第21巻:音楽の夜会、他(巡礼の年第2年の原形を含む) お勧め度:B
スイスがらみに続く、イタリアがらみのマイナー曲集、というところですが、こちらはいいですね。本当はリストには、特に若い頃には、明るい屈託ないイタリアの太陽が一番合っていたような気がしてきました。これまたコレクターズアイテムに分類されるべき巻で、そうでもなければAにしたかもしれません。CD1の過半がロッシーニ原曲の「音楽の夜会」、CD2の中心が「巡礼の年第2年」及び「ヴェネツィアとナポリ」の原形、という2枚組ですが、どちらも中々よろしい。「第2年」は好きですし高く評価しています。それだから、なのか、それでもなお、なのか、この2枚目は実に楽しく聞けます。第20巻みたいに最終形とどっちがいいのか?、という問いにはならず、初稿は初稿で別の良さがあって、どちらも好きだなぁ〜という気分になれます。「内面性」とも「前衛的」とも無縁ですが、これもまた素晴らしい音楽です。・・・「オリジナリティ」なら2枚目にはあります。
「音楽の夜会」(1837)全12曲50分強、細かく紹介はしませんが、つまらないからではありません。夜会の華やかで楽しい気分になれます。ショパンのワルツ集から実用向きのワルツだけ選抜したとしても、この曲集の方が屈託が無いだけ夜会らしさで上回ります。ロッシーニの歌曲集(ソロ&デュエット)をピアノソロ編曲して順番を並べ替えたもので、並べ替えが良かったかどうかは原曲順が解説に載ってますので確かめられます、私はやってませんが。この手の並べ替えには第32、33巻のシューベルト「冬の旅」「白鳥の歌」でもう一度出会うことになります。私、ロッシーニも余り知りませんが、これまたかなり天才であると思えてきます。他人の作品のリストによる編曲、かつ、カンツォネッタ、ボレロ、ノットルノ、バルカローレ・・・といった副題がつけた性格小品が並んでいる点、で似ているようでも、どうにも退屈しきってしまう第16巻の「ぶんて、らいへ」とは雲泥の差、なのは殆どが原曲の差、でしょう。
原曲作曲者の読みもタイトルの訳も自信がありませんがメルカダンテ?の歌曲による「イタリアの夜会」(1838)も上記作品と同系列の楽しい曲です。こちらは原作12曲中の半分しかリストが相手にしなかったのですが。
CD2に移って、私には訳せない原題、本当はアクセント記号とかつくのですが、「NUITS D'ETE A PAUSILIPPE」(1838)はドニゼッティ原作、副題が「イタリアの夜会(?)第7-9番」、これも同系統でいいなぁ、という以上のコメントは出来ません。
次が「第2年」の第4〜6曲の原形、「ペトラルカの3つのソネット」(1844-1845)。ペトラルカのソネット(まあ詩集です)の第47番、第104番、第123番にリストがメロディをつけた歌曲が原作で、そのピアノ編曲の初稿です。着飾った人であふれ返る社交の場から、心の中の恋の歌?に移ったわけです。これは3曲ともいい。洗練に向かった最終形と比べるとあちこち色々楽しいおまけがついていて、品の良さでは負けるかもしれませんが、楽しさでは勝っています。最終形は品は良くとも3つ続けられるとやや退屈する(第19巻の他の自作歌曲編曲と近い状況)のですが、にぎにぎしい初稿の方が続けて聞いても退屈しません。
「ヴェネツイアとナポリ」(1840)は、勿論「巡礼の年第2年補遺」として有名な同名曲集の前身で、この「前身」の第3、4曲が「補遺」の第1、3曲に該当します。第1曲レント(ゴンドラ女の歌)は実は「タッソーの葬送的凱旋」、第3巻に出てくる「葬送頌歌」第3曲の原形です・・・あれれ?葬送頌歌の原曲は1860年代の管弦楽曲だったはず、とすると、こっちがそのまた原曲で、結局ピアノがオリジナル?ですか。このCDで最終形と比べてはっきり見劣りすると言えそうなのはこの曲くらいでしょうが、これとて十分面白い。
第2曲アレグロ、これだけが後につながらなかったわけですが、ファンファーレ風に元気よく始まる曲です。ちょっと竜頭蛇尾? 第3曲「ゴンドラをこぐ女」、ひっかかるシンコペーションや長いトリルなどが、よりシンプルな最終形とは違った味を一々出しています。このトリルが10度を押さえながらその中でやっている大変なものらしいです。第4曲「タランテラ」、この曲の場合は最終形の方が謎めいた曲想なので、むしろまともなタランテラに聞こえる初稿と、立場が逆のような気がします。それぞれの味を出してどちらも面白いのには違いありませんが。
「音楽の夜会のモチーフによる幻想曲」が最後に2曲、いずれもCD1の材料を使った(のかな)、にぎやか&華やかで屈託ない典型的ショーピース系、これらも気楽に楽しくていいですよ。