「プロダクション・マネージャー」は次のように説明される。「予算を編成し、撮影スケジュールを作成し、映画製作の全局面の進行をはかり、全ての支出を承認することについて、プロデューサーに対し責任を負う者」(『映画製作用語辞典』より)。プロデューサーの業務は、企画、資金調達、映画製作及び資金回収の全局面にわたる。しかし、一人の人間が全ての業務を完璧にこなすことは物理的、時間的に困難である。プロデューサー業務の全局面を対外業務と対内業務に分けるならば、対内業務担当として職能分化した製作管理者が必要となる。これがプロダクション・マネージャーである。プロダクション・マネージャーはプロデューサー又はライン・プロデューサーに雇用される。 |
著名なライン・プロデューサーであるポール・マスランスキー(Paul Maslansky)は次のように述べている。 |
「監督が決定されているとして、私が最初に雇う者はプロダクション・マネージャーである。彼は会計士とともに私の片腕となる。彼らは映画に対する財務的な管理を行う。プロダクション・マネージャーは日々の費用を承認し、監視する。会計士は各部門で支出された日々の費用をプロダクション・マネージャーに報告する。過去の映画製作から評判の高いプロダクション・マネージャーを選択することは重要である。」 |
プロダクション・マネージャーの職務内容を見ると、その範囲は限定されているようである。@スケジューリング、A予算編成、Bビロウザライン・コスト(Below-the-line
Cost:内容は後述する)の執行管理、などである。例えば、ロケーション当日雨が降ったとしよう。スケジュールは直ぐさま組み替えられ、これに伴う増加コストが算定されることになる。もし、予算をオーバーすることが予想されるならば、不必要な予算の圧縮や新たな資金調達が必要となる。こういった、細かく根気のいる作業を担当する者がプロダクション・マネージャーなのである。有能なプロダクション・マネージャーなくして、投資家の厳しい監視の目にさらされる現代の映画製作は難しいと思われる。 |
では、日本におけるプロデューサーの現状はどうだろうか。1994年に出版された『芸術経営学講座4 映像編』の中でプロデューサーの飯泉征吉氏は次のように述べている。 |
「映画製作の主流は、これまでの映画会社を中心とするものから、異業種企業の資金をたよりとする個別プロジェクトによるものへと移ってきている。その事実を視野に入れて、これからの映画製作を考えるならば、プロデューサーの業務内容に、注意すべき変化が起こっていることを意識しないわけにはいかない。それは、プロデューサー業務の明確な分化を要求する変化の波である。つまり、映画にかかわる日常的活動が本質的に異なる二人のプロデューサーの二人三脚による映画製作が一般化する傾向にあるのだ。すなわち、現場を中心とし、製作全般をとりしきるプロデューサーと、製作資金の調達とその回収を任務とするプロデューサーとの二人による共同作業で映画は製作されるようになりつつある。」 |
かつて製作・配給会社であった映画会社が配給に重点をおくようになった今、製作資金はその他の外部から調達される。外部資金の運用は自己資金よりシビアーにチェックされ、報告義務が課せられる。プロデューサーの業務は確実に増えており、スケジューリング、進行及び財務を中心としたもう一人のプロフェッショナルすなわちプロダクション・マネージャー的な職能が必要とされるのである。
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1994年当時と現在(2001年)とどれだけ違っているのかは分からない。しかし、現在でも日本においてプロダクション・マネージャーが職業として確立しているとは思えない。職能分化が始まったところと見るべきだろう。今後、映画製作先進国の米国から謙虚に学ぶべきことは多い。 |