デジタル初期のライヴ・レコーディングである。演奏会形式によるコンサートを3度に分けて収録したものである。バーンスタインにとってのオペラ録音は数少ないが、中でもワーグナーは唯一である。変質的な愛を描いたこの「トリスタン」を選んだ所がバーンスタインらしいとも言えるが、演奏は歌劇場では得がたい、セッションライヴならではの完成度と深い心情表現を成し得ている。70年代後半、マーラーやベートーヴェンのチクルスをヨーロッパで成功させたバーンスタインの、達観した芸術の世界を堪能できる内容である。
録音は、デジタルのダイナミックレンジを生かした、自然な音像空間を狙ったもので、ワンポイント的な表現に仕上げられている。ホールの空気感を削除せず、ステージ上のオーケストラと独唱をあるがままに捉えようとしている。豊なホールトーンの中で、オーケストラは残響成分を含んで美しく広がっている。一方、独唱も、ステージ上での位置関係までもが明瞭に伝わってくるほどのリアリティがあり、個々の配役がピックアップされてはいないものの、その定位感は素晴らしい内容である。オーケストラ全体は距離感のあるステージレイアウトで展開し、眼前に迫り来るような生々しさはないものの、ホールで聴く自然な音像表現であると評価できる。
静けさの中に恍惚とした美意識を描いた楽曲ではあるが、時折現れる烈しいTuttiでは、オーケストラは情念の限りを尽くして衝撃的な演奏を聴かせる。ブラスセクションの骨太で伸びやかなffの再現は、この録音のもう一つの聴き所となっている。「指輪」の合間に作曲された曲であるということを、この壮大なオーケストレーションが改めて認識させてくれる。
|