文化財級 交響曲
作曲家 アントン・ブルックナー
曲名 交響曲第7番ホ長調
指揮 クルト・アイヒホルン
演奏 リンツ・ブルックナー管弦楽団
録音 1990.4.12 リンツ・ブルックナーハウス
プロデューサー 井阪 紘 Hiroshi Isaka
エンジニア Yasuhisa Takashima
その他 JVC System Neumann SM69 U87
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点
商品番号:CMCD−15001 カメラータ  ステレオ 
解説
重心の低い伸びやかで奥深い音像表現である。過度に強調することのないオーソドックスなピラミッド・バランスのオーケストライメージである。透明感と空気感には特筆すべき魅力がある。
まず、曲の冒頭、弦のトレモロの中からチェロに主題が現れるが、ここでの深遠で透明感のある響きには心奪われる。曲は、pからfへとサウンドが力量を増し、ブラスセクションによる大きなクライマックスを迎える。こうしたTuttiでの強奏においても音像はぶれたり崩れることはなく、一貫したイメージが保たれている。ブラスの華やかなffでの音像の懐の深さは、伸びやかなダイナミックレンジによって成されたものである。決して耳障りにならず、終始美質を失わないこの録音は、エンジニアの良識と技術力の高さを伺わせる。
ワンポイント的な音像の指向ではあるが、マルチマイクによる克明で分離の良い録音により、細部の一音一音が充分なリアリティを持って伝わってくる。更に、各楽器、各セクションのアンサンブルを伝える空気感も充分に捉えられているため、ステージ上の奏者の気配や息遣いまでもが生き生きとしく聴こえて来る。
ホールトーンは、オーケストラの余韻が気持ちよく残るほどに豊に広がり、美しく深い響きが得られている。この録音の仕上がりに大きく貢献した重要なファクターでもある。
ステージレイアウトは、良質なホールトーンの中で、各楽器が見通しよく配置され、曖昧なところは見られない。弦、管それぞれのセクションの存在感も見事にバランスされ、総合的なイメージが統一されて大きなオーケストラ像が浮かび上がってくる。
実存感も申し分なく、オーケストラの程よい距離感とも相まって、恣意的で赤裸々な生々しさとは違う、自然であるがままの生々しさを感じ取ることができる。
ダイナミックレンジは一聴すると平均的なレンジ感ではあるが、スペック的には充分な余裕を持っており、オーケストラが本当のダイナミズムを発揮した時にのみその迫力あるサウンドが響き渡る。しかし、そうした余裕があるからこそ、ブルックナーの楽曲の大半を占める弱音が、低域まで伸びる雄大な響きとなって伝わってくるのである。マイク一本一本が捉えた良質なオーケストラサウンドが、会場のリアルな空気感を伴って見事なブルックナーを表現しているのである。ライヴセッションでは得られない、スタジオセッションならではの丁寧な音作りを体験して欲しい。
日本人プロデューサー井阪氏の手による大規模なオーケストラ録音である。カメラータ・レーベルの創設者である井阪氏は、ヨーロッパで研鑽を積み、自主レーベルではもっぱら室内楽を手掛けて高い評価を得てきた。本場ヨーロッパで本場の音楽を日本人の手でリリースしたこのアルバムは、当時から話題性もあり評価も高かった。改めて録音を分析してみても、その丁寧で良識ある仕事ぶりには感心する。最新の機械やスペックだけに頼ることのない、エンジニアたちの優れた感性をこの録音から聴き取ることができた。見事な内容に仕上がっている。
この録音を再生するには、オーディオ側にもかたよりのないナチュラルなサウンドが求められるだろう。充分にコーディネイトされたオーディオにとって、これほど力量が発揮される高品質な録音は多くはないだろう。
文化財級