花鶏絵
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<第二十一回 Lunatic ドーン!>

アトリさん!こんにちはっ!
暑い夏にピッタシのものといえばホラーですよね? ね?
確かにそうだけど・・・どうしたの、いきなり?
最近、某ホラー系作品にハマッちゃいまして。
可愛い女の子がいきなり狂気じみた顔になるのが面白いんですよぉ!

試しにアタシも描いてみたので、見てくれませんかぁ?
(・・・つまり にわかファンってことね)
ええ、見せてくれるかしら?

ミサ画ルナティック ・・・ええと、確かさっき
『可愛い女の子が狂気じみた顔になるのが面白い』
と言っていたから、
狂気じみた表情のつもりなのよね?
ハイ!包丁片手に
「八○墓様の祟りじゃ〜!」
って感じで主人公を追いかけ回すんですよぉ!

(・・・よりによって そっちのネタと混ぜるなんて)

でもこの絵は『狂気じみた』というより『必死な』、『怒りに満ちた』表情に見えるけど?
え?それって同じようなものじゃないんですかぁ?
・・・『狂気』というのは『普通じゃない』ということ、よね?

例えばだけど『怒りにまかせて凶器を振るう人間』と
『笑いながら凶器を振るう人間』、どちらが普通じゃないと思うかしら?
えっと・・・どちらも『普通じゃない』と思いますけどぉ。
・・・それはそうね。

ただ『怒り』の表情は攻撃性の象徴だから
怒りの形相で凶器を振るうのは想像可能な行為。

でも、笑顔で凶器を振るう人がいたら・・・
安心して漫才も聞いてられないってことですね?
・・・その例えも『普通じゃない』けれど。
ともかく感情と行動がちぐはぐな『普通じゃない』行為であることは想像できると思うの。

試しにアナタの絵の口元だけを微笑ませてみたから、見てくれるかしら?

ミサ画ルナティック修正 あっ!
アタシが描いたのと比べて
アブナイ人みたいになりましたね!
・・・そうね、快楽殺人者という感じかしら?

でも口元だけじゃなくて目の表情を利用すると、
より『普通じゃない』雰囲気になると思うわ。

えと、目の表情というと以前『瞳孔の動向』の時にお話された
『瞳孔の大小で見る人に与える印象が変わる』ですかぁ?
・・・あら、珍しく覚えていたのね。
確かに瞳孔を収縮していれば、通常より『普通じゃない』印象を与えられるけれど
あくまで潜在的な印象でしかないのよ。

『狂気じみた』と思わせる程の表情には
もっと大きな、見ている人に訴えかけるような変化が必要なの。
見ている人に訴えかけるような、つまり強い印象を与えるってことですよねぇ?

・・・何だか難しそうです。
・・・そうね、とりあえず次の図を見て。

どちらの黒い円がよりシャープに(鋭く)見えるかしら?

大面積円 小面積円

右・・・ですかねぇ?
白の中に黒が映えている、そんな感じがします。
・・・その通りだと思うわ。
これは配色テクニックにおける、面積比を利用した印象変化なの。
面積比を大きくするとシャープで動きのある印象になる、
つまり小面積の部分の動きを意識させられる=印象付けられるということなの。
小面積の部分・・・今回だと黒い円ですね?
・・・そうね。

余談になるけど、コレは白黒だけでなくカラーにおいても効果的な手法なの。
次の図を見て貰えば分かると思うけれど、
小面積の部分の色が強い=周囲とのコントラストが強いほど
アクセントとして効果を持つの。
アクセサリーや目を印象付けたい構成の時に利用してみると面白いかも。

小面積円 薄小面積円

目を印象付けたい時に・・・ですかぁ。
あっ!
もしかして、さっきの図って白目と黒目ってことなんですかぁ!?
つまり黒目を小さくすれば、より印象的な目になるってことでしょうか!?
・・・意外に目の付け所がシャープね。
人が驚いた時、瞳孔の面積は変化するけれど、黒目自体の面積は変化しないわよね?
 でも漫画的表現の「目が点」の場合、黒目自体が収縮している。
それは、それだけ目の部分に注意が払わせることができるのと同時に
『普通じゃない』印象を与えることができるからなのだと思うの。
確かに現実においては小さくならない黒目が小さくなるということは、
『普通じゃない』事態ということですからね。

それに今回の話では、驚いているわけでもないのに「目が点」になるわけですしねぇ。
・・・そうね。『普通じゃない』という感情は
想定と実際の『ギャップが大きい』結果生まれるものだから
想像している流れと極端に異なる要素があるほど、効果的だと思うの。

それに以前も話したと思うけれど、キャラ絵においては『目が命』だから
目自体の変化が見ている人に与える印象はリアル絵より大きいはずなの。

具体的な例を見てもらった方がいいかしら?

上目使い あっ!
これは女の子が誇る最終兵器の一つ、
『上目使い』ですね!
・・・そういう風に言う人もいるみたいね。

本来ならコケティッシュな表情も
瞳だけをさっきの理論で変化させると・・・

あはは! なっ!?
途端にアブない感じになりました!
はじめからこうならまだしも
元は普通の女の子絵だったから
より一層『普通じゃない』感じです!
・・・そう、ただ瞳を小さくしただけなのに、ね。
さらに『狂気じみた』感じにするのなら、
影を落としてみると面白いかしら?

くくくくっ! ゆ、夢に出てきそうです・・・。

ここまでやれば立派に『狂気じみた』顔ですよねぇ?
・・・まぁ、もっと狂気を感じさせるなら
もっと目を見開いた感じにしたり、
表情を歪ませる=眉毛の変化や、顔の皺などの
影ではない線を増やしてみるといいかも。

あひゃひゃひゃひゃ!! ・・・もう勘弁してください。
・・・身をもって理解して貰えたみたいね。

・・・勿論これは黒目の大きさを変化させた場合についての比較だけだし、
一概に『狂気じみた表情』といっても色々なパターンがあるから、
表現したい表情に合わせて色々な要素も混ぜながら試行錯誤してみて。
色々なパターンですかぁ?

例えば『まるで人の心がないような』とか『何かに取り憑かれたかのような』
みたいな感じでしょうか?
・・・そうね。
どう感じるかは分からないけれど試しにさっきの絵を
色々変化させたものを並べてみるわね。

まずは「目の光をなくしてトーン貼ったような感じ」。

心がない? 何かアレですねぇ、洗脳されてたり
何かしらの事件で感情を失ったりとか
そんな感じに見えますね!
口元が笑っているだけに違和感があります!
目の光は『意思』や『意識』の象徴的な部分もあるから
それがない瞳を見るとそう思うのかもしれないわね。

・・・次はこれに閉じた瞳孔だけ追加したパターン。

瞳孔閉じ ・・・さっきよりも不気味さが増したような?
こちらを凝視しているけど、普通じゃないみたいな・・・
上手く表現できませんけど、そんな感じがします。
・・・瞳孔がある分、さっきより目の焦点が
はっきりしているからかしらね。
黒目の大きさを変えずに
黒目を小さくした時に近い印象を与えられるかも?

・・・最後は「縦長瞳孔」ね。

縦長瞳孔 ・・・あ、アレっぽいですねぇ。
何かに取り憑かれているような不気味さがありますね!
例えばオヤシ・・・
・・・ストップ

そうね、
縦長瞳孔は猫や爬虫類みたいに
人外の印象があるから、何かに取り憑かれたような
状態を表し易いかもしれないわね。

・・・要するに普段とのギャップが大きいほど 与える印象は強くなるものだから、
『狂気じみた』表情という強い印象が必要な絵においては
そのギャップをどのように生み出せばいいかを考えることが重要ということね。
なるほどぉ。

あっ、でも今回は瞳の大きなキャラ絵だからいいですけど
三白眼のキャラの場合はどうなるんですかぁ?
・・・面白いところに気付くのね。

試しに描いてみたから、見てくれるかしら?

三白眼 三白眼影 三白眼狂気

う〜ん、確かに右にいくに従って、
狂気じみている感じはするんですけどぉ・・・。
さっきの例と比べると、印象が薄いような気がします。
・・・そうね、元々黒目の面積が小さい三白眼は『人相が悪い』印象だから、
さらに黒目を小さくしても生み出せるギャップが小さいってことね。
つまり、某ホラー作品が受けている理由の一つは
『普段のいかにもなギャル絵』が『いきなり狂気じみた顔になる』
というギャップの大きさによるものなのかもしれないんですねぇ。
・・・かもしれないわね。

ともかく強い印象を与える絵を描く時は、この『ギャップ』を意識してみるといいかしら?
ハイ!分かりました!!
・・・アナタも本来はギャップ狙いのキャラだったはずだけどね。
何か言いましたかぁ?

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