当時は輸入車のあいだでも、インジェクションが主流になりつつありました。そんな中、私のサンクはまだキャブレター式で、チョークを操作しなければならない車でした。それまで乗っていた国産車は、同じキャブレター式でもオートチョークだったので、その存在すら知らなかった機械オンチの私にとっては小さな驚きでした。
最初はやはりヘタで、一発でエンジンをかけることがなかなかできません。何回か経験を重ねるごとにだんだんコツをつかんで、チョークのひき具合、また同時にアクセルを踏み込む加減などが感覚的にわかってきました。一発でうまく出来たときの「よっしゃー!」というこの快感。単純だけど、この年式のサンクに巡り会わなければ味わえないまま終わったでしょう。”あばたもエクボ”といったところでしょうか? しかし、そう呑気にもしていられなくなってきました。サンクの困ったクセが出てきたのです。
エンジンをかけることに慣れたはずなのに、なかなかかからなくなった時期がしばらく続きました。オーナーの私より上手い夫でも時々。バッテリーのせいでもなさそうです。点検に出しても事態はあまり変わらず、特に冬場がダメでした。そうかと思うと予想に反してヤケにすんなりかかったり・・・。そのうちに私たちは、「これはウチのサンクの、どうしようもない性格かクセのようなものだ。」と感じるようになり、気長につき合っていくことにしました。
そんな事が続いて、エンジンキーを回すたび、自然と「今日のサンクさんのご機嫌はいかがなもんでしょう。」と心で呼びかけるようになりました。ご機嫌ななめの場合、まだ自宅だったらいいのですが、これが出先でだとやっぱり恥ずかしいし、困ってしまいます。私の場合、あせって何度もアクセルを踏みすぎ、プラグにガソリンが被ってしまって、しばらく時間をおかなければならなかったこともありました。それでも一度かかってしまえば、あの素晴らしいしっとりとした走りを楽しむことができたのです。そして、後でラッキーだったなーと思うことは、いくら気まぐれでも、出かけた先で全く動かなくなってしまったことは一度もないということ。サンクの思い出話になると「そういえば、いつもちゃんと家に帰れたよねぇー。」と、よく夫と妙な感心(?)をしています。
結婚3周年の折に、結婚式をあげた教会のレストランからの招待で、フランス料理を食べに行く機会がありました。普段よりもちょっとおしゃれをして、当然のごとくサンクで出かけました。その帰り、お腹いっぱいになって気分良くサンクに乗り込んだものの、あれっ?エンジンがかからない!セルの音はするのにかからない。ちょうどその駐車場の隅では、シェフとギャルソンらしい方が立ち話をしていたようですが、私たちの様子に気付いて、こちらを心配そうに見ておられました。すぐ夫にタッチ交代。気を取り直し、慎重に何度かトライすると、無事にエンジンがかかりました。いつもの、少し低めのエンジン音が響きだしたとたん、なんとその様子を見ておられたお二人が、パチパチパチ・・・!笑顔で拍手してくださったのです。もう、恥ずかしいやら、照れくさいやら・・・。なんとか夫の面目も保たれ、忘れられない3周年記念になりました。
こんなふうに、サンクのいたずら(?)のおかげで、今となっては楽しい思い出もできましたが、気まぐれもほどほどにしてくれないと。しかしやっぱり私って扱いがヘタだから、サンクのせいばかりでもないかも。 そんな時期が過ぎると、メカニックさんの努力の甲斐もあって、まあまあ素直な落ち着きを見せてくれるようになりました。
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