第20巻:旅人のアルバム(巡礼の年第1年の原形を含む) お勧め度:D

もう既に一度ならず「巡礼の年第1年」を評価しないと書いてしまいましたね。。。そしてこの「旅人のアルバム」は、その「第1年」を出版する際にリストが原版の買取回収までやったという、原形というか、未完成品というか。作曲者の意図を尊重するなら、これはコレクターズアイテムどころか、聴いてはいけない? ところが、そういうものだと思って聴くと悪くないのですね、これが。逆に「第1年」を壮年期の代表作と思って聴くから評価しない、という言い方になってしまうわけで、リストの作品を一次元に並べる難しさを感じています。でもやっぱりこの2枚組はコレクターズアイテムです。なお、この巻は大全集中4つ目のリストソサエアティのグランプリ受賞作ですが、私見ではこの巻のハワードは不調です。

冒頭が「スイスのメロディによるロマンティックな幻想曲」(1836)、題名は私の訳ですから信じないで下さい。直訳ならこんなもののはずですが。F-E-G-Fが繰り返し聞こえるのはスイスのカウベル?。不思議な曲です。さすがにこの不思議の世界のままで18分続けられると厳しい。

 このいささか長い前座に続いて、「旅人のアルバム」(1834-1838)の第1集「印象と詩」で、この第1集が「第1年」の原形になります。7曲(第2曲を2つに数えて)中、最初と最後の2曲を除いて改訂版が「第1年・スイス」(全9曲)に収録されています。第1曲「リヨン」が収録されなかった訳は明々白々、リヨンはフランスはブルゴーニュの都市ですから。ハワードはこの曲が忘れられたことを惜しんでいますが、それほどかなぁ・・・ヒロイックなのですが、ちょっと雑な感じ。大体リヨンのどこがヒロイックなんだろ? 雑な感じは演奏のせいかもしれません。

 「ワレンシュタットの湖畔にて」と「泉のほとり」を合わせたものが第2曲らしいのですが、別々にタイトルも付いているようですし、意図は分かりません。その「ワレンシュタットの湖畔にて」は、ハワードによると「第1年」と殆ど同じだそうです。退屈な曲だと思っているので、間違い探しする気にもなりません。逆に「泉のほとり」は「第1年」中の最高傑作だと思っているのですが、.メロディは同じでもその周りの音形が大分違っていて、どうもキラキラしません。もっとも、この全集中他に2つある「泉のほとり」も私には「乗れない」ので、楽譜の差かと演奏の問題か釈然としません。

 「G*****の鐘」は勿論「第1年」の「ジュネーブの鐘」、なぜ当初リストが伏字を使ったかは不明とのことです。冒頭は同じですが、すぐ聴いたことのない世界に入ります。きれいだけどやや退屈な「第1年」と、5割見当長くて何か変なこちらと、やはり最終形の方に軍配を上げます。「オーベルマンの谷」は「第1年」では2番目に、ここでは一番好きです。主題の前に実に思わせぶりな序奏が付き、主題もちょっとずつ違います。起承転結が最終形ほど明確ではなくて、断片の堆積のようになっていますが、これはこれで面白い。最後まで微妙に、しかしはっきりと違ったままです。

 「ウィリアムテルの礼拝堂」は「第1年」の冒頭を飾るつまらない曲ですが、こちらの版の方がまだ色々くっついている分だけ楽しく、この曲に限ってはこちらの方を支持します。最後の「詩篇」は曲というほどのものではないかもしれません。ほぼ単純な和声進行だけ、「リヨン」ほど惜しまれなかったのは分かります。

 CD2は「旅人のアルバム」の第2集「アルプスの旋律の花々」、多く数えれば全9曲全て無題、から始まります。2つ目が「第1年」の第8曲「郷愁」、3つ目が同じく第3曲「パストラール」、いずれもあんまり評価しませんが、の原形です。これらを含め、どちらかというとつまらない方に分類せざるを得ない曲の方が多いと思います。

 第3集「パラフレーズ」、題があるので書いてしまいますと「F.フーバーの牛追歌による即興曲」「山の夕暮れ」「F.フーバーの山羊追歌によるロンド」、もっとも、1876年の最終改定版で題名を変えたため、個々の題名が歴史的に混乱しまくったようで、ここでは邦題アンチョコに従いましたが、1830年代の正しい原題とは違うようです・・・気にしない気にしない。何れもショーピースと割り切れば結構楽しい。派手派手オペラファンタジーの、それもかなり出来のいい奴、という感じです。真中の曲のオリジナルはE.Knop作曲だそうで(だからどうした?)。最終改訂版とどっちが楽しいかというのは、第39巻で触れましょう(覚えていれば)。

最後のフィルアップが「気まぐれなパストラール」「高き山に登りて」(1844)、訳は信じないで下さい。埋め草と思ったら、明らかにこの2枚組みの平均レベルよりは上です。

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