第34巻:超絶技巧練習曲の元曲集 お勧め度:B
伝説の超難曲集です。但し、聴いてみて最終形よりもそれだけ難しいと聞こえるかと言うと・・・私にはよく分からない所の方が多いのです。どうせ最終形だって弾けないのは同じですものね・・・。「リストにしか弾けない」この曲集を「リスト以外にも弾けるようにした」のが、「超絶技巧練習曲集」、ということになっています。音楽としては最終形を推します、ということはこちらはコレクターズアイテムですが、若き日のリストオリジナル作品中出色の出来なのでBは差し上げたいのです。ハワードの第4巻以外で超絶技巧練習曲をご存知の方に、第4巻とこの巻とどちらをお勧めすべきか、となると、これは私には判断いたしかねます。またこの曲集のピアニストとしてハワードが向いているかというと、これも判断いたしかねますが、伝説の超難曲集を超難曲らしく弾く、というのとは大分違うように思います。
原題が「Douze Grandes Etudes」=「12の大練習曲集」(1837)、楽想は全て後の第4巻の「超絶技巧練習曲」と同じです。ただしこちらには標題がついていません。第26巻の「12の練習曲」が共通の祖先ですが、断然最終形の方に近く、既に大人の音楽です。両方の紹介を一応参照ください。第26巻については余りまともな紹介をしていませんが。
第1曲は殆ど最終形と変わりません。第2曲は曲想はそのままですが、確かにさらに忙しそう。1830年代の楽器向きの書き方で、現代の楽器では大変なのだそうで。第3曲(風景の元曲)も楽想は同じ、ただしちょっと型にはまったというか稚拙と言うか、最終形の陶酔的響きには及びません。
第4曲(マゼッパの元曲)は序奏無しにいきなり最終形より難しそうな形で始まります。こういう技巧一本の曲はより難しい方が本格的に聞こえて、この曲ではこちらを取ります。最終形をさほど好んでいないということでもありますが。第5曲(鬼火の元曲)も大分難しいのだそうですが、何だか忙しそうだな、としか分かりません。Equalmente という見たことの無い速度表示で、最終形のアレグレットにしてもそんな速いテンポではないことを示唆しているのだそうで(?)。ちなみに祖先の方はアンダンテ、はっきり遅い方の指示、ということです。
第6曲(幻影の元曲)は冒頭から暫く左手一本で弾くべし、とされている以外最終形と余り違いません。第7曲(エロイカの元曲)は、ハワードによると、最終形より断然いい、と広く認められているのだそうです。そうかもしれませんが、あっけらかんとした最終形も妙に好きな私としては何とも申せません。
第8曲(狩の元曲)は冒頭で不思議なことをやっています。解説読んでもよく分からないかもしれません。私は昔に楽譜を見たことがあるので一応理解できましたが・・・最終形では左右交互に C-G-F-Es-D-C とならすところ、 C -D-Es-F- G -C-D-Es- F -G-C-D- Es -F-G-C- D -Es-F -G- C と太字にしたところにアクセントをつけて浮き彫りにすることになっている、はずです。これだけをワンペダルで、当然太字部分が現れるテンポは最終形のテンポで、というのは現代の楽器ではもはや不可能な技らしいです。この録音でもアクセントは殆ど判別不能です。なんかごちゃごちゃやっとるな、というのみ。この音形(最終形と同じく繰り返し何度も出てくる)以外は最終形と大差ありません。
第9曲(回想の元曲)は最終形と比べると落ち着き振りでも媚でも劣るように思います。やや比べる相手が悪かったというところ。第10曲も似ていると言えば似ていますが、こちらの方はただ忙しいだけの練習曲になってしまい、これも比較する相手が悪い。再現部が妙に膨張していてちょっと気持ち悪い。
最終形のうち個人的には一番好きな最後2曲も勿論分が悪くなります。とはいえ、1837年26才のリストのオリジナルとしては驚異的な出来とも言えます。第11曲(夕べの調べの元曲)も、これだけ聴くなら大名曲と思いますが、最終形をベースにしてしまうと、整理と琢磨がまだ不十分です。第12曲(吹雪の元曲)は聴きなれない序奏が慣れないゆえに耳障り(!)ですが、それ以外(もう一度還って来る)では違いは大きくありません、とはいえ断然最終形のほうを取ります。
フィルアップに入っている「MORCEAU DE SALON Etude de perfectionment」(1840)はよく分かりませんが、世界初録音の練習曲であることは間違いないようです。聞き流してください。