DVD/LD リスト:オペラ以外

・・の前に、私的シェイクスピア

私の経歴のどこをとってもシェイクスピア愛好家になりそうなところはないのですが、昔から良しとされるもののうち、割と気に入っているのがシェイクスピアです。発端は20年程前NHKで放送されたBBCのシリーズ、見たのは一部ですが、「お気に召すまま」など吹き替え版と字幕版の両方をしっかり見たことを覚えています。その頃はまだ私が若すぎましたが、ともかく著名作品の日本語訳を揃え始めました。
より本格的には Kenneth Branagh の「ヘンリー5世」を見てからです。貸しビデオ屋から2回借りて繰り返し見たこの作品に、シンシナティのホテルで何気なくつけたTVで再会した時には、特別な縁を感じました。大体、その出張の機中の映画が Branagh の「空騒ぎ」でした。
「ヘンリー5世」は歴史的には「太平記」位の時代ですが、日本で「太平記語り」が大衆のものでなくなってから久しいのに対し、「ヘンリー5世」という民族の英雄劇が16世紀の姿そのままで(大衆的とはいえないのかもしれませんが)現代でも上演可能であることを考えると、我らが国語の変貌の速さを遺憾に思うしかありません。

シェイクスピアのDVDは7枚目まではamazon.com で購入、リージョンコード1=米国・カナダ向けで、本来日本での再生が不可能になるように設定されているもので、リージョンコード破りが出来ないと再生できません。当然日本語字幕はつきません。英語字幕がついている物も一部です。しかし白水Uブックスの小田島雄志訳の全集が簡単に手に入りますから、字幕が無いのは余り問題になりません。オペラが意外と映像化に向いていないし、流行ものなら貸しビデオで十分、と思うのに同意される方には、リージョンコード破りが前提ですが、結構お勧めできるような気がします。

amazon の検索で shakespeare と入力すると、"The Plays of William Shakespeare" シリーズは勿論ヒットしますが、Branagh のはヒットしないのです。ただ、改めて Branagh の「ヘンリー5世」を見てから"The Plays of William Shakespeare" シリーズを見ると、良く言えば初演当時の趣を伝えているのですが、要するにお金が全然掛かっていないのが分かってしまうのです。作品名で検索すれば他にも候補が出てくるのでそちらの方がいいかも知れません。ただ、史劇物は困ります。「Richard II」で検索しても、リチャード某が出演しているシリーズ物映画の第2作(「ロッキーII」とかの類です)が全部ヒットしてしまいます。

・・・上記の駄文は、
2003年以前に書いたのではないかと思うのですが、それから10年以上経過した2013年に「NHKで放送されたBBCのシリーズ」の日本語字幕つき全集を入手してしまいました。発売元価格は44万円、一方英国仕様で英語字幕のみ付くものがヤフオクで29,800円(専用DVDプレーヤーのおまけ付き)、と極端に差のあるところ、44万円相当品の開封済み新品同様品をかなり安く(といってもそれなりに大きな額で)入手しました。ヴェルディのオペラ全集を見送っていたのに、2倍以上の金額になったこちらには手が出てしまいました。全作品を寿命のある間に見ないかもしれない、のですが、追々紹介していきたいと思います。(13.10.27)

「じゃじゃ馬ならし」DVD
エリザベス・テーラー、リチャード・バートン主演の古典映画で、監督はオペラの演出でも有名なゼッフィレッリです。原作の劇中劇部分だけを自由に映画化したものです。ほぼ原作の台詞を生かしているようですが、リズミカルにしゃべくりまくる、というシェークスピア劇に対する私のイメージからすると、間の取り方や表情のつけ方が現代映画風で、逆説的ですが、そのことが古さを感じさせます。シェークスピアを「聞く快感」を求めると多少物足りなさも感じます。とはいうものの、有名俳優陣はさすがに素敵で達者で、古典名作映画だと思えば全然不満はありません。ブラナーの「恋の骨折り損」よりは楽しめます。(06.06.03)
「ヴェローナの二紳士」BBCシリーズのDVD
さして予習もせず、さほど期待もせずに見てみましたが、これは良いです。控えめに言っても私の好みです。冒頭から、饒舌な会話がイギリス発音でカンカン響いてくると、既に「こういうのが好みなのよね」という気分になってきます。同じシリーズの「ヴェニスの商人」風のシンプルな舞台も良いです。そこで演じられるストーリーの展開に無理は多々ありますが、それを気にも留めずに聞き惚れてしまえれば、「お気に召すまま」の先駆をなす傑作、のような気もします。こちらでも森が全てのものを浄化しているようですし。ヴァレンタインが盗賊の頭に納まってしまうのはともかく、プロテュースに対する「許し方」は確かにあんまりだと思いますが、実質の主役第一位はプロテュースなのでしょう。
そのプロテュースの葛藤は古典的でもあり、現代でも古びることの無いものだと思います。これを(「ジュリアス・シーザー」みたいな変な収録をせずに)堂々と独白させているのが、落ち着いて聞いていられます。女優さんは皆素敵です。主役4人の従者の3人までが準主役級で、これが(「終わりよければ全てよし」のようにうるさくならずに)主筋に無理なく絡んでくるのもいいです。というわけで、wikiで見る限り世評は低そうなのですが、個人的には「空騒ぎ」と同等ないしそれ以上に気に入りました。(14.06.29)

「恋の骨折り損」DVD リージョンコード1、英語字幕あり
最近映画で公開されていたもの、しかし今一つでした。比較的弱い原作をミュージカル仕立てで軽く仕上げようとしたようですが、ロシア人に扮する場面もアーマード他のヘボ芝居も結局本編からはカット、しかしおまけ映像にはある、ということは多分編集時点で断念したのでしょう。内訳話のおまけ映像も入ってますが、ここを聞き取る英語力は全くありません。
大幅に原作から離れたのが良くないというつもりもないですが、シェークスピアらしい言葉の楽しさという観点でも、シンプルなミュージカルという観点でも中途半端です。(01.08.13)

「リチャード2世」(その1)DVD リージョンコード1
リチャード2世という役は、人間の弱さの色々な側面をさりげなく拾い上げていて最高に魅力的だと思っています。典型に偏らない分、リチャード3世よりもハムレットよりもリア王よりも現代的と申しましょうか。この作品を読んでみる気になったのも、「ヘンリー5世」中の言及からです。
"The Plays of William Shakespeare" シリーズの中でも俳優は一段と落ちるような気がしますが、多分選択の余地は無い作品だし、肝心の主役が期待を裏切らなかったので、いいことにします。しかしBGMにテープの回転がおかしくなったような音が入るとなると、もう少しまじめにやれ!と言いたくもなります。(01.07.15)


Richard II

「リチャード2世」(その2)BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。
”リチャード2世という役は、人間の弱さの色々な側面をさりげなく拾い上げていて最高に魅力的だと思っています。典型に偏らない分、リチャード3世よりもハムレットよりもリア王よりも現代的と申しましょうか。”・・・という13年前の(その1)紹介文の書き出し、今読み直しても、我ながら上手いこと言ってる、と思います。主役のディレク・ジャコビは、ブラナーの「ヘンリー5世」での説明役ですが、この時代随一のシェイクスピア役者がBBCシリーズで演じたのが、ハムレットとこの役、というのが、この役の魅力の傍証になるのかもしれません。
全編韻文で書かれていると言われても、日本人にそんなこと分かりそうもない、のですが、大見得を切って大言を吐く場面の英語のリズミカルな響きの心地よさは十分分かります。冒頭のボリングブルック対モーブレーもそうですし、一番の名場面はウェールズの海岸に上陸したリチャードが、徐々に戦況を理解して落ち込んでいく場面だと思っています。そういう趣味でいうと、譲位の場面より後、ヨーク公夫人の場面とか獄中のリチャードの独白とか、は、少々退屈になりますが、それでも、(その1)と見比べるまでも無いほどに主役・準主役陣の充実したこの1枚、史劇にとどまらず、全悲劇系作品中でもトップクラスに好き、ということになりそうです。(14.03.09)

「夏の世の夢」(その2)BBCシリーズのDVD
 文庫本で読んだ際に「これは映像で見ないと面白くない作品なのだろう」と思った点では「ヘンリー4世」と双璧をなすこの作品、こちらは映像で見たら中々楽しめました。「ロバ頭のボトム」は映像で見て初めて分かるところだと思います。三大喜劇には及びませんが、ロマンティック・コメディーの先駆け、でいいのかな?
 シェイクスピアらしい喋りがガンガン来るわけではないですが、各々の俳優の見た目にも違和感がなく、程よく自然で程よくわざとらしい映像にまとめられていると思います。その中では、裸で出てくる妖精パックだけが、異様に人間臭くて違和感大でした。象徴的に妖精であることが見て分かるような衣装か印を身に着けて出てきて欲しかったところです。(14.06.22)


The Merchant
of Venice
(1/12)

「ヴェニスの商人」BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。視聴不可になりました。
 NHKで放送された際の記憶はうっすらあります。当時の記憶では、「お気に召すまま」を基準にするとスタジオ収録の背景がいかにも寂しかった、のですが、今見ると普通にシンプルで分かりやすい装置で特に気になるところはありません。ヴェネチアでロケができるものならまた違ったものになっただろう、という欲が出ない訳でもないですが。
 おとぎ話的なエピソードを繋げてまとめられたこの作品は、粗筋レベルでは多分一番有名だけれど「3大喜劇」程は尊敬されていないのだろう、と思いますが、余分なことを考えずに素直に楽しんでしまえばいいと思うのです。そしてこの映像でのシャイロックの描き方は、「ユダヤ人の悲劇の象徴」といった重々しいものではなく、シンプルな喜劇の敵役の範囲にとどめていて、(他の映像と見比べたわけではないですが)私の好みに合っているのだろう、と思います。勿論この映像ではその敵役が見事に演じられています。その他の男性陣も、アントーニオはイメージどおり、バッサーニオはやや老け過ぎですが軽い感じは良く出ています。
 この作品でも男装の女性が出てきます。同じBBCのシリーズの「十二夜」「お気に召すまま」では、女装している間はいま一つでも少年に扮した途端に魅力一杯、という感じだったところ、ここでは、女装でも男装でもちょっと冷たい感じで奇麗な、(私の描く)イメージに実にピッタリな人がポーシャを演じています。ポーシャが出てこない場面はちょっと退屈、というのは「3大喜劇」と比べて、やっぱり水準が少し落ちるのかな、と思わないでもないです。
 youtubeに上がっている映像としては、12分割されているものを紹介しておきます。「お気に召すまま」の11分割に準じます。(13.12.14)


Shakespeare's
Henry IV
Part 2

(1 of 11)

「ヘンリー4世第1部」「同第2部」BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。
 2つに分けられていますが、長くなりすぎたから分けただけ、という説が妥当だと思います、というか、この映像がそういう印象を補強するような作りになっています、ので、まとめて紹介します。
 古来、ロマンティックコメディーの最高傑作が3大喜劇=「十二夜」「お気に召すまま」「空騒ぎ」、であるのに対し、ファース(笑劇)の最高傑作、とされている二部作です。しかし、岩波文庫から出ている中野好夫訳で読んでもさっぱり面白くなく、これは映像で見ないと面白さが分からないのだろう、と自分に言い聞かせていたのでした。
 それらを、晴れて映像で見たのですが・・・やっぱり面白くない。古来、題名はヘンリー4世だけれど、実際の主役はハル皇太子で、その主役を食ってしまう大脇役がフォールスタッフだ、ということになっていますが、最初の感想は、そのフォールスタッフ役が良くないのだろう、というものでした。フォールスタッフがセコくてズルい、のはその通りなのですが、根っこのところで、周りの人間に好きで好きでたまらないと思わせるような、「器の大きさ」とか「高貴さ」とか、を持っている風に演じないと魅力が出てこない、と思うのです。私にそのようなフォールスタッフ像を描かせたのは、出番はわずかですが、ブラナーの「ヘンリー5世」の回想シーンに出てくるフォールスタッフです。それに比べると、ここでのフォールスタッフは、ただセコくズルいだけのデブの老人で、魅力がありません。
・・・とか書いても、古来、馬に食わすほど書かれたらしい「フォールスタッフ論」に付け加えるものは何も無いのでしょうが・・・。
 というところで、「ヘンリー5世」(2種類)、「リチャード2世」を何度か見てから、これらを見直してみると、ハル王子の魅力の無さも同程度に足を引っ張っているようだ、という結論に達しました。ハル王子も、ブラナーが回想シーンで演じている方が遥かに魅力的です。ヘンリー5世の肖像画に良く似た俳優さんですが、同じBBCシリーズの「ヘンリー5世」にしてもこちらにしても、主役を務めるには力不足だったように思います。脇役陣を見ても、「リチャード2世」での、ボリングブルック/モーブレー/ゴーント、という面々に比べると、ぐっと見劣りします。ボリングブルック(=ヘンリー4世)は同じ人が演じているのですが、そもそもこちらの方が目立たない役ですし、相手役に恵まれない分こちらでは冴えないようです。
 youtubeには、今のところ第2部しか上がっていないようです。そして、BBCシリーズ以外の「ヘンリー4世」全編は第1部第2部ともyoutube上には見当たらないので、この作品に対する私の以前からの印象を覆すような映像には、当面出会えなさそうです。これこれのような、いかにも楽しそうな舞台収録の抜粋を眺めていると、この作品は映画仕立て向きでなく、吉本新喜劇のように観客があってこそ、の芝居なのかな・・・ずっと昔にここに書いたような話ですが・・・という気もしてきます。(14.03.16)

「空騒ぎ」(その1)DVD リージョンコード1、英語字幕あり。国内盤が出たこともあります。
ブラナーのもう一つの傑作です。原作は「3大喜劇」の多分第3位、私もそう思います。「十二夜」「お気に召すまま」と比べてどこが楽しくないといえば、ドン・ジョンの非生産的な悪意、それに踊らされたクローディオの仮借ないいじめは、読んでも見ても楽しくない。かく言う私、「オセロー」の日本語訳を持っていますが一度も読み通したことが無い。
それを補って余りあるのが、ベネディックとベアトリスの掛け合いです。これが凄い早口で、最初は英語字幕すら目で追えない状態でしたが、3回見れば少しずつ分かるようになりました。分からないまま3回見させるだけの美しい絵、達者な演技があります。音場感も広くスピーカー幅より随分拡がります。
ドグベリーの場面は私には無理です。respectというべきところをsuspectと言っているのは分かりましたが、自分でやりかねないな、と身につまされるだけで面白くは無い。"The Plays of William Shakespeare" シリーズと比較すればやはり省略は多いです。(01.08.13)

「空騒ぎ」(その2)BBCシリーズのDVD
 「ヘンリー5世」ではブラナーに完敗のBBCシリーズでしたが、この作品では多少なりとも勝っているように思います。
 全体の作りでいうと、(その1)での音楽と豪華ロケの威力が「ヘンリー5世」程には発揮されていないように思います。一番引っかかるシーンであるクローディオのいじめのシーンを、屋外にもってくるのは(その1)の演出のやり過ぎで、お日様の下でこうも不当に侮辱してしまったら取り返しがつかない、と思っていたところ、(その2)は薄暗い教会の中、これなら後でクローディオが心から反省すれば何とか修復可能かもしれない、と思えるのです。
 役者陣もこちらの方が総合的にはやや勝ると思います。(その1)でベアトリスを演じるエマ・トンプソンも猛烈に上手いのですが、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性にしかみえない、というのが、(その1)だけ見ている時には気にならなかったのですが、(その2)のシェリー・ルンギ演じる才気煥発お転婆娘を見てしまうと、これはこちらが合っているだろう、と思います。なお、ケースの写真とは全然似ていません。その一方で、ヒーロー役は、(その1)のケイト・ベッキンセイル(これが映画デビュー作とのこと)が断然可愛い。
 男優陣は割と似た感じになっていて、大きな差は無いようにも思いますが、ただ、(その1)でドン・ジョンを演じるキアヌ・リーブスは不気味なだけの大根のようにも思います。ドグベリー以下の面々については私はコメントできません。
 以上、第3位とは言え、「3大喜劇」の一角を占める名作を大いに楽しめます・・・が、この映像が少し前までyoutubeに上がっていたのを確かに見ていたのですが、今日探してみたらブロックされて視聴できなくなっていました。(14.04.21)

「ヘンリー5世」(その1)DVD 私のはリージョンコード1の字幕無しですが、国内盤が出たこともあります。
私にとっての原点ですが、久しぶりに見て改めて感動しました。研究者から見れば「素人受け狙い」なのかもしれませんが、私は素人なりの自信を持って、同好の方に強くお勧めします。"The Plays of William Shakespeare" シリーズと比べて、ロケをやっているということを差し引いても桁違いのお金が掛かっていると思います。小田島先生の訳本と比べると省略や入れ替えが随所にあるので多少焦るかもしれません。
ブラナーは決していい男ではないのですが、詩の魔力を何倍にもする声の魔力を持っています。加えてラトル指揮バーミンガム市響の演奏する音楽の素晴らしいこと。
小田島先生はアジンコート決戦前夜のヘンリー王の独白に作者の新境地を見出しておられるのですが、そしてその場面も勿論見逃せないのですが、劇的な迫力では何といってもその直後の鼓舞演説の場面です。"We few, we happy few"なんてもう訳しようがないですよね。ここは、誇張ではなく、見る度に鳥肌が立ちます。 (01.07.15)

英語字幕と日本語字幕を付けました。誰がどう活用できるのか?という代物ですが、詳しくはこちら。(13.11.17)


Henry V
- BBC
Shakespeare
Collection

「ヘンリー5世」(その2)BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。
「その1」に惚れ込んだ目で見てしまうと、これはどうにも冴えません。映画仕立てである「その1」での、音楽の魅力や戦闘シーンの迫力がない、のは仕方が無いとして、それでは済まない差があるように思えてしまいます。
主役が、髪型を含めてヘンリー5世の肖像画に似せてあるのですが、声に魅力が無いのでしょう。大向こうに呼びかける声にならないので、決めるべき場面が決まりせん。ハーフラーでの自軍兵士への呼びかけも、一番の見せ場である「クリスピアン・スピーチ」も、鼓舞演説にはならずに、目の前の少数の兵士に語りかけているようにしか見えないのでは、全然魅力が感じられません。
脇役陣を見ても、キャサリンがまあまあいい以外は「その1」に対して全敗に近いような気がします。「その1」よりカットが少ないのも、その分だけ余計にフルーエリンが口先だけの男に見えてしまう等、これも上手くいっているような気がしません。

「その1」への日本語字幕でとりあげた、クリスピアン・スピーチの後半の訳し方については、こちらに追記しました。(13.11.17)


Julius Caesar 1of12

「ジュリアス・シーザー」BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。
 文庫で読んだ時から、いわゆる「史劇」ものと比べると、「芝居っ気」が不足していて、引き締まってはいるものの、シェイクスピアらしさが少ないような気がしていたのですが、その先入観を補強するような映像でした。
 「芝居っ気」をわざわざ損なっていて気に食わないのが、「心の声」のつもりでしょうか、舞台上で口を動かさず音声のみ流す、独白部分の収録方法(全部ではありませんが)です。これに限らず、ヒソヒソ話を聞き取り困難な小声で喋らせていますが、シェイクスピアの時代には全聴衆に聞こえる声でヒソヒソ話を喋られせていたはずです。そしてしっかり聞き取れる声で発声されてこその名台詞だと思うのです。「お前もか、ブルータス!」を妙なリアリズムで虫の息で聞かされても面白くも何とも無い。
 それぞれの役柄のイメージを損なわない配役だとは思います。特に下手に演じられたら嫌味になりそうなブルータス役は、上手いものだと思います。アントニー役も中々よく、シーザー追悼演説の出来も、幾つかyoutubeに上がっている他の映像より上回るように思います。ただ、この演説シーン、少なくとも日本ではシェイクスピア劇中で一番有名な演説ということになるのかもしれませんが、「ヘンリー5世」のクリスピアンスピーチと比べてしまうと、全然魅力のない演説シーンです。
 youtubeには12分割のものが視聴可能です。消されてしまうより前にご覧になることをお勧めします。(14.06.01)

As You
Like It
(1/11)

「お気に召すまま」BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。視聴不可になりました。
NHKで放送された際に最も私の印象に残った作品です。全てを受け入れて浄化してしまう「アーデンの森」という設定の不自然さを物ともせずに進行していくこのお話、「十二夜」に並ぶ大傑作だと思っています。
 ほぼ全てが野外ロケなので、舞台のイメージとはかけ離れます。駆け出しのオペラファンだった頃にここに書いたように、オペラにロケは似合わないと思うのですが、シェイクスピア劇だと十分許容、というより、上手くやってくれさえすれば、ロケの方が好きです。で、この「お気に召すまま」、最後の最後に出てくるギリシャ神話の神ハイメンには脱力が避けられません・・・全集に同梱されたブックレットには「神というより、まるでヘアスプレーの広告から抜け出してきた男性モデルのようになってしまった」と書かれています・・・が、そこさえ目をつぶれば、最高に素敵な出来です。
 同じBBCのシリーズの「十二夜」と同じく、主役のロザリンドは女装している間はいま一つ・・・こちらの方がさらにいま一つかもしれません・・・ですが、少年に扮した途端に魅力一杯です。オーランドーは健闘でしょうが印象はそれ程強くなく、男性陣ではタッチストーンとジェイキスの方が印象が強くなります。「十二夜」のフェステに対しても、この映像のタッチストーンを基準にしてあれこれ言っている私には、ここでのジェイキスもタッチストーンも最高に素晴らしいと思う、としか言えません。
 youtubeに上がっている映像としては、分割無しでアップされているものは英語字幕を読むにも差し支える画質なので、11分割されてしまっている方を紹介しておきます。分割箇所は約10秒ずつ重複しているのが連続再生しても少々気になります。ダウンロードしてから avidemax で重複部分を除いて一本化することはできます・・・私はその作業を一旦やりました。それだけ手間をかけても正規DVDより随分と画質が劣ります。(同文になりますが)英語字幕は付きますから、作品を良くご存知の方なら楽しめると思います。(13.11.23)
「十二夜」(その1)DVD
シェイクスピアDVD8枚目にして初めてリージョンコード2で日本語字幕(または吹き替え)付き、なんと楽なことよ。但し、原作が「3大喜劇」の第1位であるにもかかわらず、映像作品としての魅力はブラナーの「空騒ぎ」には及びません。「空騒ぎ」でのブラナーとエマ・トンプソン(当時夫婦)の猛烈な掛け合いに多少とも近いところまで行っているのはヘレナ・ボナム=カーターだけ、さすが離婚後のブラナーが目をつけただけのことはある?。他が下手というわけではないですが、シェイクスピア劇らしいリズムの無い、普通の映画の台詞回しに近くなっていて、私にはシェイクスピア原作を生かしきれていないと感じられます。
もっと気になるのが演出で、タッチストーン(お気に召すまま)よりもさらに陽気な道化だと思っていたフェステが、ジェイキス(同)もびっくりの隠者になってしまっては、マルヴォーリオいじめも妙に深刻になってしまって笑えません。フェステがオリヴィアのところにもオーシーノーのところにも出入りすることから「さすらいの道化」のイメージを膨らませたようですが、私は『まともに歌を歌えるのがフェステ役だけになってしまった時に作者が緊急避難的に両家に出入りさせるようにした』という説に組するものなので、このフェステ像には賛成できません。
とはいえ、ブラナーので日本語字幕DVDが出ている「ヘンリー5世」「恋の骨折り損」よりも入りやすいでしょうから、お勧めはします。(05.10.02)
Twelfth Night
(Shakespeare)

-Directed by
Kenneth

Branagh
「十二夜」(その2)youtube の動画です。DVDではありません
シェイクスピア熱再開の折にyoutubeで見つけた動画です。順番としては、BBCシリーズの方を英語字幕付で先に見たのですが、全集DVDの日本語字幕付としては未だ見ていないので後回しにして、ブラナー演出のこちらを先に紹介することにしました。
 ブラナー関係のシェイクスピアとしてはこれで4作になりますが、「恋の骨折り損」より断然楽しめるものの、出来栄えだけで言うと「ヘンリー5世」「空騒ぎ」の水準には達していないように思いました。この2作は、ブラナーの出演、大掛かりな野外ロケ、素晴らしい音楽、の3点で共通しますが、「十二夜」はこれらの全てを欠きます。オーシーノウ役では出る気がしないとしたら、ブラナーが出られるのはフェステ役しかないと思うのですが、フェステで出るには歌に自信が無かったのでしょうか。固定セットのままで全シーンを収録してしまうのは、舞台上演のイメージを取り込みたかった? これはこれでいいのですが、他2作の豪華な野外ロケに目が眩んでいる私の目にはやっぱりさびしい。そして音楽。編成が小さいのは、これまたこれでいいとするところですが、ピアノがはっきり言って下手です。ブラナーの作品に添えて良い水準には達していません。
 台詞回しにはシェイクスピア劇らしさが出ていて私の好みです。オリヴィア役が、三者三様に美人ながら、この人が一番イメージに合います。逆にヴァイオラ役は一番美人でない人が当たってしまっています。それもあってか、最後の場面でオーシーノウがオリヴィアを諦め切れないながら仕方なくヴァイオラを選択したように見えてしまいます(ここのところは「その1」が用意周到に上手くやっています)。フェステ像は、「その1」での「隠者」よりはよほどなじみやすいですが、私が小津次郎訳の岩波文庫で読んで勝手に膨らましてきたイメージと比べると、まだ軽やかさに欠けます。特に最後の場面、幸せなカップルが2組(3組?)誕生した喜劇なのに重苦しいトーンに引き摺り下ろされる感じがします。
 英語字幕すら付いていませんから、初めての方にお勧めはしませんが、この作品を良くご存知の方なら大いに楽しめると思います。(13.10.27)

35) TWELFTH
NIGHT_BBC
SHAKESPEARE
COLLECTION

「十二夜」(その3)BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。視聴不可になりました。
というわけで(一つ上参照)、全集DVDの日本語字幕付としても見てみました。素晴らしい日本語字幕です。岩波文庫の訳文と比べてみると、かなり切り詰めた日本語なのですが、すんなり入ってきます。
 台詞回しは「その2」同様に私の好みです。オリヴィア役は、まあまあ、です、ヴァイオラ役は同じシリーズの「お気に召すまま」のロザリンド役の人と同じく、女装姿はどうも冴えないのですが男装になると一気に才気煥発の可愛い少年に成りきります。3人のヴァイオラの中では断然一番だと思っています。フェステも、陽気でずうずうしいこの人の演技が一番いいと思うのですが、もっとカラッとした陽気さだといいのに、と思ってしまいます。BBCシリーズ「お気に召すまま」のタッチストーンのイメージで、フェステをやってもらえないものか、と思っているのですが。
 最後の場面で、どうも翳りが出過ぎるのは3つとも共通するようには思います。「その2」では沈みっぱなし、「その1」は結婚パーティーのシーンを付け足してフォローした、のに対し、この「その3」はそれ程には沈まないで済んでいますが、3作とも連れてこられたマルヴォーリオに応対するオリヴィアが真顔すぎるのではないか、と思っています。シェイクスピアの時代は知らず、表情をアップで収録できるのですから、「噴き出してしまいそうなのをこらえて同情しているような顔を作っている」という演技が可能だと思うのですが。
 youtubeに上がっている映像は、DVDより画質が劣りますが、許容レベルだと思います。英語字幕は付きますから、作品を良くご存知の方なら「その2」より簡単に楽しめると思います。(13.11.04)

「ハムレット」(その1)DVD リージョンコード1
日本語訳を読むなら一番好きな悲劇ですが、これは失敗。1964年のリチャード・バートン主演の舞台の白黒モノラル記録で、amazon.comの評価は高かったのですが、これはネイティブの通人の評価。日本人のド素人では全く駄目。シンプルなりに明瞭な映像と音を確保している"The Plays of William Shakespeare" シリーズを逆に見直しました。
ピアノでしたら私もそこそこ通人ですからホロヴィッツの1930年代録音に掛け値無しで感動しますが、これも普通の人には単にひどい録音としか聞こえない、というのをちょっと思い出しました。好きな作品ですから、他の新しいのをあたってみましょう。(01.08.13)

「ハムレット」」(その2)BBCシリーズのDVD
 (その1)のところでも書いたように、「日本語訳を読むなら一番好きな悲劇」なので、入手後早いタイミングで一度見てみた・・・のですが、考え込んでしまったので、半年寝かしてからもう一度見てみました。主役のディレク・ジャコビが自在に演技しているのは「リチャード2世」同様なのですが、あちらの方が随分と魅力的に見えるのは、自分で思っているハムレット像より老け込んでいるから、なのでしょうか。私が戯曲日本語訳を読んで勝手に作っていた「ハムレット像」は、基本的にははつらつとした青年であり、劇中自分自身を卑下するほどには愚図ではないはずだったのです。現にポローニアスを一突きで殺しているではないですか。あの場所に隠れていたのがクローディアスであれば復讐成就劇の円満解決ができていたのです。それが、ジャコビ演じるハムレットだと、「くたびれて」見えてしまうことから、自分自身を愚図呼ばわりするところに説得力がありすぎる、ようにも思えます。
 筋を追うならば何とも後味の悪い話のところ、会話と台詞を追うようにしてから好きになった、のが、この映像を見るに際しては元に戻ってしまった感はあります。シンプルで象徴的な装置は「ヴェニスの商人」と同じような感じで好きになりそうなものなのですが、照明がひたすら暗くてイメージは大分違ってきます。発声は皆さん小声でも明瞭で、この点も好みのはずなのですが、この芝居には頻出するはずの「決め台詞」が伝わってこないのは、もしかしたら字幕にも少し残念な面があるのかもしれません。
 音声だけから入っていたモーツァルトとヤナーチェクのオペラでも似たようなことが多発しましたが、(主役に限らず)この劇全体に対して戯曲として描いていたイメージと映像との間にギャップが大きかったのでしょう。とすると、繰り返し見るうちにこの感想も変わっていくかもしれません。(14.07.20)

「ウィンザーの陽気な女房たち」BBCシリーズのDVD
ヴェルディ最後のオペラ「ファルスタッフ」の原作です。そして故・永竹由幸さんは「ファルスタッフ」を激賞する一方で、原作の方はシェイクスピア作品で一番好きではない、とのこと。で、「ファルスタッフ」が今一つピンと来ない私がこちらを見て、まあ、これもこれでマアマアいいのでは、と思った次第。
罪の無いドタバタ劇で、考えさせるようなところは全くありません。フォールスタッフがずうずうしいのはよく分かりますが、どう魅力があるのかよく分かりません。「ヘンリー4世」でのフォールスタッフの魅力がよく分からない人間には、なおのことよく分からないのでしょう。むしろ、女房たちが主役だと思って、こちら側に感情移入して見るほうがピンと来ます。
見た目でも中々いい線いっている役者さんたちは、演出の中でそれぞれ好演しているのだろうと思いますが、饒舌な台詞を朗々と詠じて欲しいという私の趣味からすると、口の中で喋る人が多いのが残念。セットは「お気に召すまま」のような完全フルロケと、「ヴェニスの商人」のような象徴的舞台との間の、「ヘンリー5世」あたりと同じような舞台、これも私の趣味でいうとやや残念です。私の手元には半年ほど前にダウンロードしたyoutube映像があるのですが、今探すと見当たらないので、これも消されてしまったようです。(14.07.06)

「終わりよければ全てよし」BBCシリーズのDVD
youtubeにはアップされていないようです。主人公のヘレナから見れば「終わりよければ全てよし」のようですが、ヘレナのストーカー行為の被害者とも言えるバートラムから見たらどうなの、というのはwikipedeaに指摘されている通りの凄いお話、これをこの粗筋だけの予備知識で繰り返し2度見てみました。
 主人公ヘレナは年長者には理知的なしっかりしたお嬢さんに見えるけれど、若者には色気が不足して見える、という線でこの女優を選んだのかな、とも思いますが、年長者の私にも色気不足に見えます。ダイアナ役は可愛い美人でバートラムならずとも普通はこちらを取りたがるでしょう。そのバートラムは美男子で発声はいいのですが表情に乏しく、最後の最後までストーカーの被害者に見えてしまい、「終わりよければ全てよし」で本当に終われたのか、というと大いに疑問が残りました。
 対する年長者組の方がよく、国王は「お気に召すまま」のジェイキス役とは別人ですが同じような雰囲気と発声で、伯爵夫人やラフュー共々いい感じです。道化役が見た目道化に見えないのはどうかな、です。ペーローレスの場面はどこも素直に楽しめます。
 簡素な装置に大きな不満はありませんが、照明が一貫して暗く表情が見えにくいのは少々残念です。
 総合すれば、「お気に召すまま」「十二夜」のように何度繰り返し見ても楽しめる喜劇とは全然違う水準なのですが、これはこれで十分楽しめました。(13.12.01)


Measure For
Measure

- BBC
Shakespeare
Collection
[1979]

「尺には尺を」BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。
シェイクスピア研究における述語に「問題劇」というのがあって、「トロイダスとクレシダ」「終わりよければ全てよし」とこの作品の3作品がその「問題劇」の固定メンバーになっています。しかし大抵の日本人は、この作品の主筋を「問題劇」とは感じないように思われます。何せ、(夜這いの相手のすり替え、というお茶の間向きでない設定を除けば、)殆ど「遠山の金さん」そのまんまですから。少なくとも私には、「トロイダスとクレシダ」「終わりよければ全てよし」と同じ水準での「問題劇」とは思えませんでした。
 その金さんならぬ公爵役も感じが出ていますし、ヒロインのイザベルを演じるケイト・ネリガンが、見習い修道女という設定どおりの、ちょっとした堅物感を出しつつ、最高に素敵です。世界的有名女優にはならなかった人のようですが、これが若き日の生涯最高の一本ということになるのではないか、と勝手に想像しています。
 このように主筋は「終わりよければ全てよし」より素直に楽しめるのですが、気になるところ=この作品の「問題劇」らしさ=をあえて探せば、サイドストーリーとの溶け合わなさ、ということになりましょうか。「から騒ぎ」のドグベリーそっくりの警吏エルボーやポン引きポンペイの場面は、主筋との関連が殆どなく、正直なところうるさくて鬱陶しい。それに関して役者さん達には全く責任がないような気がしています。「終わりよければ全てよし」のペーローレスは言ってみればこの作品のポンペイとルチオを足したような存在ですが、ポンペイやルチオの場面よりペーローレスの場面の方が見ていてずっと楽しいのは否めません。
 youtubeにはかなりいい画質のものが英語字幕つきで上がっていました。(13.12.24)

「マクベス」DVD リージョンコード1
日本語訳で読む中でも格別好んでいたとはいい難いこの作品、ついでだから買っちゃったようなもので、映像で見ても他の作品ほどは好みません。"The Plays of William Shakespeare" シリーズで、稲川淳二が真顔でやっているようなマクベスを始め、俳優陣もいいとは思えず、どうせ買うなら他のを買った方が良かったかもしれません。(01.07.15)

「リア王」DVD リージョンコード1
「リア王」は悲劇では好きな方のつもり、でもこれを見てみて粗筋すらうろ覚えだったことを再認識した次第ですが、そんなこと関係無し、英語のヒヤリングが殆ど出来ないままでも圧倒されました。日本語訳を読むと中途半端に感情移入して悲しくなりがちですが、ここでは皆が力強いのでむしろ高揚します。"The Plays of William Shakespeare" シリーズですが、その中では俳優陣はいいと思います。
女優でこの劇に出るならゴネリルかリーガンでないとつまらないだろうな、と思いました。どうしようもない馬鹿親父に鼻持ちならない末娘、に対する結構普通の姉二人、かもしれないのです。このコーディーリア役が少し落ちるのかもしれませんが、私にはよく分かりません。(01.07.15)

「アントニーとクレオパトラ」BBCシリーズのDVD
youtubeにはアップされていたような気がするのですが、消されたのか勘違いだったのか見当たりません。それはともかく。
文庫で読んだ時から、まったりした味わいの、これはこれで大傑作なのではないか、と思っていた作品ですが、その期待をも上回る出来の映像だと感じました。愛に溺れて破滅する男女の話なのですが、背筋をまっすぐ伸ばして愛に溺れていく姿が、「素敵」とも「立派」とも少し違うのですが、何だか凄いです。主役二人に勿論文句はないのですが、名演技を堪能したというより、原作の凄さを損なわずにきっちり表現してくれた、という感想になります。オクタヴィアヌスは生硬すぎるようにも思いますが、この劇の中ではあれでいいのかもしれません。文庫では役回りがよく分からなかったエノバーパスは、最後の最後を除けば道化役相当だったのか、というのも腑に落ちました。
私が繰り返し見るという基準では、悲劇的作品でも「リチャード2世」の方が上になりそうですし、「考えさせる悲劇」としてはいわゆる四大悲劇の方が世間の評価では上になるのでしょうが、この爛熟の美は他では得がたいもののように思います。(14.03.23)


TIMON
OF ATHENS
(BBC
SHAKESPEARE
COLLECTION

「アテネのタイモン」BBCシリーズのDVD、英語字幕付はyoutubeで視聴できます。
シェイクスピア最後の悲劇ということになっています。最後は主人公が死ぬのだから悲劇に分類するのでいいのでしょうが、「アントニーとクレオパトラ」での「爛熟の美」の代わりに「説教臭」のする、さらに悲劇らしくない悲劇です。俗人多数と、少数の忠告者は居ますが、ほぼ主人公の一人芝居で、その主人公は迫力十分なので、十分楽しめました・・少なくとも見ていて嫌になる要素はない・・のですが、「アントニーとクレオパトラ」と比べれば随分と魅力に欠けるとも思います。
少数の忠告者の一人が、「アルシバイアディーズ」だと、あなた誰よ、てなものですが、古代ギリシャ史上有数の問題児(?)の「アルキビアデス」でした。(14.04.06)

 

 

DVD/LD リスト:オペラ、オペレッタ、シェークスピア劇以外

ディズニーの「ファンタジア2000」DVD
プレーヤーを衝動買いしたその日に、近所の店にあった殆ど唯一のクラシック音楽系DVDというだけの理由で買いました。ビデオで持っている元祖「ファンタジア」と共に、一家に一枚有ってもいい作品とは思いますが、それにはちょっと高い。(01.07.15)

「ホロヴィッツの思い出」LD
貰い物です。悪くはないですが、ちょっと感傷的な作り、個人的にはホロヴィッツは絵抜きで楽しんでいます。(01.07.20)

「グレン・グールド コレクション」LD
これも貰い物です。やらせ見え見えのモンサンジョンとの会話が、しかし結構楽しめます。講釈を垂れながらフーガを弾くグールドの上手いこと。各声部の独立というのはこういうことを言うのかと思いました。ゴルトベルク変奏曲を絵付きで聞く意味はありません。(01.07.20)

「3大テノール 世紀の饗宴」DVD
その後、柳の下からドジョウがぞろぞろ出てくる発端となった、しかしその時点では明らかに空前の大イベントであった1990年のコンサートの記録です。楽しさの中にも本気が伝わってきて、当時TVで見た記憶が甦ってきます。病後のカレーラスだけでなく、他の二人も盛りを少し過ぎていますが、まだ十分に元気です。一点だけ、何故DVDなのに字幕の代わりに歌詞カードが入っているのでしょう???(04.03.03)

「ロミオとジュリエット」DVD
プロコフィエフ作曲のバレエ、ミラノ・スカラ座の上演記録、TDKコア発売の日本盤です。色々思ったことはこちらを見ていただくとして、バレエとしての感想では、、、見せ場がたっぷりあるソリスト4人、ロミオ、ジュリエット、ティボルト、マキューシオの中では、ロミオの軽さが際立っていました。ジュリエットは40に近い実年齢がにじみ出るところが有ったような気もしますが、こちらも上手いのでしょう。(04.07.04)

「レナート・ブルゾン&ステファニア・ボンファデッリ」DVD
日本でのジョイントコンサートの模様を収めたものです。プログラムの中心は「ラ・トラヴィアータ」「ルチア」「リゴレット」の抜粋です。何れもブルゾンがデレデレとまでは言いませんが何だか嬉しそうで、舞台収録DVDでの気合の入った演技及び歌唱とは別物です。ジョイントコンサートというものがそんなものでしょう。これはこれで楽しめます。ボンファデッリを自然な表情で拝めることに意義のあるDVDです。(04.10.11)
ロイヤル・バレエ「火の鳥」&「結婚」DVD
日本語帯付きですが、字幕/日本語解説無し。ストラヴィンスキー作曲のバレエ2曲ですが、こちらに書いたことをより悪い形で強調して再確認したような感じです。「火の鳥」の音楽の「乗れなさ」は「ロメオとジュリエット」より遥かに下を行きますし、踊りの方も素人が「凄い」と思えるのはあちらのほうです。「結婚」の方がまだ「乗り」はいいのですが、正直なところ「なんじゃこりゃ」でありました。(05.04.03)
ストラヴィンスキー/バレエ「春の祭典」DVD
見つけた、というか、気付いて早速手を出した、HouseOfOpera盤(dvdzz873)です。かのベジャールによるバレエ映像で、何のセットもない広い空間(舞台ではありません)で踊っています。音声はオケの音だけで足音が一切聞こえないと、無音の世界で踊っているのを見ているような気にもなります。いけにえの乙女の扱いが元々の台本とは違うのですが、その内容はここでは書けません。画質はあまりよくないです。もう一つのを見ていなければ、お気に入りになったかもしれませんが、見てしまったので・・。なお、最近のHouseOfOperaでよくあることで、購入した盤では「春の祭典」の後にオペラ映画のようなものが入ってましたが、私には正体不明でした。(05.06.12)
バルトーク/バレエ「中国の不思議な役人」DVD
これもHouseOfOpera盤(DVDCC919)、バレエというかパントマイム映画、大筋は元々の台本通りで、ニューヨークの危ない界隈の売春宿といった風のセットでやっています。映画仕立てのオペラに感じる違和感に近いものを感じました。ストーリーはよく分かりますが、踊りの魅力は殆どありません。画質はこれもかなり悪いです。この盤では冒頭に「蝶々夫人」が入っていましたが、これまた画質が非常に悪かった。(05.06.12)

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ストラヴィンスキー/「春の祭典」、「火の鳥」、バルトーク/「中国の不思議な役人」DVD
20世紀の著名バレエ3作品が2つずつになりましたが、何れもこのお得セットに収まった舞台収録分が断然優ります。画質はこれもかなり悪く、「春祭」が最低で順に少しずつましになります。その悪さというのが、動きの激しいところでのブロックノイズなので、mpeg変換ソフトがとってもレトロだったのかしら?とか思ってしまいます。その割に音声はマシですが、舞台と合わない音場なので、上演の際に使った録音を踊りに合わせて入れているのでしょう。その演奏が誰なのかも分からず、著作権とかどうなっているのだろうと心配してしまいます。
しかし、そういうのを全部ふっ飛ばしてしまう、圧倒的な踊りの魅力です。肉体の美です。「春祭」でいけにえの乙女を救おうとする若者のリフトには重力が働いていないがごとく。偶々店頭で見かけて買ったのですが、注文できるのでしょうか。ケース表には、MOSCOW CLASSIKAL BALLET OF N.KASATKINA AND V.VASILYOV とあり、裏面は全部独語表記なのですが、amazonでは見つけられない・・。(05.06.12)

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シベリウス/交響曲全集 リントゥ指揮フィンランド交響楽団DVD
某所で見つけた動画が、どの曲もほんの一部ずつですが破損していたこともあり、購入に至りました。DVDの購入は「悪魔のロベール」「カルディヤック」以来の3年半ぶり、らしいです。1万円前後で出ているのが多い中で、6千円強で出ていた新品をネットで買ったのですが、DVD5枚組みのはずのところ、5枚目がなくて、3枚目と4枚目が2枚ずつ入ってました。おまけ映像の5枚目は、あっても見たかどうか怪しいくらいなので、私は全然気にしないのですが、5枚目が2枚入って3,4枚目が無い箱をつかまされた方には同情を禁じえません。今のところ私は3枚目に入っている5番6番が特に好みなので。
各曲の演奏本体の前に背景解説と楽曲解説が入っています。前者は一度見れば十分です。後者は・・・もしかしたら3回くらい見直してもいいかもしれません。演奏本体では、カメラさんが実にいい仕事をしています。バイオリンでもコンサートマスターが映る方が珍しく、後ろの方のプルトの北欧美人を積極的に追いかけてくれます。フルートおねえさん方はどなたが出てきても鑑賞に堪えます。フルートおにいさんも居ますが。
あらましを知ってあえて買ったのですから、勿論気に入っています。世にいくつ出ているか数える気にもならないシベリウス交響曲集の中での地位は存じませんが。(17.03.19)

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