もちろん、プロデューサーは以上の全ての役割を常に果たすわけではない。脚本家や監督から脚本を持ち込まれれば、@及びAは省略されるし、スタジオ・ディール(Studio
Deal:内容については後述する)の場合には、F及びGが製作会社によって行われる場合がある。また、資金調達に「完成保証」(Completion
Guarantee:内容については後述する)を利用した場合には、Hの一部が他の機関によって実施される場合もありうる。
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一つの作品についてプロデューサーが関わる期間は、1年かそれ以上である。段階を一つずつクリアーし、完成に至る道程は困難を極める。一旦製作が始まれば、プロデューサーの仕事は予算内に及びスケジュール通りにいかに完成させるか、に集中する。その過程で予想もしない様々な危機が訪れる。プロディーサーとして名高いデビッド・パットナム(David
Puttnam)は、「プロデューシングは危機管理であり、それをうまく乗り越える能力を持つかが良いプロディーサーと悪いプロデューサーを区別する。」と述懐している。 |
製作資金のほとんどは外部から調達される。プロデューサーはこの資金を有効に運用し、余剰金を含めて返還する責任を有する。さらに「完成保証」がつけられた場合は(スタジオ・ディール以外の製作については「完成保証」を要求されることが通常である)、撮影段階において日常的な外部監視が行われることになる。プロデューサーの手腕は様々な面で試され、そのプレッシャーは強い。しかし、その中で当初の予定通りに作品が完成し、資金回収にも成功した場合のプロデューサーへの見返りは大きい。一つは名声であり、いま一つは報酬である。 |
名声はそのプロデューサーの将来にとって決定的な要因となる。ただし、その評価の仕方が米国とヨーロッパで異なるのは興味あることである。デビット・パットナムはこう述べている。 |
「米国のシステムでは、あなたが優れた映画を予算内でスケジュール通りに完成させれば、興行的に失敗したとしても、あなたの失敗とは見なされない。あなたは適切に映画を完成させた者として記憶される。他方、ヨーロッパではあなたがどんなにうまく映画をプロデュースしようと、興行的に失敗すれば、あなたが失敗したと評価される。」
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米国では出資者の製作に対する影響力は大きい。出資者は基本的には「パッケージ」の内容を吟味検討した上で、出資の是非を判断する。従って、「パッケージ」は出資に関する契約書の一部となり、法的文書となる。例えば、「パッケージ」に含まれる脚本を出資者の合意なくして変更することはできない。このことは、出資者は自己の判断、つまり自己責任において出資することを意味する。結果として興行的に失敗しようと、それは出資者の判断のミスであり、プロデューサーの責任ではないのである。米国とヨーロッパの違いは、米国では作品に対して出資し、ヨーロッパではプロデューサー又は監督に対して出資する、といったシステム上、慣行上の違いに基づくものであろう。 |