愛知県碧南市 お昼寝する猫は緩やかな時の流れを伝えてくれる「観音堂」
<スヤスヤと縁で眠る野良猫。居心地の良さを物語る。本尊である聖観音菩薩は厨子に収められ、33年に一度しか姿を見る事は出来ない> 「伏見町北」の交差点を鷲塚方面に向かう。自転車修理店を過ぎると奥まった場所に「伏見山・観音堂」がある。 幾重にも存在する赤い幟が霊験あらたかな御利益がある事を伺わせる。参道を行くと左手に多善庵から来たという延命地蔵の御堂。 平七のお不動さんが移転する際にその御堂を譲り受けたという観音堂の本堂、無住と聞いていたが、しっかりと縁には番人である野良猫。 ガラス戸を覗くと暗闇にズラリ並ぶ仏像群。中央の厨子には33年毎に開帳される聖観音菩薩が収まっている。
<雨の降る日に現れるという観音様。確かにそのお姿を見た!後光が重なり、少しばかり左を向いた輪郭は紛れもなく観音様。人々の間で噂された話は本当だったのである> この伏見山・観音堂には奇跡が起こる。参道脇に井戸があり、その後ろに幅130センチ、高さ140センチの巨石。 緑色をして所々に白い筋が入っている庭石としてはごく普通の石である。しかしこの石には民衆の間で口々に噂される話がある。 雨の日になると観音様が石の表面に現れるというのだ。「そんな馬鹿な、ここが観音堂だから、たんなる染みが観音様に見えるだけだろう」と、そんな疑念を持って出かけた私の眼前に現れたのは、紛れもない聖観音菩薩のお姿だった。 57センチ高で頭部には12センチの宝冠があり、さらに後光の重なりまで見える。
観音堂(かんのんどう) 安永2年(1773)に釈浄入が建立する。本尊は聖観音菩薩で、33年に一度公開される秘仏。 この聖観音菩薩は、ある村が不漁に遭い、村人が願いを込めて海へと網を放った際に、網に掛かり発見されたという。 その後、「三河の地へ来たい」という霊夢によりこの観音堂へ。
伏見北交差点付近には、昔ながらの商いをする店舗がいくつかある。 観音寺の隣りにある『江本自転車』。木枠ガラス戸の向こうに、店の歴史を物語る木製道具箱の重なり。職人が息づいていた時代を物語る。 信号交差点角にある魚屋『下市商店』の看板には黒鯛のイラストと共に”いま、ほんものを食べなさい!”の文字。 店先には魚の干物が並び、こぢんまりとしたお店。向かいにある『ミュージックショップ・リン』。赤いネオン管が夜空に輝き、アメリカ西海岸の雰囲気を思わせる外観。 私たちの子供時分は、確か「レコードマスター・リン」と呼んでいた記憶がある。この辺りがまだ人通り少なく淋しい場所だった時代から営業し、少年達が音楽に触れる数少ないレコード店の1つだったのだ。
< text • photo by heboto >