愛知県碧南市 棚尾「妙福寺」の毘沙門堂前で見つけた職人の技 「香炉の龍」
<神社仏閣に装飾として使われる龍。空想上の生き物だが、そのクネクネとする胴体はどこか恐ろしくもある。 棚尾「毘沙門」さんでは香炉の上で睨み合っている龍たち。正月時の「おみくじ」を巻かれる姿に、棚尾に伝わる民話を思い出す> 龍の正体とは、一体何か? 蛇ともトカゲとも違う、また古代、世界を支配した恐竜とも違う。 龍とはモンスターなのか、それとも神様なのか…。とにかく誰も実物を見たことのない存在であることは確かである。 それなのに、お寺で見かける龍はどれも”本当にこんな生物がいるかも知れない”と思わせる作りをしている。碧南市内に存在する龍の中で特に凄いなと思わせる龍が棚尾「妙福寺」の毘沙門堂前にいる。 縁日には参拝者が無病息災を願って煙を被る香炉、その最上部では2体の龍がクネクネと睨み合っていて、左右ではさらに加勢しようとする2体の龍。何かの物語をあらわしているのだろうか? 香炉側面にある2体の龍は、正月・大祭の時期には参拝客におみくじを巻き付けられる。そのユーモラスな姿に顔も綻ぶ。 棚尾にはこの毘沙門さんのおみくじにまつわる”毘沙門さんとうあばみ”といった民話が伝わる。髷におみくじを結んだ男がうわばみ(大蛇)に襲われるが、おみくじの法力によって命拾いするストーリー。 香炉にいる龍は、決してうわばみ(大蛇)ではないが…。
大浜中区の稲荷社には、顔面を鉄の囲いで覆われた龍がいた。鱗の細部まで表現されたディテールは、ストイックな作者のこだわりを感じさせる。 だが、そのこだわりが今の時代、マイナスに働くようだ。龍の鱗・ひげが尖っていた部分が多いことから、頭部の鋭角部分を基本に鉄条が施される。おそらく子供がふざけて怪我をしないようにとの配慮だろう。 その姿は口輪されているようにも見え、さらに獰猛さが増している。 往昔、水はとても大切なものだった。大浜熊野大神社の西には雨乞いのための祠があり、そこには竜神が祀られていたという。 私達は水を得ると同時に何かを失ったように思う。人が作ったにせよ、「形あるものには魂が宿る」ことを忘れてはならない。 みんなで龍を大切にしよう。
< text • photo by heboto >