バレエの名作とバレエ音楽の名作

はい、バレエのお話です。オペラではありません。しかし、バレエ音楽のCDならある程度の数を持ち合わせますが、上演されるバレエとなると、実演を見たこともなく、先日初めてDVDを一枚入手しただけの私ですので、オペラのコーナーの片隅でこういう駄文を書いてみようか、と。

バレエの名作というと、「白鳥の湖」が不動の第1位と思います。これを筆頭に、チャイコフスキーの3大バレエの他の2作品、「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」もバレエの名作ということになっています・・・が、私のCDコレクションには「眠れる森の美女」はないぞ・・・。

3大バレエというと、ストラヴィンスキーにもあります。「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」・・・これらは間違いなく「バレエ音楽の傑作」として受容されています。しかし「バレエの名作」でしょうか???

「白鳥の湖」はバレエの名作としても、バレエ音楽の名作としても受容されています。2004年7月にamazon.co.jpで調べると、「白鳥の湖」のCDで200枚以上ヒット、amazonの常で再発売のダブルカウントがあり、またオムニバスCDにほんの数曲入っているだけのも多数含まれるとはいえ、かなりの数です。DVDでは(チャイコフスキーに関係無いのを除いて)舞台録画が多分8種類くらい出ています。

「春の祭典」でCDは100枚以上、こちらには抜粋盤は少ないでしょうから、全曲盤では「白鳥の湖」以上に多いかもしれません。しかしDVDでは2枚きり、何れも指揮者とオーケストラが映っているだけの映像しかありません。1913年に初演され、20世紀音楽史上最大の騒ぎを引き起こしたこのバレエは、21世紀初頭では最も人気あるバレエ音楽の一つですが、もはやバレエの名作ではないのです。

一方でクラシック音楽ファンがあまりよく知らない「バレエの名作」が幾つかあるようです。「ドン・キホーテ」の作曲者をご存知でしょうか? amazonでDVDが2種類出ている「バレエの名作」なのですが、誰も「バレエ音楽の名作」とは思っていないでしょう。他にも「レ・シルフィード」などがあります。

「春の祭典」(抜粋)、「中国の不思議な役人」もバレエとして上演されたのを私がTVで見たことがあることはあるのですが、20世紀の「バレエ音楽の名作」であると共に「バレエの名作」としての地位も確立している作品となると、プロコフィエフの「ロメオとジュリエット」が最右翼ではないでしょうか。TVで抜粋を何度か見たこともあり、また以前からハイライト盤音源を2つ持っていたこの作品の舞台DVDを買ってみたのです。

買ったのはミラノ・スカラ座、バレエ界における評価は全く知りませんが、オペラでも出番のあるバレエ団がそう悪いはず無いだろうし、どうせソロを踊るのは座付きではない有名人なのだろうし、オーケストラは文句無しの世界の一流だし、などと考えて店頭に並んでいる一枚の購入に至りました。

外装からして「バレエ音楽」のCD/DVDとは異なります。振付:ケネス・マクリランと並んで、音楽:セルゲイ・プロコフィエフの名前は、タイトルに次いで大きな字で書いてありますが、演奏:ミラノ・スカラ座管弦楽団、指揮:デビッド・ガーフォス、は精一杯小さい字で、最初は見落としていました。出演者は勿論大き目の字、有名な方が出ているらしいですが、予備知識ゼロの私には「豚に真珠」。

内容は・・・結構楽しめます。字幕が無いこともあり、最初は誰がロミオなんだろ、などと程度の低い疑問もあったのですが、これも一番花のある男性ということで当りでした。見せ場がたっぷりあるソリスト4人、ロミオ、ジュリエット、ティボルト、マキューシオの中では、ロミオの軽さが際立っていました。ジュリエットは40に近い実年齢がにじみ出るところが有ったような気もしますが、こちらも上手いのでしょう。

集団演舞も大変なものです。音楽に合わせて剣を振り回しつつ集団で踊るのですから、喉と舌を合わせるオペラよりは大変だと思いますし、迫力も感じます。演奏の方は突っ込みが不足しているような気がしたのですが、練習の時から寸分違わぬ微動だにしないテンポでやってもらわないと、踊れないどころか危ないのだろう、と納得した次第。

試しに画面を消して演奏だけ聞いてみました・・・このDVDの正しい使い方ではありませんでした。「バレエ音楽」として、音楽だけに専念した演奏とは比べようがありません。バレエを見るのが主であればこそ「突っ込みが不足しているような気が・・」で済ませていたのが、それどころではありません。しかし、これはこれで仕方が無いと今なら思えるのです。伴奏なのですから。

「バレエ」と「バレエ音楽」の両面で名作の地位を確保している「ロミオとジュリエット」であっても、「バレエの名舞台」と「バレエ音楽の名演奏」は別物と考えた方が良いようです。「バレエ音楽の傑作」としての地位が肥大した「春の祭典」ともなると、舞台化しようにも。踊り手がいない、伴奏に徹する指揮者がいない、「観衆」ならぬ「聴衆」の不満は避けられそうにない、無い無い尽くしで実現困難なのが分かった気がしています。

(05.06.12追記)
さて、「DVDリスト3」に追加したように、20世紀のバレエ音楽の傑作3作品、「春の祭典」「火の鳥」「中国の不思議な役人」の、踊りの映像が一気に2つずつ揃いました。断然良いと思うのは何れも、MOSCOW CLASSIKAL BALLET OF N.KASATKINA AND V.VASILYOV の1枚に入っている舞台収録分です。今の時代でも、これらのバレエ音楽を踊ってみようという前向きな舞踊家は少数にせよ居て、その時に何時コケるか分からない生オケを使うより好きなCDを使う方が安心で、映像記録する際には、踊りの映像に元のCDの音声をかぶせれば出来上がり、なのでしょう。これで最高に魅力的な映像になるとは言いませんが、自称オペラファンの目をちょっと惹く位のものは出来ています。また、これら3作品に比べれば「ロメオとジュリエット」の占める位置は「白鳥の湖」に余程近いのでしょう。

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