世界遺産級 管弦楽曲
作曲家 ペーター・イリイチ・チャイコフスキー
曲名 バレエ音楽「くるみ割り人形」
指揮 シャルル・デュトワ
演奏 モントリオール交響楽団
録音 1992.5.8  St Eustache Montral
プロデューサー Michael Woolcock
エンジニア Stanley Goodall
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト 10
リアリティ
クオリティ 10
ダイナミックス
平均点 9.4
商品番号:440 477−2 デッカ  ステレオ
解説
非の打ち所の無い完璧なデッカサウンドである。デュトワ・モントリオールSoの新譜リリースに期待されるのは、優秀録音という絶対的な評価であり、カタログを増やすこと以上に、このレーベルの生命線を守り続けると言う大命題を課せられての市場投入なのである。このコンビの録音を多く聴いているわけではないので、結果的にどの程度の完成度まで達しているのかはわからないが、ここに聴く内容であれば、オーディオソースとしての評価は揺るぎないものであると判断できる。
録音は素晴らしい仕上がりであるが、全てが整っているわけではない。ホールトーンは豊に響くが、会場にただよう空気感は無い。そこに100人からの奏者が居るという気配は感じられないのである。しかし、各楽器の音は充分なリアリティを持って捉えられており、マルチマイクでの音の重ね録りを考えれば、これだけの自然な音像を演出できたのはエンジニアの良識が高いものであったのだと納得できる。
一方、音質面のクオリティやダイナミックレンジは時代の先端を行くハイスペックな仕上がりで、2chステレオの世界において、この録音の到達した音像表現は歴史に刻むに相応しいものであると評価できる。
「くるみ割り」は、チャイコフスキー最晩年の作品であり、多彩な楽器群による華やかなオーケストラサウンドは、子どもにも楽しめる洒落た楽曲をより一層魅力的なものに惹き立てている。
録音の良さで売り上げを伸ばしてきたデッカレーベルにとって、往年のアンセルメ・スイスロマンドOの焼き直しともいえるデュトワのリリースは、とにかくオーディオマニアを唸らせることで存在感を示さなくてはならない企業事情による結果である。現在でも優秀録音を売りにしているし、消費者も批評家もデッカは音が良いと信じている。それは決して間違っているわけではないが、ステレオ初期の奏者の息遣いまでも聴こえて来る生々しい録音を知っているものであれば、デジタル時代のデッカに歴史に残る銘録音が無いと言うことは承知のことだろう。
しかし、それでも時代の流れの中において、この録音は素晴らしい透明感とダイナミックなオーケストラサウンドを楽しませてくれる。更に時代が10年流れた現在では、サラウンドの曖昧な音像に市場が向いてしまい評価の土俵に上げられるものが殆どなくなってしまっているのだ。そう考えれば、ステレオ録音の終末期でありながら充分な説得力を持ったこの録音は、オーディオソースとしても音楽鑑賞の良質な音源としても価値のあるものなのである。
世界遺産級