文化財級 交響曲
作曲家 アントン・ブルックナー
曲名 交響曲第5番変ロ長調
指揮 ヴォルフガング・サヴァリッシュ
演奏 バイエルン国立管弦楽団
録音 1991.3.20 ミュンヘン大学グレイトホール
プロデューサー ウィルヘルム・マイスター Wilhelm Meister
エンジニア ゲルハルト・ラメイ Gerhard Lamy
評価項目 評価内容
ホールトーン 10
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.8
商品番号:C241 911A オルフェオ  ステレオ 
解説
ホールトーンとは何ぞやということ、あるいは残響とは何ぞやということが良く判っているエンジニアの手による録音である。ブルックナーの交響曲というのは、そのイメージから来る神秘性や宗教性にとらわれ過ぎて、どうしても教会音楽のように音像が処理されてしまう。ブルックナーの響きは教会のオルガンのようでなくてはならない、という先入観が多くを占めているように思われる。そのため、録音では過剰な残響や曖昧なオーケストラ音像に陥ることが多い。
そうした物が多い中、この録音は、ブルックナーを正しく聴くことのできるホールトーンとオーケストライメージを見事に捉えている。しかも編集によって機械的に付加された残響やステレオ感ではなく、マイクのセッティングによって捉えた、自然な音像表現なのである。
オーケストラのTuttiで金管がffで鳴った後、一瞬の全休止。その無の空間に残る美しい余韻。ここに聴くことのできるホールトーンは、まさに原音再生の成功例であり、これほど自然に残響を捉えた録音は他に無いと言ってよい。
ステージレイアウトも適正である。各セクションの距離感や音量処理も自然なバランスでまとまっていて、客席から見通すオーケストラの生々しい姿を伺うことができる。唯一、バイオリンが時折クローズアップされて聴こえるところがあり、全体像がぶれるのが残念である。
最近ではライヴセッションによって、経費を削減した録音が多いが、この録音は、5日間のスタジオセッションで行なわれている。演奏は丁寧で緩みの無いものであるが、録音も、充分に時間をかけた丁寧な仕上がりとなっている。良好なホールトーンは、こうしたスタジオセッションでなければ捉えることはできないのである。
ブルックナーが雄大で荘厳な音楽ではなく、美しく静謐な、あるいは繊細な音楽であるということを、この録音は認識させてくれる。そうした静けさの中から、本当のダイナミックスが生み出されるのである。この録音は、透明で深みのある空間表現を支えにして、ブラスセクションの華やかなサウンドが鳴り響く、最高品位のブルックナーに仕上がっている。
文化財級