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11.歓喜の歌 (2007年日) <4.0>     
 [監督]松岡錠司
  [出演]小林薫、安田成美、伊藤淳史、由紀さおり、浅田美代子、田中哲司、藤田弓子、根岸季衣、筒井道隆
  [時間]112分
 [内容]小さな地方都市、みたま町。町営のみたま文化会館に勤める飯塚主任はやる気ゼロの無責任公務員である。年も押
    し迫った12月30日、私生活でもゴタゴタ続きの飯塚は、翌日のコンサート予約の確認の電話を受け、いい加減な受け答
    えをする。ところが、それを聞いていた部下の加藤が、“みたま町コーラスガールズ”と“みたまレディースコーラス”をダブ
    ル・ブッキングしていた事実に気付き、青ざめる。両グループの予約が入った半年前から誰も気づかなかったのだ。そんな
    緊急事態にも“どうせオバサンたちの暇つぶしなんだから何とかなるだろう”と飯塚は安直に考えていた。ところが、セレブ
    な奥様達の由緒ある“レディースコーラス”も、かたや結成1年半で初の発表会に燃える“コーラスガールズ”も一歩も引く
    気配をみせない…。
  [寸評]人気落語家・立川志の輔の同名新作落語を映画化したハートフル音楽コメディ。大晦日の公営文化ホールでママさん
    コーラスのダブル・ブッキングが発覚したことから巻き起こる一大騒動を綴ったコーラスにまつわる内容である事、私の同
    年で一番著名な女優である安田成美が6年振りにスクリーンに復帰している事から大変関心があり、劇場で鑑賞(日曜の
    夜で何と観客は4名)。話は至ってシンプルで、超いいかげんな飯塚主任の無責任な言動や対応には腹が立ち、いらいら
    させられながら(人の事を言えないか?)も、コーラスに参加している女性達の生活事情を描き出す心温まるエピソード
    に感銘し、引き込まれていく。強引な展開の仕方や、安田成美演じる指揮者が、舞台の観客側から見て右側から登場
    (本来は左側)したり、粗はあるが、最後はハッピーエンドとなり、楽しい作品といえる。オーケストラのない「歓喜の歌」も
    強引だが、歌が良いし、許してしまおう。”合唱”やそれに取り組む人達の姿は微笑ましいね。かつての経験者である私も
    懐かしく、楽しい気分にさせられました。

12.ディパーテッド THE DEPARTED (2006年米) <4.0>     
 [監督]マーティン・スコセッシ
  [出演]レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ジャック・ニコルソン、マーク・ウェルバーグ、マーティン・シーン
  [時間]152分
 [内容]ビリー・コスティガンは犯罪組織との繋がりを持つ自らの生い立ちと決別すべく警察官を志した。一方、コリン・サリバ
    ンは、マフィアのボス、コステロによって育てられ、スパイとなるべく警察に送り込まれた。同じ警察学校に学んだ2人は、
    互いの存在を知らぬまま、共に優秀な成績で卒業する。やがて、コリンはマフィア撲滅の最前線に立つ特別捜査班に抜
    擢され、コステロを標的とした捜査活動に加わる。一方ビリーは、その優秀さを買われ、マフィアを内部から突き崩すべく
    コステロのもとへ潜入するという極秘任務を命じられるのだった。こうして、それぞれに緊張の二重生活を送るビリーとコリ
    ンだったが、ついに警察、マフィア双方ともに内通者の存在をかぎつけ、いよいよ2人は窮地に追い込まれていく…。
  [寸評]香港映画の「インファナル・アフェア」をハリウッドの豪華スタッフ・キャストでリメイクした犯罪サスペンス。警察に潜入
    したマフィアの男と、マフィアに潜入した警察の男の対照的な2人を待ち受ける皮肉な運命を描いた内容。昨年のアカデ
    ミー賞の最優秀作品賞を受賞した作品だが、発表の時に近年のヒット映画のリメイク作品が受賞した事に違和感を感じた
    ものの、興味はあり続け、ようやくDVDで妻と鑑賞(翌日がアカデミー賞授賞式で最優秀作品賞は「ノーカントリー」)。冒頭
    から真剣に観ていないと人物関係等、把握できないが、2人が各々どういう運命を辿るのか、最後までハラハラしながら観
    れる。レオナルド・ディカプリオもマット・デイモンも各々の持ち味が出ていて良いが、ジャック・ニコルソンは風格があり、
    流石の演技と格別の存在感を示してくれる。最後の最後は壮絶な虚しい結末となり、インパクトも強烈である。内容も演
    出もマズマズではあるが、リメイクの内容で、オスカーを獲得した事はハリウッド映画のパワー低下が危惧される。
    今度の「ノーカントリー」はいかがなものか?公開が楽しみだ。

13.バンテージ・ポイント VANTAGE POINT (2008年米) <4.5>     
 [監督]ビート・トラヴィス
  [出演]デニス・クエイド、マシュー・フォックス、フォレスト・ウィッテカー、サイード・ダクマウイ、シガニー・ウィーバー
  [時間]90分
 [内容]スペインのサラマンカでテロ撲滅の国際サミットが開催される。大観衆を集めた広場では、アシュトン米大統領による
    スピーチが行なわれようとしていた。だが、演説が始まろうとした矢先に、一発の銃声が轟き、大統領が狙撃されてしま
    う。続いて爆発も発生して、一瞬にして広場が混乱状態に陥る中、シークレット・サービスのトーマスとケントは狙撃犯の
    捜索に奔走する。そして、市長を護衛していた地元刑事エンリケの証言や、観光客のハワードが収めていたビデオカメラ
    の映像などから、複数の容疑者が浮上するのだが…。
  [寸評]大統領狙撃の瞬間を目撃した8人の異なる視点から暗殺事件の真相に迫る様をスリリングに描いたサスペンス・アク
    ションで最初から最後まで存分に楽しませてくれる90分。大統領が狙撃されるまでの様々な人物模様を5回程繰り返し
    巻き戻しがされて描写し、段々と真実に迫っていくという展開。前半は人によってはジレンマに感じるかもしれないが、私
    にとっては非常に面白かったな。同じ時間の間に様々な人が一つの標的に向けて、様々な思惑を持ち、複雑なしがらみ
    の中で収束していく描写は上手い。最後のカーチェイスは非現実的とはいえ、手に汗を握り、大興奮だった。冷静に考え
    るとアクションがやたら目立って、狙撃の真の狙い等が深堀りされていない等、欲張りな事を思うが、余り大きな期待をせ
    ずに観た中で、90分をこれだけ興奮させてくれた作品は今年初のオススメマークです。

14.武士の一分 (2006年日)<3.5>     
 [監督]山田洋次
  [出演]木村拓哉、壇れい、笹野高史、緒形拳、桃井かおり、岡本信人、大地康雄、小林稔侍、坂東三津五郎
  [時間]121分
 [内容]三村新之丞は東北の小藩に仕える三十石の下級武士で、剣術の覚えもあり、藩校でも秀才と言われながら、現在の
    勤めは毒味役である。張り合いのない役目に不満を持ちながらも、美しく気立ての良い妻・加代とつましくも笑いの絶えな
    い平和な日々を送っていた。ところが、そんな平穏な生活が一変してしまう。貝の毒にあたった新之丞が、一命は取り留
    めたものの失明してしまったのだ。絶望し、自ら命を絶とうとする新之丞を、加代は懸命に思い留まらせるのだった。しか
    し、武士としての勤めを果たせなくなった以上、藩の沙汰次第では生きていく事も叶わない。そこで加代は、嫁入り前か
    らの顔見知りだった上級武士の島田藤弥に相談を持ちかけるのだったが…。
  [寸評]山田洋次監督による「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」に続く藤沢周平原作の時代劇の第3弾(「隠し剣 鬼の爪」
    は未見)で、主人公が、妻とのつましくも幸せな生活を踏みにじられた時、一人の男としての尊厳を懸け毅然と立ち上がる
    姿を描いた内容。木村拓哉主演で話題になり、2006年の日本アカデミー賞でも何部門かでノミネートされたので関心は
    持っていた。昨年12/30にTV放送されたので、HDDに録画して、早期に観ようと思いながら、いつものごとくずれこんで、
    ようやく妻と鑑賞した。山田洋次監督らしく、無難に話をまとめていて、各俳優も良い演技をしていると思う。特に笹野高史
    は上手かった(しっかりと最優秀助演男優賞を獲得)。しかし、全般的に話の中味が軽い感じがしてならない。私は加代
    の不貞は新之丞を発奮、立ち直らせるために島田と画策して偽ったものかと善意に考えていたのだが、そんな事ではな
    かった・・。夫婦愛をテーマとしていながら、後半が、どうもチグハグで、ラストにも釈然としない。同じ時代劇物では「たそ
    がれ清兵衛」の方が、心に残り、面白かった。
    
15.胡同の理髪師 剃頭匠 (2006年中) <4.0>     
 [監督]ハスチョロー
  [出演]チン・クイ、チャン・ヤオシン、ワン・ホンタオ、ワン・シャン
  [時間]105分
 [内容]中国・北京で細い路地に古い家屋が軒を連ねる昔ながらの家並み、胡同(フートン)。近年は観光スポットとして国内
    外から注目を集める一方、北京オリンピックを控え、再開発の波にのまれようとしている。胡同に暮らす93歳の現役理髪
    師、チンお爺さんの日常をドキュメンタリー・タッチで綴る・・・。
  [寸評]有休を取ったので、妻とどこか名古屋の公園にでも行ってウォーキングでもしようかと思ったら、天候が悪い(強い雨)
    ので、検討を重ね、名演小劇場で上映されている本作品を、正月に北京を訪れた懐かしさもあり、鑑賞する事にした。
    主人公のチンお爺さんを、実際に93歳の現役理髪師で演技未経験のチン・クイさんが演じている。私達が人力車に乗っ
    て実際に見た胡同の光景、そこを舞台にした日常生活の様子を淡々とほのぼのと映し出されるので、懐かしく、非常に興
    味深く観る事ができた。チンさんが、武術、京劇を試みたが、上手くいかず、理髪の仕事を修行して現在に至っている事を
    語る様、地上げの収益を得るべく、そこに住む父親(チンさんの友人)を引き取っている息子から、父親の理髪代等を
    一切受け取らず車から降りるシーン等、印象的である。チンさんの動きから、仕事や人生への真摯な思いがどことなく伝
    わってきて、ほのぼのとした気分になる。北京の胡同を訪れて間もない事もあるが、他の国の日常生活・風習を描いた作
    品というのは興味深く勉強になる。愛知県では単館上映である穴場的な本作品を観られて得をした。こういう作品はもっと
    多くの劇場でも上映されればよいと思うのだが・・・。ジョニー・デップが理髪師を演じた「スウィーニー・トッド」を観たら、床
    屋に行くのが怖くなったが、本作品では散髪される人が気持ちよさそうな表情をしているのでホッとさせられた。チンさん
    の仕草からも、人の顔を扱う仕事だけに、責任は重く丁重さが大切な事がよく伝わってきた。

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