愛蔵盤級 管弦楽曲
作曲家 ペーター・イリイチ・チャイコフスキー
曲名 序曲「1812年」 スラヴ行進曲 ほか
指揮 ネーメ・ヤルヴィ
演奏 エーテボリ交響楽団
録音 1987−1989  エーテボリ・大ホール
プロデューサー Lennart Dehn
エンジニア Michael Bergek
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.2
商品番号:429984−2 グラモフォン ステレオ
解説
チャイコフスキーを初め、リムスキー=コルサコフの「ロシアの復活祭」「スペイン狂詩曲」やボロディンの「ダッタン人の踊り」など、ロシアの有名な管弦楽曲を集めたアルバムである。ジャケット写真にあるように、メインは1812年である。エーテボリの軍隊に伝わるキャノン砲と教会の鐘をミックスさせた「実音入り録音」であり、この曲の冒頭に合唱を起用したり、クライマックスでブラスバンドを加えるなど、音響効果を徹底的に狙った企画録音である。ライナーノートには、このキャノン砲の借用経緯などが解説されている。
さて、肝心の録音であるが、テラークレーベルがデジタル録音の初頭に「キワモノ」としてオーディオマニアに示した「1812年」の様な、現実離れしたダイナミックレンジや押し寄せる迫力は志向されていない。むしろ、程よい距離感を持った空間処理の中でのオーケストラ表現であると言える。
グラモフォンにしては珍しいワンポイント的な捉え方で、眼前に迫り来るようなリアリティは薄いが、遠方を望む見通しの広い音像表現に仕上がっている。1812年は、冒頭に合唱が主題を歌い、教会音楽の雰囲気を醸し出している。終盤のキャノン砲や鐘は、実物の迫力はあるものの、オーケストラの全体像の中では違和感を抱くのは否定できない。迫力があるといえばあるが、ぼやけてしまって音の芯が聴こえてこない音像であるとも言える。最強奏でブラスがテーマを吹くクライマックスには、バンダと呼ばれる別同部隊が加わるが、ここでの音像処理は、ステレオの限られた空間の中で、華やかな勝利のファンファーレがホールに一杯に響き渡っている。
しかし、残響の豊なホールトーンを巧みに生かしている録音ではあるものの、その響きは人工的で、自然な音像表現であるとは言いがたい。マルチマイクによって各楽器は明瞭に捉えられ、粒立ち良く定位しているが、曲想の変化の中で、pとfでは楽器の定位にブレがあり、オーケストラの音像に統一性がないように感じてしまう。
どの曲もダイナミックレンジの広い、華やかで躍動感のある内容のため、録音にも大きな期待が寄せられるが、ここでの仕上がりは、オーディオマニアには食い足りない平均的なサウンドであると言わざるを得ないだろう。それでも、このレーベルが新しい音像表現を志向した、ターニングポイントとなる録音であると評価できる。
愛蔵盤級