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31.火天の城 (2009年日)<3.5> 
 [監督]田中光敏
  [出演]西田敏行、福田沙紀、椎名拮平、大竹しのぶ、寺島進、山本太郎、水野美紀、石田卓也、緒形直人
  [時間]139分
 [内容]天正四年(1576年)、熱田の宮番匠、岡部又右衛門は、ある日、突然織田信長から安土城の築城を命じられる。し
   かし、その後、城造りを指揮する総棟梁になるには、名だたる番匠達との指図(図面)争いに勝たなければならない事態
   に・・・。信長は巨大な吹き抜けという前代未聞の注文を出していたが、指図争いの席で、又右衛門だけがただ一人、確
   固とした信念のもと、その要望をはねつける。当然のごとく激昂する信長を前にしてもその信念は揺るがず、ついには
   信長を納得させて総棟梁の座を勝ち取る又右衛門だったが…。
  [寸評]山本兼一の同名小説の映画化。織田信長に登用され、安土城の築城を任された名もなき宮大工が職人の誇りを懸
   けて挑む一大プロジェクトの全貌を、家族や門下の仲間達との人間模様を絡めて描いた内容。私は大学時代、2年超、安
   土でバイトをしていたので安土城の築城を描く本作品には劇場公開時から強く関心を持っていた。豪華なキャストで金を
   かけているな、という感じはするが、特に前半は場面場面が中途に切り替わる感じがするし、又右衛門のリーダーシップ
   を発揮する様が前面に出てこないのが不満。敵方でありながら檜を譲り受ける交渉をしたり、最後の土台の歪を皆で修正
   する所は良いが・・・。あの時代に壮大な城を築きあげるのは大変な事だし、相当なリーダーシップと緻密な準備が必要
   だろう。物語の内容はもう少し築城の苦難の姿を盛り込んでほしかったが、ひとつの構築物・完成品には、どれだけ多く
   の人の汗と思いと犠牲がこめられているのかは、よく分かる。先人達や現在の開発・製造に携わる人達は凄いね。しか
   し、これ程まで苦労して築いた安土城が僅か3年で消失し、今も跡地に天守閣がないのは余りにはかない・・・・

32.孤高のメス (2010年日)<4.5> 
 [監督]成島出
  [出演]堤真一、夏川結衣、吉沢悠、中越典子、松重豊、成宮寛貴、平田満、余貴美子、生瀬勝久、柄本明
  [時間]126分
 [内容]現役の看護師でありながら病院内で適切な処置を受けられずに急死した浪子の葬式を終えた息子で新米医師の
   弘平は、母の遺品の中から一冊の古い日記帳を見つける。そこには、看護師としての様々な日々が綴られていた―。
   1989年。大学病院に依存し、外科手術ひとつまともに出来ない体たらくの地方病院、さざなみ市民病院。そこへピッツ
   バーグ大学で高度な外科医術を身につけた医師・当麻鉄彦が第二外科医長として赴任する。院内の旧態依然とした慣
   例に囚われず、当麻は患者の事だけを考えて正確かつ鮮やかに処置を行う。彼のひたむきな姿勢は周囲の反発を招く
   一方、腐敗した病院に風穴を開け、オペ担当のナースとして当麻と一番身近に接していた浪子も仕事への情熱を取り戻
   していくのだった。そんなある日、市長の大川が末期の肝硬変で搬送されてくる。当麻は、大川を救済する唯一の手段と
   して日本の法律では未だ認められていない脳死肝移植を施す事を決断するが…。
  [寸評]現職医師・大鐘稔彦によるベストセラー小説(未読であるが・・)を映画化。ひとりの医師の真摯な姿を通して現代医
   療の問題を投げかける人間ドラマ。ただ患者の命を救う事だけを念頭に法律ではまだ認められていない脳死肝移植にま
   で挑む一途な外科医と、そんな彼の信念が周囲を変えていく軌跡を描いた内容。ネットで本作品での評価が高い事もあ
   り、公開日初日に劇場で鑑賞したが実に良い作品であった。本年も日本映画は良い作品が多い。本作品は所々で感涙
   した非常に見応えのある屈指の傑作といえる。堤真一の主演作でも一番上手く、内容的にも良かったのではないかな。
   夏川結衣、余貴美子、生瀬勝久も皆見事な演技をしている。1989年は私が入社した年で、その年を舞台にしているので
   親近感を持つし、病院の生々しい実態、主人公の当麻医師のような信念をしっかりと持って真摯に取り組む姿勢、各々の
   立場の人達の葛藤・思いが描かれている。強い責任を持って真摯に取り組む姿勢は学ぶべきで敬意を感じる。当麻医師
   のような人が多いほど世の中は良くなるのだろうが・・・

33.告白 (2010年日)<4.0> 
 [監督]中島哲也
  [出演]松たか子、岡田将生、木村佳乃、西井幸人,、藤原薫,、橋本愛,、天見樹力、一井直樹、伊藤優衣、井之脇海
  [時間]106分
 [内容]ある中学校の終業日。1年B組の担任・森口悠子は、ある告白を始める。数ヵ月前、シングルマザーの森口が学校に
   連れてきていた一人娘の愛美がプールで死亡した事件は、警察が断定した”事故”ではなく、このクラスの生徒の犯人A
   と犯人Bによる殺人だったと・・・。そして、少年法に守られた彼らを警察に委ねるのではなく、自分の手で処罰すると宣言
   するのだった。その後、森口は学校を辞め、事情を知らない熱血教師のウェルテルこと寺田良輝が新担任としてクラスに
   やってくる。そんな中、以前と変らぬ様子の犯人Aはクラスでイジメの標的となり、一方の犯人Bはひきこもりとなってしま
   うのだが…。
  [寸評]2009年の本屋大賞に輝いた湊かなえの同名ベストセラーを「嫌われ松子の一生」の中島哲也監督が映画化した戦
    慄の復讐劇。担任クラスの生徒に娘を殺された女性教師が繰り広げる復讐の顛末が、事件に関わった登場人物達の
    各々の視点から緊張感あふれるタッチで綴られた内容。昨年、この原作を大学時代の友人S君の結婚披露宴(京都)の
    時に往復の在来線の電車の中で読破した。何ともいえない戦慄感や後味の悪さを感じたが、映画ではどのように描か
    れるか注目していたが、流石、中島監督というか、良く出来ていたと思う。松たか子の独白は抜群に上手かったし、木
    村佳乃の迫真の演技、犯人A,B等の中学生役の演技が上手く、その相乗効果で完成度が高まったのでは・・・。原作を
    読まずに観た人にとっても決して心地よい作品ではないと思う。一度観て戦慄を感じるのは良いが、何度も繰り返して
    観るような作品ではないかな・・・

34.オーケストラ!LE CONCERT (2009年仏)<3.5> 
 [監督]ラデュ・ミヘイレアニュ
  [出演]アレクセイ・グシュコフ、メラニー・ロラン、フランソア・ベルレアン、ミュウ=ミュウ、ドミトリー・ナザロフ
  [時間]124分
 [内容]ロシアのボリショイ交響楽団で劇場清掃員として働く中年男アンドレイは30年前、この楽団で天才指揮者と持ては
    やされて活躍していた。しかし、共産主義の当時、国がユダヤ人排斥の政策を強行、ユダヤ系の演奏家達も例外なく
    排斥される事にアンドレイらは反旗を翻したことから、解雇の憂き目に遭う。以来、再起の機会を窺いながら、冴えない
    現状に甘んじていた。そんなある日、パリの劇場から届いた出演依頼のファックスを目にしたアンドレイは、とんでもな
    い考えを思いつく。それは、彼と同様に落ちぶれてしまったかつての仲間を集めて偽のオーケストラを結成し、ボリショ
    イ代表として夢のパリ公演を実現させようという突拍子もない計画だった。こうして、タクシー運転手、蚤の市業者など
    様々な職業で生計を立てていた仲間が集まり、いざパリへと乗り込む一行だが…。
  [寸評]名門オーケストラの元天才指揮者が、ひょんな事から昔の仲間を中心にオーケストラを再結成し、かつての栄光を
    取り戻そうと奮闘する姿をユーモラスに描いた音楽ドラマ。クラシック・オーケストラ好きゆえ、この手の作品にはどうし
    ても関心を持ってしまう。愛知県芸術劇場でスウェーデン放送合唱団の二大レクイエム(モーツァルト、フォーレ)演奏
    会が開演される前に丁度良い時間帯で上映(名演小劇場)されたので鑑賞。(音楽尽くしの心地良いひと時だった・・)
    この作品は大筋は「くすぶっている現状から脱却して演奏会を実現する」事だが、最後の20分のチャイコフスキーの
    ヴァイオリン協奏曲の熱演に至るまでの時間が、どこかダルく、辛い。そこで若干睡魔も襲ってきたので、結局、女性ヴ
    ァイオリニストの両親・育ての親の人間関係が理解しきれなかった。しかし、最大の見所は最後の20分の演奏でしょう。
    演奏者達の表情がアップで映され、美しく迫力ある奏でが胸を打つ。このシーンを観れただけでも本作品を観た価値が
    あるといえるのでは。自分の本当にやりたい事は常に胸に秘め、それをいかに実行するかだね・・・

35.ダブル・ミッション THE SPY NEXT DOOR (2010年米)<3.0> 
 [監督]ブライアン・レヴァント
  [出演]ジャッキー・チェン、アンバー・ヴァレッタ、マデリン・キャロル、ウィル・シャドリー、アリーナ・フォーリー
  [時間]92分
 [内容]ボブ・ホウは中国から出向しているCIAの敏腕エージェントだが、そんな彼の目下の悩みは、婚約した隣家のシン
   グルマザー、ジリアンの3人の子供達とどうとけこむかだ。スパイである事を知らない彼らには、ボブはただのダサいおじ
   さんでしかなく、母の再婚に大反対だった。ある時、入院した父親の世話のため実家に戻ったジリアンに代わり、子供達
   の面倒を見る事になったボブだったが、全く言う事を聞いてくれない彼らにすっかり手を焼いてしまう。そんな中、やんちゃ
   な長男イアンが、ボブのパソコンを勝手にいじって、そうとは知らずにロシア当局の極秘情報をダウンロードしてしまった事
   から、犯罪組織の標的となってしまう…。
  [寸評]ジャッキー・チェンが、隣家の子供達に手を焼く冴えない中年男と、凄腕CIAエージェントという2つの顔を持つ主人
   公を演じるスパイ・アクション・コメディ。ジャッキー・チェンが何気に好きなので興味本位で劇場鑑賞したが、今回はお子
   様向の作品という感じで「プロジェクトA」「ファイナル・プロジェクト」「香港国際警察」のノリを期待して観ると肩透かしに感
   じてしまう。ジャッキー・チェンの人間味が出ているとはいえ、前半の子供達とのやり取りのシーンは余りに長く、観ていて
   辛く感じた。それらのシーンは最後につながっているし、後半はそれなりに楽しめるのだが・・・。エンドロールに定番の
   NGシーンがあるのは嬉しかったが、これもおとなしめだった感じがする・・・また激しいアクション満載の作品を期待した
   い。

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