしわができちゃいますよぉ〜
(・・・アナタは考えなさ過ぎだけどね)
・・・以前、続きがあるように終わっておきながら、
その後、放置してしまったものがあったような気がしてね。
え?元々、そんな作品ばかりじゃないですかぁ?
『続きは夏!』っていうから心持ちにしていたら、
更に伏線増やして『続く!』って感じで終わっちゃったアニメとか・・・
いかにも続きます、って感じで終わって続編の製作記事も載っていたのに
いきなり製作中止が発表されて、ちゅうぶらりんになったRPGとか・・・
・・・いえ、あくまで花鶏絵の話なのだけど。
というか最初の例はいいとして、もう一つは分かる人がまったくいない気がするわね。

・・・まぁ、いいわ。直に思い出すでしょう。
それよりアナタが持っている絵は何かしら?
ああ、これですかぁ?
友達が珍しくメカものを描いてきたんです!

メカ

・・・何だか胴体部分にコアラがいるように見えるのだけど、多分、気のせいね。
それで、これについて何か聞きたいことがあるというわけね?
はい!友達はこれを描いた後に
メカの大きさの表現と画面の奥行きって
両立できないのかなぁって言ってましたぁ。
よく見かけるアオリで下からメカを見上げる構図は、
奥行きが出なくなるから使いたくないらしいんですよぉ。
(・・・何だか既視感(デジャヴ)を感じるわね)

・・・ああ、それね!
わっ!
急に大きな声を出して、どうしたんですかぁ!?
・・・思い出したの、さっきのアレを。
『地平線上のアリャ』がまさにそんな内容の説明をする前で終わっていたの。

とりあえず、この絵のメカが大きく見えなくて、
画面に奥行きがないのをどうにかしたい、ってことなのね?
え?ええ、早い話、そういうことみたいです。
でもその『地平線上のアリャ』の時に、
『目線(アイレベル)の高さが地平線』ってあったじゃないですかぁ?
だとすると、この絵のメカの足首あたりに人の目の高さがあるわけだから
もっと大きそうに見えてもおかしくないんじゃないかなぁって思うんですけどぉ・・・
・・・って覚えてはいたのね、アナタは。
でも、どうもあの時の話をちゃんと理解してはいなかったみたいね。
画面における地平線の高さはあくまで
『水平に構えたカメラのレンズの高さ』と説明したと思うのだけど・・・
もしかしたら、別の心理トラップに嵌っているのかもしれないわね。
別の心理トラップですかぁ?

あっ!そういえば、あの時にコレだけ接近していたら、
アイレベルより上の部分がアオリになっていないとおかしいって話がありましたね!
つまり地平線の高さをメカの足首にしたまま、メカのサイズを小さくすれば・・・

メカ遠景

画面の比率的には小さくなっちゃいましたけど、
さっきよりは大きく見えるような気がしませんかぁ?
・・・何に対して?
えっ!?何にって・・・
ああ!確かに大きさの比較対象がないですねっ!

そういえば、あの時に『手前と奥にキャラを配置すれば奥行きが出る』
って話でしたから、友達の描いたキャラを手前に配置すれば・・・

メカ遠景+キャラ

ほら!
何となく奥行きが出てきた気がしませんかぁ?
・・・まさに心理トラップに嵌っているわね。
アナタが今した配置の場合、
メカとキャラのサイズ比はこういうことになるのだけど、問題はないかしら?

メカ+キャラサイズ比

いえいえ!こんな人間大サイズのメカじゃないですっ!
せめてダン○イン位のサイズをイメージしていたのですけど〜
何でこんなことになっちゃたんですかねぇ?
(・・・微妙に分かりにくいわね。10m以下ってこと?)
地平線の高さが『水平に構えたカメラのレンズの高さ』だから、よ。
最初にアナタが言ったように『メカの足首あたりに人の目の高さがある』位の高さを
イメージしていたのなら、こうすればいいということになるわね。

メカ+キャラサイズ比

あっ!確かにコレくらいのサイズ比をイメージしてましたぁ!
『人の目線の高さにメカの足首が来る』のだから、
キャラの目線高さを足首に合わせればよかったんですねぇ!

そういえば、『地平線上のアリャ』の時にも
『地平線の高さにあるものはカメラと同じ高さ』という話がありましたけど、
同じサイズのキャラを並べていたから、気付きにくかったんですね?ね?
(・・・一般的な理解度がどうかは知らないけれどね)
・・・確かにそれもあるのだけど、それ以上に心理トラップになっているのは、
『未知のもののサイズは既知のものに依存する』ということね。
えっ?
どういうことなのか、さっぱりなんですけど?
これも心理トラップカードが発動しているからなんでしょうかぁ?
(・・・トラップカード?)
・・・今回みたいなメカ、それ以外にもモンスター、想像上の建造物の場合、
描いた人はサイズをイメージすることができるけれど、
見る側にとってはそのサイズをイメージする手段がない。
だから、最初の二つの例のように、メカ以外に対象物が存在していない上に
遠景のビルとの距離感が分からない状態だと全くメカのスケール感が伝わってこないの。
またそれゆえにアナタが最初に直したメカとキャラが
実は同サイズの配置でも何となく成立している気がしてしまったのね。
なるほど〜
だからキャラを追加した時に、初めてメカがイメージしているサイズなのか
違うのかが判断できる状態になったということなんですねぇ?
・・・アタシは判断ミスしていたみたいですけど。
 そういえば『SMALL・ク・LOVE』の時にも
比較対象を追加すると大きさが伝わりやすいみたいなのがありましたね!
(・・・あの時はいい例ではなかったけれどね)
・・・逆に考えれば、絵の中にキャラという既知の存在があると
サイズの判断基準がそれに縛られてしまうということでもあるわね。

・・・さっきの例でいえば、実はこのサイズ比をイメージして描いても
見る側に物凄く違和感を与えてしまう、とか。

メカ遠景+キャラ

いやいや、メルトランディじゃないんですからぁ〜
こんなサイズの女の子がいたら『ヤック・デカルチャ〜!』じゃ、すみませんよ?

・・・でも確かにそういう時はどうすればいいんでしょうねぇ?
あっ!何だかウルトラマソみたいな特撮にシチュエーションが似ている気がしますね!
アレも本来は人間大のサイズのものを大きく見せているわけですから!
(・・・また分かりにくい例えを)
・・・その通り。
その特撮でよく用いられる手法が『地平線上のアリャ』の最後で触れた『ナメ』なの。
『ナメ』ですかぁ!
あの時はそのまま終わっちゃったんで言えなかったんですけど、
故・実相寺監督が好んで用いた『手前にモノや人物を置いて、
それ越しに対象を撮ることで遠近感を表現する手法』ですね!
さっきの例でそれ風に表現するならば・・・

ナメ

こんな感じですね!
昔の特撮モノだとよくヒーローの股の間越しやビルの越しに
ローアングルで怪獣を撮ったりして、作り物のビル&怪獣なのに
実際のビル越しに巨大な怪獣を見ているようなスケール感を表現してましたからねぇ!
 手前に置くモノによって表現されるテーマも変わってきたり
画面手前側に何かがいるようにも想像させることができたりと
特撮だけじゃなくてアニメ・漫画・イラストにも応用の効く技術ですよね!
(・・・変なスイッチが入ってしまったのかしら?)
・・・ええと、まぁ、そうね。
要するに奥行き感を出したい場合、特に対象が現実に存在しないものの時は
既知のものをサイズの判断基準として描写して、
それでも奥行き感が足りないと思ったら、
カメラ高さとサイズ比が伝わるもの(人や樹や郵便ポスト等)越しに描写すると
手前と奥のサイズイメージが伝わりやすいとは思うわね。
・・・ただし、今回の話も以前の話もあくまで簡略化した遠景絵の説明であって、
どちらもパース(遠近法)的な話をあえて端折ってるから、
対比を表現したいイメージイラスト的にはいいけれど、
厳密な背景描写に当てはめるのはお薦めできないかしらね?
・・・ちなみに『ナメ』の場合、
ピントを手前側か奥のどちらに合わせるかによっても
視点側の対象がどちらに合っているかを表現できるんですよねぇ!
イラスト的にいえば、ぼかしや明度差によって表現できたり・・・
(・・・まだ続いていたの?)
・・・とりあえず変なスイッチ入ってしまっているこの子は置いておいて

・・・それでは、またの機会に。

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