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おたより紹介  たなばた
pugさんの銀河エッセイ

 星祭りも近づき宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」を読み直しました。果てなく広がる銀河の流れは人間の空想や創造力を奮い起こさせる不思議な力があります。人力及ばぬ宇宙空間なればこそ星にまつわる話や姿も幾年時空を超え今尚、新鮮な感動を我々に与えてくれます。醜悪な汚辱が及ばぬ遠い異次元で孤高に輝いていて欲しいものです。科学は宇宙の不思議をも解明しつつありますがそれはほんのさわり。そんなことで久遠の宇宙を征服し得たなどとの奢りは許されませんね。宇宙を知ることは人間を知ることなんです。

 「銀河鉄道の夜」はカンパニーラとジョバンニという二人の子供を通して死とは何か、死んだら何処へ行くのかとの人間の永遠の疑問を美しい銀河の流れに託して悟らせるものです。銀河に敷かれた軌道をゆらゆらと音もなく走る銀河鉄道。乗客は一人、二人と黙って降りて行きます。どんなに心通わす親友でも決別の時は来る。銀河鉄道に乗車した時からその人生は始まり、様々の乗客を乗せ幾つかの星たちを通り、星団を抜け何処までも何処までも銀河鉄道は走り続けます。乗る時も降りる時も運命の糸によってのみ許される音のない不思議な空間。

 宮沢賢治の偉大さは死への畏怖を美しい銀河鉄道という空想の世界に昇華させ人間の限界を悟らせたことにあるのでしょうか。限界を思い知ることで意義ある生き方を悟るのですから。銀河鉄道の中途駅さそり座のさそりの言葉がいい。「自分は今まで他の動物たちを食べて生きてきたけれど、どうせこうして死ぬのならあの飢えたイタチに素直に我が身を食べさせておけば良かった。必死に逃げたのが悔やまれる。自分の一生は一体何だったのだろう?」

  地上から来る生き物たちの魂を優しく包む銀河の流れの中で人間も小さな小さな一つの存在。宇宙からはほんのひとかけらの塵。銀河の星たちは我々の心も命も、その行く手さえも全てを知っている!

by pug

 星空の遠い遠い宇宙の果てからたった一人の自分が選び出されこの世に生まれてきた我々。科学の進歩で今ではクローン人間も理屈では可能になりましたが人工人間とは違うんです。神が母に預け母の陣痛の苦しみを以てやっとこの世に送り出してもらった本当にたった一人の大切な命。だから誰でも神から見れば大切な宝。そう思いながら星空を見上げると何かとても幸せな気分になれます。親子の愛の絆の原点はそんな小さなことだと思うの。社会的なものや生活のシステムに飲み込まれて生きる間に大切な原点を忘れてつい自我を通したくなるのが人間なのよね。他人にもあれこれ思い通りにしたくなったりして。
 自我を通すためには他人の干渉を嫌うのに他人だって同じということが見えなくなってしまう。それで互いに不信感を増幅させ不幸になっている人の何と多いこと。親子でさえもそうなんだもの、ましてや他人の集まりの社会では尚更。繊細な心の人ほど傷つくの。矛盾してますよね、心優しい人が傷つきそうでない人は高笑いなんて。でもそれが現実。だから皆、生きることの疑問に悩むのですね。

 人間は多くの経験を重ね成長し色んなことを求めます。そして挫折します。やりたいことと出来ることは違いますが、やりたいことを出来ることと信じるから希望が始まるのですね。星まつりの願いを「出来るんだ!」と信じて明日からも生きられれば…。人生なんてホントは苦しく辛いことばかりだから楽しいことが輝いて見える。輝いている人は見えない処で苦しさに耐えている。幸せの形はみんな似ているけれど不幸の形は人それぞれ。苦しんでるのは自分だけじゃない!そう思いながら肩の力を抜いて。お星様もそういって笑ってるようです。

by pug

 夜空に輝く星を眺め、遙か宇宙の彼方からの流星の群を求めて旅する人の心は既に星と一体になっている証し。愛する流星群に逢える喜びは恋人との逢瀬に似て、胸躍るひととき。星に逢いに行くのではなく星が我にこそ逢いに来たと思えばなお心震えるひととき。心離れ、争い、ねたみ続けるのが人の宿命なら、星は星を愛する人の愛に応えただひたすら輝きを以て受け容れてくれる。どんなに汚れた人の心をも。裏切りも汚れもない輝きが傷つく人の心を優しく包み隠してくれる。この地上では癒されない煩悩の痛みを星に癒されたくて人は星を求める。星にはそんな不思議な力があるのだ。

 「希望」「救い」「指針」「幸福」「癒し」と幾つかある星の代名詞がそれを物語る。暗い夜空にあってもどんな時にもその輝きを失わない星たちは我々人間の希望の光なのだ。そして求めても手に取ることの出来ないその孤高さに神秘を感じさせる。故に人は星に願いを託すのか。太陽、月、雲、地球と幾つかの天体の神秘の中で星だけが人の願いをすくい取ってくれる唯一のもの。太陽は強すぎて、月は弱すぎて、地球は余りに身近すぎて、雲はとりとめなく去って行く。だから、星だけが人が心の襞にしまってある悩みの数々を受け容れてくれるのだ。暗い夜空は病んだ弱い心にはお似合いの優しいベッド。誰にも涙を悟られず星は心の痛みを癒してくれる。愛しい星たち。恋人の胸に抱かれるように星の柔らかな光に抱かれて人はまた明日を夢見て立ち上がる。

 天体のロマンは人をも誰をも受け付けず、神のご意志をのみ受けて生きる異次元の世界。そこには下界の人間の出る幕は用意されてはおりません。人間は神の御技を驚異と感嘆と敬虔の目で見上げるばかりです。それでいいんです。天体のパノラマの美を手に入れたいと願うのは人間の愚かな願望ですが、望んでも手の届かないものがあることをこそを認識するだけで人間は本来の人間になれるんです。天体を征服しようなどと大それた望みを抱かないだけでも救われるでしょう。
 その救いとは、人間の心に棲む、全てのものが叶うと思いこむ人間の愚かさから救われることです。人が人を相手に争い、権力を得、思うままに振る舞い、自己の傲慢と慢心に酔いしれる、この世の歴史の輪廻を、宇宙の星たちは戒めているのです。どんな権力者であろうと征服者であろうと、宇宙の星くずの一つをも手に入れられないし動かせもしない。地上の権力の虚しさを星は戒め、諭すのです。大いなる流星群となり、連星となり、我々の思い及ばぬ天体の事象となって我々に語りかけるのです。
  「お前はそんなに自分の力を信じるが、お前は自分の命を支配できるのか?一羽の雀の命さえも支配はできぬのに。見よ、この世界を。お前の計り知れぬこの未知の世界を」
 人工衛星や月ロケットが打ち上げられる時代になっても、本質的には神の摂理は何も変わりません。そんなことで大いなる宇宙、大いなる神を人間が征服できたなどと幻を見てはいけません。我々は宇宙の神の御技を下界で見上げて、その美を、その神秘を、そのロマンを楽しみ、神を賛美するのです。獅子座流星群もそんな謙虚な気持ちで見上げられれば、星たちは益々その美を我々に提供してくれるでしよう。純粋に星を愛し、宇宙に於ける自分を知れば、その時こそが星と一体になった証。その時こそ、人間は自由に宇宙を駈けることが出来る!
 星くずの散らばる夜空は神と人間との対話の空間。時空を越えて星に語りかける時、星も微笑みを以て我々に応えてくれることでしょう。海も山も鳥も魚も、あらゆる地上の生き物たちの住むこの美なる地球も、そう、大いなる宇宙の星の一つ。

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