1楽章から3楽章までは少々バランスを欠く仕上がりで、各楽器が混沌とした音像の中で窮屈なサウンドを聴かせている。しかし4楽章からは一歩踏み込んだような、一皮剥けたような見通しの良い音像にまとめられている。エンジニアが意図的にミキシングを変えているとは思えないが、やはり、合唱を含んだオーケストラ音像を狙うと、オーケストラのみの前3楽章の処理が曖昧になってしまうのである。
合唱を含む大規模な楽曲の場合、合唱とオーケストラのバランスを図るのはとても困難である。この第九の録音は、同曲のベストとは言いがたいが、それでも、ライヴのリスクを感じさせない聴き応えのある録音に仕上がっている。特に4楽章からは独唱・合唱・オーケストラの各パートが鮮明に描かれており、ステージレイアウトやリアリティにも納得できる手ごたえを感じることができる。ただ、合唱の響きに奥行方向への深みが加われば、更に一段高い評価を与えることができたが、マルチマイクでの重ね録りであることを考えれば、これ以上の自然な広がりを求めることは不可能であろう。
反面、マルチマイクであることの強みを生かした、各楽器の明瞭さ焦点の定まったステージレイアウトには好感が持て、充分な仕上がりであると評価できる。 |