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41.ディア・ドクター (2009年日)<3.5> 
 [監督]西川美和
  [出演]笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、井川揺、松重豊、中村勘三郎、笹野高史、香川照之、八千草薫
  [時間]127分
 [内容]伊野治は数年前、長らく無医村だった山あいの小さな村に着任して以来、村人から絶大な信頼を寄せられている医師
   である。そんな彼のもとに、東京の医大を卒業した青年・相馬が研修医としてやって来る。最初はへき地の厳しい現実に戸
   惑い、困惑する相馬だったが、村の人々に親身になって献身的に接する伊野の姿に次第に共感を覚え、日々の生活にも
   充実感を抱き始めていく。そんなある日、伊野は、一人暮らしの未亡人かづ子を診療する事になった。病気の事を都会で医
   師をしている娘に知られたくないからと、かづ子から一緒に嘘をついてほしいと頼まれる。しかし、それを引き受けたばかり
   に、伊野は次第に追い込まれていく事になり…。
  [寸評]「ゆれる」の西川美和監督が人気落語家の笑福亭鶴瓶を主演に迎え、過疎の進む小さな村で住民から信頼され慕わ
   れていた一人の医師を巡って巻き起こる騒動を描いた異色の人間ドラマ。鶴瓶には何か引き寄せられるものがあり、監
   督、キャストの面子からも興味がある事から劇場で鑑賞。鶴瓶演じる医師が行方不明になった冒頭から、過去の出来事
   と交錯させながら、最後の最後にニコっとさせられる場面まで上手い展開の仕方で見せてくれる。「ゆれる」同様、ややグレ
   ーで観た人に考えさせるような提示をしていて、多くを細かく語らない、というスタンスを取っていると思う。だから場合によっ
   ては消化不良に感じるかもしれない。各登場人物の心情を上手く描いていたと思うし、特に何もかも認識している大竹朱美
   を演じた余貴美子の演技は迫力があった。全体的にそつのない作品だとは思うが、私的には、伊野をもっと深く追求してほ
   しかったな。西川監督の意図もあるだろうが、そこが消化不良かな・・

42.ブラッド・ダイヤモンド BLOOD DIAMOND (2006年米)<4.0> 
 [監督]エドワード・ズウィック
  [出演]レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・コネリー、ジャイモン・フンスー、マイケル・シーン
  [時間]143分
 [内容]激しい内戦が続く90年代のアフリカ、シエラレオネ。愛する家族とつましくも満ち足りた生活を送る漁師ソロモンだが、
   ある日、反政府軍RUFに襲撃され、ソロモンは家族と引き離され、ダイヤモンド採掘場で強制労働を強いられる。そんな
   中、彼は大粒のピンク・ダイヤを発見、その直後に起きた政府軍による来襲の混乱に紛れてダイヤを秘密の場所に隠す
   のだった。一方、ダイヤの密輸に手を染める元傭兵ダニーはある時、密輸に失敗して投獄される羽目になる。すると、その
   刑務所にはソロモンも収容されていた。そして、彼が巨大ピンク・ダイヤを見つけ隠していることを耳にしたダニーは釈放
   後、ソロモンも出所させて、家族捜しに協力する代わりにダイヤの隠し場所を明かすよう迫る。また、米国人女性ジャーナ
   リスト、マディーに対しても、彼女が追っている武装組織の資金源“ブラッド・ダイヤモンド”の実態に関する情報をエサに
   自分達への協力を取り付ける。こうして3人は、各々の思惑を胸に、ピンク・ダイヤを目指す危険な道へと進んで行く…。
  [寸評]内戦の続くアフリカ奥地を舞台に、隠された巨大なピンク・ダイヤモンドをめぐって3人の男女の運命が交錯する社会
   派アドベンチャー・スリラー。ダイヤモンド業界の暗部に光を当てた内容が社会的な議論をも引き起こしたという話題作ゆえ
   注目していて、ようやく100円レンタルで妻と鑑賞。かなり残酷で痛々しい場面が多いが、ある面、アフリカの一面を生々しく
   描写していると思うと物悲しく何ともいえない気持ちになる。少年が洗脳されて銃を持ち、他を無下に襲撃するようになるな
   んて哀しすぎる。最後にソロモンが息子に懸命に呼びかけるシーン、それに対する結果にはホッとし、救われる。ディカプリ
   オは「タイタニック」「ディパーテッド」に引き続き、本作も何か痛々しく可哀相な役柄を演じている。それが様にはなっている
   のだが・・・。ジェニファー・コネリーがジャーナリストを好演している。彼女も絵になり存在感のある女優だと思う。ダニーと
   マディーの電話での会話も物悲しい・・・。しかしダイヤモンドを巡って凄まじい争奪、ビジメスが繰り広げられるが、その価
   値感は(いつまでたっても)理解できないな・・。レンタルで観て辛いシーンも多いが、インパクトのある作品です。

43.ハリー・ポッターと謎のプリンス
    HARRY POTTER AND THE HALF-BLOOD PRINCE  (2008年英・米)<3.5> 
 [監督]デヴィッド・イェーツ
  [出演]ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソン、ジム・ブロードベント、マイケル・ガンボン
  [時間]154分
 [内容]闇の帝王ヴォルデモートがマグル(人間)と魔法使い双方の世界で支配力を強め、その脅威はハリー達のホグワーツ
   魔法学校にも及んでいた。最終決戦が迫っている事を知っているダンブルドア校長は、ハリーに来たるべき戦いにむけての
   準備を施していく。また、ヴォルデモートの防御を解く手掛かりにと、重要な情報を持つ元同僚の旧友ホラス・スラグホーンを
   魔法薬学教授として学校に迎え入れるのだった。一方、ギクシャクした関係が続くロンとハーマイオニーらホグワーツの生
   徒達には春が訪れ、学校中で恋の騒ぎを繰り広げる。そんな中、決戦の準備を進めるハリーはヴォルデモートの意外な過
   去を知る事になるのだが…。
  [寸評]シリーズ第6弾。思春期を迎えたホグワーツ魔法学校の生徒達が恋愛ムードに浮き立つ中、ハリーは復活した宿敵ヴ
   ォルデモートの知られざる過去に迫りながら最終決戦へ向けて奮闘する姿を描いた内容。第1作の公開が2001年だから本
   作は9年目となり、その間、出演を継続している俳優達の身体的成長は著しい。特にハーマオイニー演じるエマ・ワトソンは
   可憐な小娘から魅力的な女学生になってしまった。ロン演じるルパート・グリントは成長しても、独特のユニークなキャラを
   演じ、ほれ薬で惑わされたあの表情には本当に笑えた。今回はハリーとダンブルドアがヴォルデモートの若い頃を紐解いて
   対抗策を考えていく事が主で全般的には思ったより静かな展開である。4作目・5作目で顔を出した無気味なヴォルデモート
   は姿を現さず、若い頃(=ホグワーツ時代)の姿が描かれる。スネイプやドラコ・マルフォイの本心も浮き彫りになってきて、
   どんどんダークな雰囲気になりそう・・・。鑑賞後に観客の一人が「原作を読んだ人にとっては、この作品はかなり消化不良
   に感じる」と話しているのが聞こえた。膨大な原作を抽出して映画化しているので、描写しきるのは難しいと思うし、振り返
   れば、どの作品も消化しきれていないのが正直なところ・・・最後にああいう結末になったので、残り2作「死の秘宝(前編)
   (後編)」でどう描き、締めるのか?騎士団で戦うのか?(そうでないニュアンスにもとれたが・・・)原作を読むパワーは無
   いが、次回を楽しみにしている。

44.トウキョウソナタ (2008年日)<3.5> 
 [監督]黒沢清
  [出演]香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、井川遥、津田寛治、児嶋一哉、役所広司
  [時間]119分
 [内容]佐々木家はトウキョウに暮らす一見ごく普通の4人家族である。平凡なサラリーマンの父・竜平は、家長としての自負
   を持ち、家族のために懸命に働いてきた。ところが、ある日、リストラであっさり会社をクビになってしまう。その事実を家族
   に伝えられず、毎朝スーツで家を出ては、公園などで時間をつぶす・・・。母・恵は、せっかくドーナツを作っても誰にも見向き
   もされないなど、やり場のない不満と虚無感を募らせる。一方、子供達も、大学生の長男・貴は、突然米国軍への入隊を志
   願し、小学生の次男・健二は家族に内緒でピアノ教室へ通い始める。家庭の歯車が狂い始める佐々木家だったが…。
  [寸評]各々に秘密を抱え、バラバラになってしまった一つの家族の行方を、現代的な問題を盛り込んで描いた作品で、2008
   年のカンヌ国際映画祭では、「ある視点」部門で審査員賞を受賞。またキネマ旬報の邦画部門でも4位の評価を受けた事も
   あり、関心があってDVDレンタルで鑑賞。香川照之は相変わらず、上手い演技を見せてくれる。リストラ、家族に言えずに
   時間つぶしをする様、次男への怒り方、清掃係に就く時のとまどい等、どれも共感を覚え、切なさを感じる。竜平は元総務
   課長で人とは上手くやってきたつもりと言うものの、「何が特技か、即みせてくれ」と面接で言われても「・・・・・」となってしま
   う。私も職場の総務的な事もやっているし、特技も「・・・」なので、他人事には見えなかった。テントでの食事の給付、竜平
   の友人が携帯を着信して演技する様、デパートのトイレでスーツに着替えて平静を装って帰宅する人等、今の厳しい時世を
   反映している。話の展開は緩やかに進むので、観ていて長く重苦しく感じたのが難。小泉今日子は私より1歳上だが、大学
   生の子の母親役をやるんだね・・・。なかなか上手く演じていたと思うし、ソファの上で両手を天井に向けて「誰か私を引っ張
   って!」と口にするシーンが印象的だ。しかし、役所広司が泥棒として登場して一緒に海にまで行ってしまうシーンは余分
   なような気がした。健二があんなにピアノが急激に上手く演奏できるようになるのは現実離れ(天才ゆえ、やむなし?)して
   いる感はあるが、家族の関係が修復しつつある中、あの演奏は”明るい希望”という事かな?

45.善き人のためのソナタ DAS LEBEN DER ANDEREN (2006年独)<4.0> 
 [監督]フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
  [出演]ウルリッフ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリッフ・トゥクール
  [時間]138分
 [内容]1984年、壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の局員ヴィースラー大尉は国家に忠誠を誓う真面目で優
   秀な男である。ある日、彼は、反体制の疑いのある劇作家ドライマンとその同棲相手の舞台女優クリスタを監視し、反体制
   の証拠を掴むように命じられる。早速、ドライマンのアパートには盗聴器が仕掛けられ、ヴィースラーは徹底した監視を開
   始する。しかし、音楽や文学を語り合い、深く愛し合う彼らの世界にヴィースラーは知らず知らずのうちに共鳴していくのだ
   った。そして、ドライマンがピアノで弾いた“善き人のためのソナタ”という曲を耳にした時、ヴィースラーの心は激しく揺さぶ
   られてしまうのだったが…。
  [寸評]旧東ドイツで反体制派への監視を大規模に行っていた秘密警察“シュタージ”。このシュタージ側の人間を主人公に、
   統一後も旧東ドイツ市民の心に深く影を落とす“監視国家”の実態を明らかにすると共に、芸術家の監視を命じられた主人
   公が図らずも監視対象の考え方や生き方に影響を受け、新たな人生に目覚めてしまう姿を静謐なタッチでリアルに描き出
   す人間ドラマ。主演のウルリッヒ・ミューエは自身も監視された過去を持つ東ドイツ出身者。本作品はアカデミー賞外国語映
   画賞を受賞していて今年の正月の深夜にTV放映(字幕)されたので録画したものの、滞留させていて夏季連休の間によう
   やく鑑賞。監視のセッティング、隣人への脅し、24時間体制の輪番制での盗聴とこまめな報告書の作成の様は非常にイン
   パクトがあり、”そこまでするか!(実際には”していたか”)と思う。旧東ドイツの世界の一部が描写されているが、人類はど
   の国でも”ある思想”にそぐわない者は糾弾されるものか・・・。ヴィースラー大尉が監視しながらも対象者へ気持ちが傾注
   し、実際に顔を合わせた時に、救いの手を差し伸べたり、後半の展開になる事は、ある意味、人間味を失わず、良心のま
   ま行使したという事で安堵させられる。監視国家を描写し、今後の世の中で十分にありうるであろうと示唆した、なかなかの
   良作である。世界の歴史を学習するには外国映画は良い教材だと改めて認識させられた。

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