文化財級 管弦楽曲
作曲家 武満 徹
曲名 ジェモー
指揮 若杉 弘+(沼尻竜典)
演奏 東京都交響楽団
独奏 Trb.クリスチャン・リンドベルイ
録音 1994.7.29 東京芸術劇場
プロデューサー 川口義晴
エンジニア 後藤 博
その他 B&K4006  B&W801
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点
商品番号:COCO−78944 デンオン  ステレオ 
解説
日本から世界に発信できるDENONレーベルの優秀録音である。楽曲は巨大な編成で、二つのオーケストラを左右に配し、それぞれにトロンボーンとオーボエのソリストを擁する。この異色の楽想のため、初演は何度も挫折に見舞われ、紆余曲折の末、作曲に15年が費やされている。
したがって、録音は通常のオーケストラ音像の枠に当てはめて批評することはできず、感覚的な総合評価となった。参考までに、ライナーノートに記載されている楽器の配置図と、現場に立ち会った神崎一雄氏の情景描写を引用させていただく。
『・・・ワンポイント主体の収録の条件を整えやすくするため、オーケストラで普通使われている管楽器群が乗る台は使わず、ステージを平土間状に使っているから、余計に広がって見える。
ワンポイントのB&K4006マイクロフォン2本の間隔は約70cm。オーケストラの広がりと奥行の深さからして、これだけでは届かない。当然、サポートマイクが必要で、弦群の後方に位置するコントラバスとハープ、左に展開する第一オーケストラのソロ楽器オーボエ、右に展開する第二オーケストラのソロ楽器トロンボーン、そして楽譜で「増幅」が指定されている第1オーケストラのマンドリン、第二オーケストラのギターに、それぞれサポートが置かれている。』
この様なセッションが組まれていたということである。神崎氏も、オーケストラの配置図を見ながらの鑑賞を勧めている。

さて、純粋な録音批評であるが、音像は、豊かな広がりと伸びやかに響く空間表現の優れた内容である。二つの巨大なオーケストラを曖昧にせず、又、Tuttiでのffでも混濁した耳障りな響きを一切聴かせない。ピュアで懐の深い録音であると評価できる。サポートマイクを要したとはいえ、2本のマイクで果敢に挑戦するワンポイント録音であることから、意図的に作られたステージレイアウトは存在しない。又、ストレートにテープに音が記録されていくストレスのない音像空間を感じ取ることができる。そこに漂う空気感や残響音は、どこまでも透明で美しい。
ステージ上に高くセッティングされた2本のマイクが捉えたオーケストラは、少々近接的な音像であるが、強調感はなく、実物大の音像表現であると言える。一方、奥行への広がりを充分に捉えた録音であり、オーケストラの多様な色彩感を見事に演出している。トータル的にバランスの取れたナチュラルな音像表現は、このレーベル特有の見事な主張である。反面、ソリストの存在感は少々薄まったことは残念である。
ダイナミックレンジは楽曲の繊細で静謐な作風によってffでのTuttiがほとんど現れないが、それでも最終コードでフル編成のオーケストラがクライマックスに達するときには、迫力の音像が響き渡る。
スペック的にもコンセプト的にも、そしてエンジニアの技術面においても、高く評価できる録音となっている。
文化財級