世界遺産級 交響曲
作曲家 アントン・ブルックナー
曲名 交響曲第8番 ハ短調
指揮 ギュナター・ヴァント
演奏 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 2001.1.22  ベルリン・フィルハーモニー 
プロデューサー ジェラード・ゴーツ Gerald Gotze
エンジニア クリスチャン・フェルドゲン Christian Feldgen
その他 Live
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト 10
リアリティ 10
クオリティ 10
ダイナミックス
平均点 9.4
商品番号:74321 82866 2 RCA ステレオ
解説
冒頭、弦のトレモロに始まる霧の序奏部は、静寂さを強調するためにレンジ感を下げるようなことはせず、ステージで鳴っている音そのものを捉えている。弱音ではあるが、その響きは壮大である。すぐに現れる低弦の動機は、ステージ上手に並ぶチェロ群とコントラバス群の大きさを示すもので、伸びやかに力強く響く。その後受け継がれるクラリネットのソロは、ステージ中央にぴたりと定位し、1st奏者と2nd奏者の位置関係すら感じられる。このクラリネットによって、ステージの奥行感が見えてくる。曲が徐々にクレシェンドし、ブラスセクションが高らかに鳴り響く場所では、トランペット・トロンボーン・ティンパニーがパート間の定位がぶれることもなく、明確にステージ一杯に放射される。
オーケストラはスピーカーに対し左右にたっぷりと広がり、各席で聴くオーケストライメージというよりも、ステージ上空から見下ろすかのような空間表現となっている。ヴァイオリン・ビオラ・チェロといった弦セクションの配置もあやふやにならず、加えて、中央に座する木管群とそれを左右ではさむ金管群の定位感は見事である。オーケストラを目で見ているかのように、その配置が明瞭に捉えられている。
一方、ダイナミクスは、pとfの差というよりも、音楽のニュアンスとして強弱が処理されているため、録音全体の暗騒音は大きいと感じる。これは、ホールトーンの処理にもつながるが、空気感を切り落とさずに収録しているためで、奏者の気配・聴衆の気配が全体のレンジを底上げしているのである。こうした気配は、これまでのマルチチャンネルでは敬遠されてきたもので、位相ずれなどを避けるためにも切り落としはやむをえないものであった。しかし、そうすることで、奏者と奏者の距離感や、互いに聴こえているはずの音の共鳴を切り落としてしまうことになり、音は明瞭でも生々しさに欠けるという結果になってしまうのである。
ライブレコーディングとあって、マイクセッティングには多くの制約が伴っていると思われる。おそらくマイクは天井からのつり下げで、カプセルマイクを各パート相当分配置しているだろう。客席の気配は、時折聞こえる咳払いなどで感じることができるが、それが雑音となるほどの弊害にはなっていない。この録音は、ヴァントとベルリン・フィルによるブルックナーLiveシリーズの5曲目となり、エンジニアのフェルドゲンが一貫して担当してきた。音の指向は同じであるものの、音像の仕上がりは変化し続けていて、この8番の収録をもって最高レベルに達したと思われる。
ブルックナーは教会音楽だとの決め付けから、実際のホールトーンをかなり強調して、残響に埋没するかのような録音が多い中、この録音は、オーケストラとホールの本来の響を聴き取ることができる、最高品質の仕上がりである。

世界遺産級