文化財級 | 交響曲 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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商品番号:475 8501 | デッカ ステレオ | ||||||||||||||||||||||||||||||
解説 | |||||||||||||||||||||||||||||||
時代のクオリティレベルを超えた、ハイファイ指向の優秀録音である。曲の冒頭からダイナミックで肉厚な、凝縮された音像の塊が迫り来る。デッカが描くデフォルメされたオーケストラ像が浮かび上がってくる。 各楽器が明瞭に捉えられ、楽曲の細部まで見事に再現されている。合唱と独唱を含む巨大な交響曲であるが、この拡大されたオーケストラ編成の中から、各楽器を鮮明にクローズアップしようと試みられている。エンジニアが、曲の時々に意図的にバランスを操作し、聴こえるべきフレーズを浮き彫りにさせ、レコード再生を踏まえたダイナミックレンジの平均化を図っている。こうしたエンジニアの嗜好性を好ましく思うかどうかは人それぞれであるが、当時の限られた技術の中で、オーディオ鑑賞を少しでもリアリティのあるコンサートホールの世界にまで引き上げようと試みた、このレーベルの信念を正しく評価しておきたい。 ワーグナーの「指環」全曲録音を手掛けたプロデューサー、ジョン・カルショーは、家庭のリスニングルームにどうやってコンサートホールの感動体験を再現するかということに情熱を注いだ。それは、ライヴの記録を家庭に持ち込むことではなく、リスニングルーム自体がコンサートホールとなり、その会場に相応しい装置と音源を提供することこそがプロデューサーやエンジニアの使命なのだということである。 めまぐるしく曲想の変わる第5楽章などに、エンジニアの気迫や試行錯誤の生々しいドキュメンタリーを聴き取ることができる。マーラーがホールに再現した宇宙空間を、機械任せにするのではなく、生身の人間がマイクとミキサーに真正面から向き合って捉えようとしている様子が伝わってくる。 実際に音楽を演奏しているのはオーケストラの演奏者たちである。しかし、その音楽は音を出さない指揮者によって導き出されたものである。音楽が形作られ、聴衆に伝えられるプロセスには、様々な人の手が加わるのである。レコードというメディアにおいては、その表現者としてエンジニアの存在が大きく関わっていることは否定してはいけない。オーディオを再生する側の我々も、そのプロセスの一員なのだから。 ただ、この録音が要所要所で意図的なミキシングをしていることの欠点として、現代のオーディオにおいては、物足りないダイナミックレンジになってしまっていることを挙げておきたい。特に合唱も加わった第5楽章では、クライマックスの壮大なTuttiを再現することはできない。そうした欲求不満を随所に感じることになることは覚悟しておいてほしい。 |
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文化財級 |