文化財級 交響曲
作曲家 ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェン
曲名 交響曲第4番変ロ長調 第6番へ長調「田園」
指揮 ブルーノ・ワルター
演奏 コロムビア交響楽団
録音 1958.2.10/1958.1.17
アメリカン・レジオンホール
プロデューサー ジョン・マックルーア
エンジニア
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.2
商品番号:SMK 64462 ソニー(CBS) ステレオ 
解説
コンサートから退いたワルターのために、レコーディングによる現役活動をサポートした、プロデューサー・ジョン・マックルーアによる一連の録音は、ステレオによるワルターの演奏を伝える貴重な記録資産となっている。レコーディング技術においても、ステレオ録音がようやく軌道に乗り始めた頃であり、エンジニアたちのひたむきな努力と、この巨匠の残された命をテープに刻み込もうとする執念が、途方もないエネルギーを消費しながら、一曲一曲を積み重ねていった。ベートーヴェンの交響曲全集は、短期間で集中的に録音されており、音像表現上の違いは殆どないと言える。
ホールトーンは、オーケストラの広がりと奥行を支える豊な残響成分を見事に捉え、編集の手を加えない一期一会の生々しいオーケストラサウンドを懐深く支えている。このホールの詳細は判らないが、マイクセッティングはオーケストラから距離を取り、各楽器の分離よりもTuttiでの一体感を捉えようとしていると思われる。しかし、雰囲気に流されているわけではなく、各楽器が曖昧になることなく、一音一音が生々しく浮かび上がってくる。
ステージレイアウトは、ステレオ感のある広々とした空間を描いており、各楽器を過剰に主張するような定位ではなく、自然体のオーケストライメージにまとめられている。弦セクションと管セクションの捉え方も良好なバランスであり、オーケストラ本来の音像を的確に表現していると評価できる。このような実物大のオーケストライメージを狙うことで、音像は生々しく闊達に捉えることができるのである。
一方、音質面やダイナミックレンジは時代相応の内容で、耳障りではないにせよ、全体にノイズが意識されるのは否定できず、ダイナミックレンジも広いとは言えない。
このアルバムはソニーのハイビット処理システムSBMによってリマスタリングさたものである。その後、DSDによる1ビット処理でのリマスタリングで再発売されているが、比較した場合、圧倒的にこのアルバムの仕上がりがオリジナルに近いと思われる。もちろんオリジナルテープは聴くすべもないが、DSD盤は、余りにも手を加えすぎているのである。一聴すると広がりもあり音の余韻が伸びやかで透明度も高いが、それは厚化粧で覆われた「女優」の様な仕上がりで、その内にあるものの実態がつかめなくなってしまっている。旧盤は、音質では劣るものの、むしろそれ自体がオリジナルの時代を伝えるものであり、また、そこから聴こえる生々しい「空気」こそ、記録され伝えられるべき歴史の意味なのである。ワルターやバーンスタインのアルバムは、何度も形を変えて再販されている。そのつど最新のテクノロジーを投入して購買欲を煽ってきたが、オリジナルへ近づくのではなく、聴きやすさという「雰囲気」を志向してしまっては、当時のエンジニアの「執念」を歪めてしまうことになるのではないだろうか。
文化財級