世界遺産級 協奏曲
作曲家 ジャン・サンダーストレム
曲名 トロンボーン協奏曲第2番「ドン・キホーテ」
指揮 オスモ・ヴァンスカ
演奏 ラハティ交響楽団
Trb.クリスチャン・リンドベルイ
録音 1996.8.16 フィンランド・クロス教会
プロデューサー ロバート・スーフ Robert Suff
エンジニア インゴ・ペトリー Ingo Petry
その他 Neumann Studer Stax
評価項目 評価内容
ホールトーン 10
ステージレイアウト 10
リアリティ
クオリティ 10
ダイナミックス
平均点 9.6
商品番号:CD−828 BIS ステレオ 
解説
一聴すると音像の遠い、小振りな印象を持つワンポイント録音だが、そこに含まれている膨大な音情報に気がつくと、恐ろしいほどのリアリティに感動するだろう。BISレーベルの一貫したコンセプトに則った、自然志向で人工的な操作のない、あるがままのリアリティが聴こえて来る。この「自然」をどこまでリスニングルームで再現できるかがオーディオに課せられた問題となるが、効果の差こそあれ、その一端でも感じ取ることができるのならば、このレーベルの良き理解者となることができる。
さて、このアルバムは、トロンボーンを独奏にした協奏曲を集めた内容である。独奏を務めるリンドベルイは、驚異的なテクニックを武器に、このレーベルで数多くのアルバムをリリースしている。クラシックにおけるトロンボーンのマイナー度からすると、考えられないような成果を挙げているといえる。
アルバムの中心をなしている「ドン・キホーテ」は、リンドベルイの為にサンダーストレムが作曲した2曲目の協奏曲である。1番は「モーターバイク協奏曲」と呼ばれる、トロンボーンをバイクに見立てて世界旅行をするという、破天荒で俗受けを狙った珍品である。
それに続く「ドン・キホーテ」もやはり、視覚的想像を誘導するような、かなり演出掛かった内容となっている。
トロンボーンの楽器としての音楽性や美音を聴かせるような楽曲ではなく、人間のセリフや叫び声などもふんだんに取り入れた独特の世界観である。

ライナーノーツには、リンドベルイの描いた各シーンの挿絵までも紹介されている。
あえて作品に対する批評は行なわないが、このドラマチック性は苦笑の一歩手前といった感じである。
とは言え、そうした楽曲だからこそ、この録音の優秀さが際立っていることは否定できない。
録音は、見事なホールトーンとステージレイアウトである。オーケストラと独奏(セリフ)は絶妙のバランスでブレンドされ、ステージ゙上で一体となって響きの融合を創り上げている。
独奏者は、楽器をただ美しく演奏するだけでなく、ステージで足を踏み鳴らしたり、マウスピースでボソボソ唸ってみたり、映像が無いので想像するだけではあるが、相当なパフォーマンスを展開している。そうした演奏風景が、この自然な音像空間の中で、一つ一つが手に取るように伝わってくる。もちろん、オーケストラの表現も実物大で違和感はなく、コンサートホールでライヴを楽しんでいるかのような、感覚的な生々しさが捉えられている。しかしそれは、赤裸々な生々しさから来るものではなく、あくまで現場で起こっている「今」を窺うドキュメンタリーの情景なのである。そう、この録音は、ステージ上のドキュメンタリーを「観る」ものなのである。映像が無いからこそ、耳に伝わってくる音情報のみを頼りにむさぼる様に聴き入る。そうすることで、目の前で起こっていることが見えてくるのである。
見事な音像ドキュメンタリーなのである。
実存感は言うに及ばず、クオリティやダイナミックレンジにおいても時代の先端を行く、最高品質の録音に仕上がっている。
世界遺産級