デジタル録音最初期に日本で行なわれたライヴ・レコーディングであり、その記念碑的な価値は現在でもとても高いものとなっている。この録音は、何度も何度も再販を重ね、ここで紹介したアルバムはDSD処理されたハイブリットCDである。SACDでの音質は確認はできていないが、CDでのマスタリングは、輸入盤をも含めて、これまでの中では一段高い評価に仕上がっている。
1979年の来日にあわせて録音された演奏で、二日間の公演からテイクがまとめられている。ライヴの雰囲気を充分に感じさせる自然な音像は、過剰な誇張や強調感が無く、聴きやすく好感の持てる内容である。オーケストラは実際のステージ規模をイメージさせ、少々こじんまりとまとまっているが、ホール中央の客席からオーケストラを見通すような雰囲気は違和感の無い音像であると評価できる。距離感のある音像は迫力に欠け、ダイナミックレンジに不足を感じる面もあるが、デジタル録音が手探りだった当時を思えば、ある程度安全圏を狙った音像表現は止むを得ないものだったと推測できる。また、ステージレイアウトは各楽器がステージ中央に集約された配置になっていて、ステレオ感には弱いが、むしろ自然なまとめ方であると評価できる。
この録音である程度の評価と可能性を確認できたことで、この後、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団が名古屋市民会館でマゼールと共にベートーヴェンの「運命」を録音している。メジャーレーベルによるメジャー録音が、当時日本で行なわれていたこと自体、歴史に残る出来事であったといえる。
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