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26.キング・コーン 世界を作る魔法の一粒 KING CORN (2007年米)<3.0> 
 [監督]アーロン・ウールフ
  [出演]イアン・チーニー、カート・エリス
  [時間]90分
 [内容]自分達の体を構成している大部分が、元を辿ればコーンに行き着く事に気づいたアメリカの若者2人が、コーンにつ
   いてもっとよく知ろうと、1エーカーの土地を借りて、ほとんど見よう見まねでコーン栽培にチャレンジした日々に密着、その
   過程で浮き彫りになっていくのは、コーン偏重と行き過ぎた合理主義の歪んだ農業政策が生み出した大きなひずみであり
   コーンに極端に依存している現在の農業と食生活がはらむ環境と健康への見過ごすことの出来ない危険性だった…。
  [寸評]米国を代表する農産物の一つ“トウモロコシ”を巡る驚くべき実態を明らかにしていくドキュメンタリー。私は花見等の
   屋台でトウモロコシをたまに買うし、居酒屋に行けば必ずコーンバターを注文する事もあり、本作品はミニシアターで公開
   時から気になる存在でGW連休の最終日にレンタルDVDで鑑賞。ハンバーガーの基となる牛の飼料、炭酸飲料等の糖分
   の基はコーン油というように食品にトウモロコシの関わる割合は恐ろしいほど非常に高い事を認識できた。米国での農場
   でのトウモロコシ生産の今昔を知れるし、トウモロコシの摂取のしすぎが多くの肥満者を輩出している事など、なかなか勉
   強にはなるが話の展開の仕方は割と淡々としていて、さして面白い内容ではない。健康への警鐘がメッセージであり、「安
   い食品は健康によくない」という台詞が印象的。

27.プレシャス PRECIOUS: BASED ON THE NOVEL PUSH BY SAPPHIRE (2009年米)<4.0> 
 [監督]リー・ダニエルズ
  [出演]ガボレイ・シディベ、モニーク、ボーラ・バットン、マライア・キャリー、シェリー・シェパード
  [時間]109分
 [内容]1987年のニューヨーク、ハーレム。16歳のプレシャスは、極度の肥満体型のうえ読み書きも出来ず孤独に堪え忍
   ぶ日々を過ごし、“貴い”という名前とは裏腹の過酷な毎日だった。この年齢にして2度目の妊娠をしていて、どちらも彼女
   の父親によるレイプが原因だ。失業中の母親は、そんなプレシャスを容赦なく虐待し続ける。妊娠が理由で学校を停学に
   なった彼女は、校長の勧めでフリースクールに通う事にした。彼女はそこで若い女性教師レインと運命的な出会いを果た
   す。彼女の親身な指導のおかげで読み書きを覚え、次第に希望の光を見出し始めるプレシャスだった・・・。
  [寸評]実際にニューヨークのハーレムでソーシャルワーカーや教師をした経験を持つ女性詩人のサファイアが、そこで出
   会った黒人の貧困家庭に暮らす子供達の実態を背景に書き上げた小説を映画化した衝撃のドラマ。1987年のハーレム
   を舞台に、読み書きがほとんど出来ない16歳の肥満少女、プレシャスが、両親による想像を絶する虐待に耐えながら生き
   る過酷な日常と、一人の女性教師との出会いがもたらす一条の希望を描いた内容。今年のアカデミー賞の作品賞にノミ
   ネートされ、プレシャスの母親を演じたモニークが最優秀助演女優賞を獲得した話題作で注目していた。サイクリングの
   途中で伏見ミリオン座で鑑賞。内容は本当に悲惨極まりなく、良い教師や級友達との触れ合いの中で、微かに明るい希
   望が見出せたかと思いきや・・というもので物悲しい。プレシャスの母親を演じたモニークは迫真の演技を見せてくれ、本
   作品は彼女の印象が圧倒的である。世の中にはこんな世界もあるのか・・・・温かい家庭を築き、守っていく事の重要さを
   再認識させてくれる。観て良かったが、最後のシーンも本当に哀愁が漂っている・・・

28.グリーン・ゾーン GREEN ZONE (2009年仏・米・スペイン・英)<4.0> 
 [監督]ポール・グリーングラス
  [出演]マッド・デイモン、グレッグ・キニア、ブレンダン・グリーソン、エイミー・ライアン、ハリド・アブダラ
  [時間]114分
 [内容]フセイン政権陥落直後のイラクのバグダッドにおいて、米陸軍のロイ・ミラー准尉と彼の部隊は、大量破壊兵器の発
   見という極秘任務に就いていた。しかし、上からの指示に従って捜索を繰り返しても、一向に兵器はおろか、その痕跡すら
   掴めずにいた。次第に、情報源への疑いを強めていく。しかも、ようやく手にした重要な手がかりは国防総省のパウンドスト
   ーンによって握りつぶされてしまう。国防総省への不信が募るミラーは、同じ疑念を持つCIAのブラウンと手を組み、独自
   の調査に乗り出すのだが…。
  [寸評]多くの血が流れたイラク戦争において、その大義とされた“大量破壊兵器”を巡る情報そのものへの疑問を抱いた一
    人の米軍兵士が、米国政府の激しい内部抗争に巻き込まれながら繰り広げる真実追求への孤独な戦いの行方をスリリ
    ングに綴った内容。今年アカデミー賞で最優秀作品賞を獲得した「ハートロッカー」と同系列の映画と思い、観るのを躊
    躇していたら有休の朝、「とくだね」を見ていたら、小倉キャスターが本作品を絶賛していた(先般「第9地区」も賞賛してい
    て実際に面白かった)ので劇場で鑑賞。2003年のイラク戦争の状況・舞台裏が臨場感一杯に描かれていて非常に勉強
    になり、自分がいかに世界情勢・時事問題をしっかりと捉えていないか認識した。実際に戦争を体験した兵士が登場して
    いて最初から最後まで迫真の映像が続くので、引き込まれて存分に見応えがあった。正直言って「ハートロッカー」より
    エンターティメント性もあり、馴染みやすかったな・・・。内部のドロドロを描写しているが、もっと奥深いんだろうな・・・。
    ミラー准尉に情報提供したイラク人の祖国への思いの台詞が印象的だ。本作品は是非、劇場で見るべきでしょう。

29.カティンの森 KATYN (2007年ポーランド)<4.0> 
 [監督]アンジェイ・ワイダ
  [出演]マヤ・オスタシェフスカ、アルトゥル・ジミイェフスキ、マヤ・コロモフスカ、アンジェイ・ヒラ
  [時間]122分
 [内容]1939年9月、ポーランドは密約を結んだナチス・ドイツとソ連によって分割占領されてしまう。ソ連側では多くのポーラ
    ンド人将校が捕虜となり収容所へと送られた。その中にはアンナの夫アンジェイやその友人イェジも含まれていた。一
    方、ソ連領に取り残されていたアンナと娘ニカは、1940年春にようやく国境越えに成功し、アンジェイの両親のもとへと
    戻る。しかし、そこに義父の姿はなかった。彼はドイツ軍に逮捕され、収容所で命を落としてしまう。アンナは義母と娘と
    3人でアンジェイの帰りを待ち続ける。そんな中、1943年4月、ドイツ軍はソ連領のカティンで多数のポーランド人将校の
    遺体を発見したと発表する。その犠牲者リストにアンジェイの名前がなかった事に望みを託し、ひたすら帰りを待ち続け
    るアンナだったが…。
  [寸評]第二次大戦下、ポーランドはナチス・ドイツとソ連の両方から侵略され、両国に分割占領された。そんな中、ソ連の捕
    虜となったポーランド人将校の内、1万数千名の行方が不明となり、後にソ連によって虐殺されていた事が判明する。“カ
    ティンの森事件”と呼ばれるこの悲劇は、ソ連の支配下にあった冷戦時代のポーランドにおいて語る事の許されないタブ
    ーとされてきたもの・・・。本作品は、自らの父親もこの事件の犠牲者の1人であるアンジェイ・ワイダ監督が、歴史的犯罪
    に改めて光を当てるとともに、国家の欺瞞に翻弄される犠牲者家族の苦悩を描き出す人間ドラマ。こんなむごくて残虐な
    歴史的事実があったとは・・・戦争の愚かさ・むなしさ・人間を狂気たらしめる業・・・最後の15分のシーンは直視するのは
    辛い。しかし、この事実を直視して人間の尊厳を改めて考えなければならないのではないか。本作品は最初から最後ま
    で暗くて虚しいばかり。でも臨場感あふれた描写と製作者側の強いメッセージを感じ取れる。辛い内容だが観ておくべき
    作品でしょう。

30.腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (2007年日)<3.0> 
 [監督]吉田大八
  [出演]佐藤江梨子、佐津川愛美、山本浩司、土佐信道、上田耕一、永作博美、永瀬正敏
  [時間]112分
 [内容]北陸の山間部の小さな村に両親の訃報を受け、和合家の長女、澄伽は東京から戻ってきた。4年前に女優を目指し
    て上京したものの、鳴かず飛ばずだが、自意識過剰な澄伽は、それが自分の実力だとは露ほども思わず、何より妹の
    清深がしでかしたある事件を原因だとして逆恨みしていた。そんな傲慢な勘違い女、澄伽の帰還に、清深は怯えながら
    どこか冷めた目で姉を観察し、次第に抑えていたある衝動を膨らませていく。一方、兄の宍道も澄伽の傍若無人な振る
    舞いをおとなしく受け入れるばかりである。宍道の妻で度を越したお人好しの待子は、そんな彼らの関係を不思議な思い
    で見つめていた・・・。
  [寸評]劇団の主宰として活躍する傍ら、作家としても注目が集まっている本谷有希子の同名舞台劇を映画化。2007年のキ
     ネマ旬報の日本映画の10位にランクされていた事と佐藤江梨子出演の作品を観た事がないので関心を持っていた。
     丁度、TVで深夜に放送されたので録画して鑑賞。自意識と自己愛にみちたヒロインを取り巻く陰鬱な人間模様をアイロ
     ニカルに描いた内容。冒頭から最後まで佐藤江梨子演じる澄伽がやりたい放題やってくれる。彼女に後ろめたいものを
     持つ血のつながらない義兄、彼女にひたすら恨まれ虐待される妹、やたら気を使う兄嫁、金づるにした同級生等との関
     わりを描きながら、最後はそうきたか!というオチとなる。観ている際は引き込まれるが、気持ちのよい話ではない。人
     間のエゴ、弱味、醜さを出しまくっている。ああいうタイプの人間は受け入れがたいねえ・・・佐藤江梨子はそうした悪女
     を上手く熱演していたと思う。
     
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