世界遺産級 オペラ/合唱曲
作曲家 リヒャルト・ワーグナー
曲名 楽劇「神々の黄昏」
指揮 ゲオルグ・ショルティ
演奏 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ジークフリート:ウィルフガング・ヴィントガッセン
ブリュンヒルデ:ビルギット・ニルソン
録音 1964.5/11  ウィーン・ゾフィエンザール
プロデューサー ジョン・カルショー John Culshaw
エンジニア ゴードン・パリー Gordon Parry
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト 10
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 9.2
商品番号:455 555−2 デッカ  ステレオ 
解説
舞台上の様々な音響効果を、文字通り手作りで描き上げた歴史に残る名録音である。ジョン・カルショーによってプロデュースされたこの「指輪」全曲録音プロジェクトは、その存在が既に貴重な文化遺産となっている。また録音の仕上がりにおいても、未だ他の録音が越えることのできない独壇場の評価を得ている。
一連の録音の中で、3番目に行なわれた「神々の黄昏」は、トータルバランスに優れた完成度の高い内容となっていて、オーディオソースとして最大級の評価を与えることができた。
ゾフィエンザールの床面を最大限に生かしたセッティングにより、オーケストラは自由に配置され、マイクアレンジもエンジニアの狙い通りに組むことができたと伝えられている。エンジニア、ゴードン・パリーの目指すワーグナーの世界観が見事に表現されていると言える。
ホールトーンは空間の広さを生かして、余裕のある自然な残響成分を持っている。またオーケストラの各セクションの距離感も適度に伝えている。ステージレイアウトは左右への広がりと奥行を捉え、ステレオ感のある深い音像表現を作り上げている。独唱とオーケストラのバランスも見事である。歌劇場で聴くオーケストラと配役のバランスではないが、オーディオ再生の可能性を信じたエンジニアたちの妥協の無い音作りが、現在においても褪せることなく煌いている。オーケストラは量感のある音で各独唱者を支えており、ソリストたちも迫力とリアリティのある音像で克明に捉えられている。
オペラにおいて、オーケストラは時に物語を語り、時に配役たちのサポートを担う。この録音は、そうしたオーケストラの2面性も曖昧な音像処理に逃げることなく、どこを切り取ってもオーケストラと独唱双方が際立ち、そして生々しく眼前に迫ってくる。Tuttiでのffにおいても、オーケストラの音像はぶれることはなく、ダイナミックレンジが頭打ちになることもない。そうした大音響の中でも、独唱の声は際立って明瞭に捉えられているのである。また、どんなに音量が増しても耳障りになることはなく、楽器と声が見事に調和し、そして住み分けられている。
管弦楽曲としても聴き所の多い曲である。「夜明けとジークフリートのラインへの旅」や「ジークフリートの葬送行進曲」「ブリュンヒルデの自己犠牲」などは、有名であるということもあるが、いっそう聴き応えが増す場所であり、録音も演奏もダイナミックに壮大に、そして美しく清らかに描かれている。セレクションとして切り取られた録音とは一線を画する深く切り込んだ演奏が聴ける。
マルチマイクによるリアリティを追求した音像表現であるが、編集を前提とした現在の録音とは違い、同時ミキシングによって行なわれた当時の録音技術を考えると、この完成度と積極的なアプローチは奇跡と言っても過言ではないだろう。
世界遺産級