壺中の天(こちゅうのてん) |
意味:俗世間から離れた別世界。仙境。酒を飲んで、俗世を忘れる楽しみ。また、極めて狭小な範囲のたとえ。 |
費長房(ひちょうぼう)は汝南(じょなん)の人である。
かつて、市場を管理する役人をつとめていた。市場の中に薬売りの老人がいた。
いつも店の軒先に壺を一つぶら下げていて、市が終わると、壺の中にひょいと飛び込んだ。
市場にいる人は誰も見えないようであった。
長房だけが、高楼の上からこれを見ては不思議に思っていた。
そこで、あいさつに行って、酒と肴を贈った。
老人は長房が自分をただ者ではないと思っているのを知って、彼に言った。
「明日、もう一度来なさい」
費長房は翌日また老人を訪ねた。
彼が老人に連れられて一緒に壺の中に入ると、そこには輝くばかりの壮麗な御殿があり、中にはうまい酒と豪華な料理が並べられていた。
二人は一緒に酒を飲むと、また壺から出てきた。
老人は彼にこのことを誰にも言わないように約束させた。
【後漢書・方術伝】