世界遺産級 交響曲
作曲家 グスタフ・マーラー
曲名 交響曲第8番 変ホ長調 「千人」
指揮 ゲオルグ・ショルティ
演奏 シカゴ交響楽団
Sop.ルチア・ポップ  Tenor.ルネ・コロ ほか
録音 1971.9  ウィーン・ゾフィエンザール
プロデューサー デヴィッド・ハーヴェリー
エンジニア ケネス・ウィルキンソン
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト 10
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 9.2
商品番号:475 7521 デッカ  ステレオ
解説
マーラー自身が「宇宙が鳴り響き始める瞬間」と表現した巨大なオーケストラ作品である。オーケストラに加えて児童合唱や8人の独唱が加わり、初演時には1000人もの奏者が参加したとして、この曲は「千人の交響曲」と呼ばれている。
このジャケットは、セッション時の様子を伝える貴重な写真が起用されている。ゾフィエンザールを使った大規模な録音が行なわれた生々しい記録である。「千人」の録音は現在まで数多く存在するが、編成の規模と楽曲の複雑さから、満足のいく録音はほとんど無いと言ってよい。ライヴとしての歴史的価値の高いものは多いが、純粋にセッションを組まれたものとしては、ショルティ・シカゴ交響楽団のこの録音が唯一の成功例ではないだろうか。
オーケストラと合唱、あるいは独唱をどのようなバランスでまとめ上げるか、それがエンジニアの手腕となるが、オペラ録音で実績を積んだデッカのエンジニアたちにとっては、この曲は決して困難なものではなかったのであろう。ウィーンPoサウンドを熟成させたこのゾフィエンザールにシカゴ交響楽団を投入し、新基軸となる次世代のオーケストラサウンドを世に示すことができたのである。
音像は、大規模で大音響の楽曲を余裕を持って捉えており、充分な空間を確保して迫力一杯のオーケストラを表現している。実演では埋もれがちになる独唱においては、補助マイクでフォローされてはいるものの、その音像は全体の響きの中で強調されることは無く、アンサンブルの一部として自然な調和を保っている。大合唱と大管弦楽のバランスも良好で、充分な配慮が成されている。どちらも存在感を損なうことは無く、Tuttiでの音響が飽和状態になることも無い。隅々まで見通せる絶妙のバランスでオーケストラの各音像が捉えられているのである。
ステージレイアウトは、スピーカー一杯に広がって展開する雄大で伸びやかなステレオイメージで、セッションの写真からも伺えるように、ブラスセクションが効果的に左右に振り分けられて、フルオーケストラの巨大な音像を見事に表現している。クオリティも、アナログ黄金期の充分な質感を伝えており、テープノイズなどはほとんど意識されることは無い。またダイナミックレンジもこれ以上は望めないといえるほどの広帯域を持っていて、最新のデジタルほどではないにせよ、芯のある野太いサウンドが眼前に迫り来る勢いを持っている。
当時、ゾフィエンザールにはオルガンは無かったと伝えられているが、ここでのオルガンは別録りのダビングとはとても思えない。推察ではあるが、電子オルガンを用いて、スピーカーからの音をマイクで拾っていたのではないだろうか。ジャケットの写真にそのヒントが写されているかもしれない。
いずれにしても、成功例の少ない「千人」においてこの録音が後世に残す歴史的役割は、計り知れないほど高いものだと評価することができるだろう。
世界遺産級