「噛むほどに味がでる」と言いますが、サンクはまさに、乗るほどに味がでる車でした。ルノー乗りの方なら、よくご存知ですよね。あの、ルノー独特の何とも言えないしっとりした足まわりと、柔らかいのにしっかりしたシート。特に高速時、地面に貼り付いたようなドライブ感と低いサウンドが、アクセルやハンドルから伝わってきます。これがけっこうクセになるのです。国産車の時は、高速時になるとハンドルがグラグラしてとても恐かったのに、サンクになったらこの安定感!ATでこれですから、MTならきっと、更にドライビングを楽しめるでしょうね。というわけで、このクラスの国産車ではあり得ない乗り心地を体験してから、こんなちっぽけな、ごく普通のフランス車の値段が高いのも、なんだか納得してしまったのです。サンクの内装も好きでした。人にまったく媚びるところがなく、笑っちゃうほどプラスティッキーでそっけないインパネまわり。ちょっと斜に構えた(これはあくまでも私の勝手な印象)フランスのお国柄を象徴しているようで、妙に気に入ったのでした。
サンクが我が家にやってきた時、夫のパンダはもはや2代目でした。というのも、1代目のパンダは買ってから2年も経たないうちに、玉突事故の犠牲になってしまったからです。私たちの結婚もすでに決まっていた春の日、二人で買い物に出かけた時のことでした。計3台の玉突事故で、私たちはその真ん中でした。幸い大きな事故ではなく、誰もたいした怪我はしなかったのですが、パンダは無惨な姿に・・・。恋人時代の大切な思い出が詰まった白いFIAT
PANDA Superとの、予期せぬ別れでした。 そしてカレは迷うことなく、次の車もパンダ(Super、モナコブルー)に決めたのです。白いサンクと青いパンダ、そんな2台を並べてみると、産まれた国はちがうものの、古くからよく知っている友達どうしのようで、私たちにとっては微笑ましい光景でした。
パンダもとても魅力的な車でした。ムダなものはほとんどそぎ落とし、現代の車でありながら、自動車の原型とも言える潔さ。それでいて、広い空間と人を惹きつけるジウジアーロのデザイン。サンクとは対照的な乗り心地ですが、ダイレクトなおもしろさがあります。本当に楽しそうに、まるで自分の手足のようにパンダを操る夫の姿を見ていると、助手席に座っている私にも、自動車を自分で動かすことの楽しさが伝わってくるのでした。また、パンダならではのダブルサンルーフ!!サビに一番弱い場所ではあるけれど、そんなことは許せてしまうほどの心地良い開放感!見た目もチャーミングだし。開け閉めは手作業だけど、慣れるとまたこれがイイのです。信号待ちの時、タイミングを計りながらいったん車外に出て、二人でパタパタと開け、何事もなかったかのように車内に戻るという、スリルあるパフォーマンス(?)をやったこともあります。(危険なのであまりやってませんが、くれぐれもマネしないように。しかるべき場所に停めてからやりましょう。)
それぞれの車の性格上、パンダは街乗り用、サンクは遠乗り用と使い分けて楽しんでいました。今でこそ、輸入車は珍しくなくなりましたが、そんな小さなラテン車2台と私たち夫婦の生活は、世間一般の人からすれば、いささか奇妙な感じに見てとれたかもしれません。たまに見かける欧米人の方たちからも、日本には安くていい車があるのに何でわざわざ・・・と思われていたかも。時々「これ何だろう」と露骨にエンブレムやロゴを覗き込む人がいたり、立ち止まってジーッと眺めるおじさんもいたり。でもそんな視線すら、小気味良く感じられたものでした。そして、「あら、この車かわいいわね。」とか、「へぇー、小粋な車に乗ってるネー。」などと声をかけられると、それがたとえお世辞であっても、やっぱり嬉しくなりました。
ある時コイン洗車場で、なんとシトロエンCXを洗っていらっしゃる方に出会いました。私たち夫婦はサンクの洗車もそこそこに、勇気を出して話しかけてみました。当時でも既に珍しかったCXをじっくり見たいということに加え、ディーラーの人たち以外に、愛車についての思いの丈を話す相手が身近にいなかったので、少数派としてはつい嬉しくなってしまったのです。CXに相応しい落ちついた感じの方でした。また車内には、仕事の書類などを無造作に積み込んであるところなんかがとてもサマになっていて格好よく思えました。しばし歓談した後、その男性はポツンとひと言、「サンクかあ、アシがわりに一台欲しいなあ〜。」・・・・・うーん、さすがハイドロを扱っていらっしゃるだけある、余裕のお言葉でした。
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