文化財級 交響曲
作曲家 ディミートリー・ショスタコーヴィチ
曲名 交響曲第11番 ト短調「1905年」
指揮 ミヒャエル・プレトニョフ
演奏 ロシア・ナショナル管弦楽団
録音 2005.2.14 ブリュッセル・Beaux−Arts
プロデューサー Job Maarsell
エンジニア Jean−Marie Geijsen
その他 Live
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ 10
ダイナミックス
平均点 9.2
商品番号:PTC 5186076 ペンタトーンクラシックス  DSD ステレオ
解説
このオランダに生まれた新しいレーベルは、DSD録音によるハイブリットSACDでのリリースを進めている。フィリップスレーベルからの音源を元にした再リリースも話題があるが、やはり、最新録音によるハイスペック音源の提供には大きな期待が寄せられている。
残念ながら、ここでの批評は従来のCD音源でのステレオ再生で行なっているため、このレーベルの真髄を聴き取ることはできない。そうしたリスニング環境のリスクがありながらも、この録音の素晴らしさの一端を聴き取ることができる。
このアルバムはライヴ録音だが、過去のメジャーレーベルが犯した過ちに陥らず、会場の気配や空気感を充分に残した、豊かなホールトーンとリアリティを聴かせてくれる。
CD音源を聴く限り、左右へのステレオ表現は抑制的である。マルチ再生の環境を主に置いているため、2chステレオに過剰な演出は必要ないということなのか・・・。抑制の効いたステレオ感に対し、奥行方向への広がりは伸びやかで豊かな深みを感じさせる。そのため、全体の音像表現は決して小振りにはならず、広がりのあるオーケストライメージが捉えられている。
また、DSDによる美しく透明感のある響きは、絹の様な優しい肌触りを思わせ、極めて魅力的である。オーケストラのすさまじいTuttiによるffでさえも、余裕のある残響を確保し、音像が圧縮されたり飽和して耳障りになることもない。金管楽器・打楽器群が大迫力で轟音を響かせる様は、オーディオの限界への挑戦ともいえる。ただ一つ、2chステレオでの再生においては、Tuttiでの各セクションのまとまりが散漫になってしまう。マルチ再生を前提としたステージレイアウトが2ch再生との親和性に欠けるのは止むを得ないということだろう。
しかし、この録音の醍醐味は、大迫力のffではなく、室内楽的な響きとなるmpでの弱音表現にこそある。奏者の息遣いや気配、客席の緊張感など、会場のあらゆるものが伝わってくるようである。1楽章での長大なアダージョは、息が詰まるほどの静謐な、そして報われない悲しみに打ちひしがれることになる。
このショスタコーヴィッチの交響曲第11番「1905年」は、ソビエトの虐殺事件を描写したものである。1957年に作曲されたこの楽曲は、1906年生まれのショスタコーヴィッチ51歳での作品である。第1次ロシア革命の引き金となったといわれる、ロシア皇帝による数千人もの労働者死傷事件。ショスタコーヴィッチはこの歴史的事件を、幾つもの革命歌を引用しながら悲痛で凄惨な標題音楽として完成させている。
第1楽章 宮殿前広場−1905年1月9日の暗く重苦しいペテルブルクの冬
第2楽章 1月9日−「血の日曜日」無防備な民衆に対して軍隊の一斉射撃・逃げ惑う民衆
第3楽章 永遠の記憶−犠牲者の葬送行進曲・レクイエム
第4楽章 警鐘−革命へ向かって前進する人民の姿
この様に、史実に基く劇場型の作品となっているのである。

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