第33巻:シューベルト編曲集その3(魔王、他&別稿集) お勧め度:B

2枚目と3枚目はほぼ全くの別稿集なのですが、1枚目の「12の歌曲」は「白鳥の歌」についで魅力的で、この曲集に免じてBを進呈します。9枚を3枚に分けるにあたっては、第32巻とこの第33巻とでCD1を入れ替えると、第33巻が別稿集の集大成になってまとまりいいのですが、そんなことすると、第32巻がそれこそSに昇格してこればかり売れるのを懸念したのでしょうか?。ハイペリオン/ハワードとしては珍しく商売気を出した編成のような気がします。本来9枚一組のようなシューベルト編曲集ですから、第31、32巻の紹介もあわせて御覧下さい。

その「12の歌曲」(1827-1838)、曲目は「シューベルト愛唱曲集」といった風情、3大歌曲集以外から有名な曲を集めた、のでしょう。とにかくその手のCDには絶対欠かせない「魔王」「アヴェマリア」が入っています。この2曲も含め、ここに収められているのが「本稿」ということのようです。

曲目と原曲のドイチュ番号(シューベルト作品の整理番号)を列挙しますと、1:「挨拶を送らん」D741、2:「水の上で歌う」D774、3:「君はわが憩い」D776、4:「魔王」D328b、5:「海の静けさ」D216、6:「若き尼」D828、7:「春の思い」D686c、8:「糸を紡ぐグレートヒェン」D118、9:「(シェークスピアによる)セレナーデ」D889、10:「憩いなき愛」D138a、11:「さすらい人」D489a、12:「アヴェマリア」D839、です。

原曲のD番号がばらついていますが、シューベルトのピアノソナタを振り返った際には感じなくはない、若いD番号作品(600以下?)での未熟さは微塵もありません。「魔王」はやはりとんでもない作品です。「セレナーデ」は「白鳥の歌」のとは全然違うコケティッシュな曲です。「アヴェマリア」は第31巻のより穏当な編曲で、こちらの方がいいと思います。その他、個々の曲には触れませんが、歌曲編曲集としてこれより上を行くのは「白鳥の歌」しかないように思います。

”美しき水車屋の娘”より6つの選曲集」(1879)は、うんと晩年の第2稿ですが、違いが余りよく分かりません。「さすらい」はアルペジオの指示がそこそこにあるだけの違いだけらしいですが、ハワードの調子がこちらの方がよいことの方がむしろ目立ちます。以下、「水車屋と小川」、「狩人」と「嫌な色」はアタカで接続、「どこへ」「いらだち」と続く曲順も第32巻と同じです。CD1最後の「幻の太陽」の原曲は勿論「冬の旅」の最後から2番目ですが、この編曲というのが、1ページ分だけ残っていた草稿で、曲として始まりかけた所で終わってしまいます。

CD2の「白鳥の歌」(1839)は第2稿とも呼べません。第32巻のがあくまでも「本稿」、で、その再版時に ossia variant =「難しかったらこう弾いてもいいよ」、の指示を全14曲にわたってつけまくったので、全部そっちで弾いてみた、というもののようです。その先入観で聞くからか、単に第32巻の方を専ら聴いてきたせいか、よくて同等、違いを感じる曲はこちらのほうが物足りなく思えます。物足りない曲目を挙げれば、「わが宿」、「遠い国で」、「セレナーデ」、「アトラス」、というところでしょうか。「本稿」とさえ比べなければ、稀に見る素晴らしい音楽(原曲&編曲&演奏)だと思いますが。

この後フィルアップ3曲、「4つの聖なる歌」の第3曲の別稿(1840)、:「海の静けさ」の第1版の別稿(?)、「鱒」の第1版の別稿(?)(1844)、と言われても、何がなにやらわからない、というのが正直な所です。

CD3はますます別稿集の色合いが濃くなります。「シューベルトの2つの歌曲」の第1曲「Die Rose」(1838)の第1版は第31巻で既出、第2曲の「Lob der Tranen」(英訳= In praise of tears、原曲D711b)がこの1枚唯一の初出です。何れも中々結構です。まあここまでは別稿集の色合い、ということもないのですが、、、

次がCD1で出てきた「12の歌曲」の再版(1879)なのですが、これが6曲は文字通りあるいは実質的にそのまま再版されたので、多少とも実質変化のあった6曲だけを取り上げたというシロモノ。「白鳥の歌」のように曲集の全貌を見ることも出来ません。漠然と聞いているとなんとなく違う、としか分かりません。繰り返し聞いていた「白鳥の歌」なら違いがよく分かるというのは私の個人的な趣味の結果です。

殆ど同じことが「冬の旅」の別案(1839)にもあてはまります。「別案」の成立事情は「白鳥の歌」と同じなのですが、全部の曲にはossia variant を用意しなかったものだから、あるものだけ録音されています。収録されているのが「幻の太陽」「勇気」「菩提樹」「宿屋」「嵐の朝」「村で」、最後の曲はアタカでつながっているので変更は無いのだけれど録音されています。つまり、「おやすみ」「郵便馬車」「かじかみ」「あふれる涙」「ライエル回し」「幻」を欠いています。これでは到底「リスト編の冬の旅を収録」とは言えません。

最後は7つ目の「ハンガリー行進曲」(1879)と、3つ目の「ウィーンの夜会」第6曲(1879)です。いずれも異稿中かなりよい部類だとは思います。

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