愛知県碧南市 すれ違う人々に挨拶をしたくなる気持ち 「ちいさな橋」を渡る
<堀川に架かる橋で最も小さな橋「上源氏橋」 西へ向かえば大浜・西方寺の太鼓堂前へと出る。乳母車を押したおばあちゃんが好んで渡る橋、すなわち乳母道ならぬ「乳母橋」であるか> 堀川に架かる源氏橋と子種橋との間に幅2メートル、長さ9メートル30センチのちいさな橋、「上源氏橋」がある。 橋の東岸が176センチ幅しかなく、自動車が往来する事が出来ない為、人道橋となっている。 昭和59年(1984)に護岸工事されたが、橋下には昔からの石垣がいまだ残り、フナムシが顔を覗かせる。 大昔には棚尾が海に囲まれていた事を知る人は少ない。橋下の堀川は、流れ少なく穏やか。羽を休める白鳥や甲羅干しを楽しむ亀。 静かな雰囲気の為か、乳母車を押したおばあちゃん達が好んで渡る橋である。
<お屋敷の格子窓が続く静かな小道。棚尾の偉人である美術工芸家・藤井達吉の生家跡。そして源氏町の地名と長田一族の関係。今日、碧南市で活躍する長田一族の出発点はここ> 上源氏橋を渡れば、緑多い中に黒壁の屋敷が見える。川岸を歩き、その屋敷のほうへと東に進む。 軽自動車でも無理という狭い幅の道、立派な蔵、古い屋敷の格子窓がいつまでも続く。 すれ違う老人が、私のぶら下げるカメラを見て教えてくれた。「あそこの曲がり角は昔、藤井達吉さんも生家があった」。 聞けばここは源氏町。古くて立派なお屋敷には「長田」の姓が目立つ。 そもそも源氏という地名は、野間の変で危機を感じた長田親致は乳母・初音を頼って、応保2年(1162)にこの地へ移り住んだ。 故にこの地は源氏と呼ばれたのである。
棚尾を散策していて驚くのは、不意に店が現れる事。 住宅が立ち並び、まさかこんな場所では商売が成り立たないだろうというような場所でも、ひょっこりと店の軒先が現れるのである。 これは棚尾の街が古くから栄え、歴史を大切にしている事の証である。 またその現れた店も時代を感じさせるもので、中には「映画のセットではないか」と疑うような素晴らしい景観を持つ店もある。 「地元の私でさえも、時々自分がどこにいるか分からなくなる」と通りすがりの御婦人が話す程、入り組んだ路地の多い棚尾。 迷い込んだ路地に可愛らしいお店などを見つけたら、なんだかとても嬉しい気分になる。
< text • photo by heboto >