愛知県碧南市 蟹汁を手にする事は可能だろうか?
<蟹…なんと人を惹きつける言葉だろうか。綿密なる私のスケジュール帳には「蟹汁の無料接待」の文字が太書きで示され、争奪戦への覚悟を決めている。大浜漁港にて振る舞われる「蟹汁」は訪れる人々全てが待望する品。定刻通りに出向いてみれば既に長蛇の列に焦る> 正午を境に人の波は西の「大浜漁港」へと向かう。午後12時30分から始まる限定2000食の「蟹汁」を求めての大移動だ。定刻には既に長蛇の列が出来ており、暢気に構えていた私は焦った。 すぐさま列最後尾に並んで順番を待つ。自分の前で、「ハイ、終了! ここまで」とならないか、ドキドキしながら前を覗く。 嬉しそうに蟹汁を抱えた人たちが私の横を通り過ぎていく。赤テントが近づいてきた。 中で赤パッピを着た女性達がテキパキと動いているのが見える。 割り箸を渡す人、カップを並べる人、蟹汁をそそぐ人と仕事が分担されている。彼女らは漁師の妻で構成される婦人会の人達という。
<無事に獲得した「蟹汁」を手にほくそ笑む。ドキドキとした心配も杞憂に終わったようだ。行列の間を抜け、潮風薫る漁港の岸壁で味わう。蟹汁の美味しさに人気の秘密を理解した。休日午後の緩やかな雰囲気に幸せな気分> 流れるような行程に、いつしか私の手にも湯気の立つ蟹汁が施される。その美味しそうな香りに頬肉があがる。しかし困ったことに気付いた。腰を下ろす場所がないのだ。蟹汁の蟹を立って食べるほど、私は器用ではない。 困惑するうちに人の波が私を攫い、みんなが食べている場所、大浜漁港岸壁へと流される。 ポカポカした陽気、潮風に当たりながら、みんな蟹をほおばる。家族連れの楽しい行楽。 彼らの方向を向いて食べる訳に行かないので私は海の方を向く。 ゆっくりと波に揺られる漁船を見ていると、自分の肩まで同じリズムで動いてしまう。 なんだか心地よいボサノバを聴いている気分だ。午後の日差しが緩やかな空気を生み、幸せな一日を提供してくれた。
松江代官所の代官であった「鳥居牛之助」。その妻の病を治した事に由来するという「妻薬師堂」。 謎多き寺院としても知られ、堂内には由緒不明の仏像たちが所狭しと並んでいる。 境内には称名寺との関連も噂される十王堂や往時は周りを囲んで”念仏踊り”が行われたという赤灯籠の地蔵堂がある。 さて、この「妻薬師堂」、本日は大きなイベント等は催されていないはずである。 なのに堂内からは、和楽器の美しき調べ。パンフレットでは、世話役による「お薬師さんついてのガイド」と記載されているのみなのに。 妻薬師堂内を覗いてみれば、人たちが楽器を持ち寄り、各々に音色を奏でている。 紫に飾り付けられた堂内、仏像達と相まって、その光景は極楽のように見えてきた。 ■第10回『極楽の情景が広がり薬師寺』へ
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