ダイナミックレンジは申し分なく、pからfまで音像がぶれることも無く伸びやかに広がっている。オーケストラのバランスは、独奏の筝をクローズアップした音像であるが、オーケストラの中での各楽器のバランスにはばらつきは無い。邦楽器は西洋の楽器と比べると響が薄く、か細い。中でも筝は、繊細で弱い音しか出せない。この筝をオーケストラと協奏させるのだから、音量的なバランスを図るのはとても大変である。この曲の生演奏を聴いたことがあるが、オーケストラの奏者のために、筝の音を聴かせる返しのスピーカーがステージ上に用意されていた。つまり、Tuttiの中では、筝の音がオーケストラの一人一人に聴こえないということなのだ。ライヴでは大変苦労する邦楽器とオーケストラの音量調整であるが、レコーディングにおいては、ピックアップマイクで際立たせることで簡単にフォローできる。オーディオソースとしては、違和感無く充分な存在感を与えることができている。
一方、オーケストラのステージレイアウトは、左右への広がりやセクション間の音像のつながりも良好で、各楽器は分離良く定位している。また客席で聴くオーケストラの生々しいサウンドを感じさせるリアリティもあり、優れた音像表現に仕上がっている。
このアルバムには、他にバレエ音楽「日本の太鼓」やフィリピンに贈る祝典序曲が収められている。この2曲は同年8月26日にかつしかシンフォニーヒルズで録音されているが、音像表現の方向性は同じであり、仕上がりにおいても同等のものと評価できる。太鼓という、録音にとって最も過酷な楽器を、見事なバランスでオーケストラと調和させている。鼓膜に刺さるような原音再生とはいかないが、低音域をたっぷり捉えた迫力充分の高品質録音である。
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