文化財級 管弦楽曲
作曲家 ジョアッキーノ・ロッシーニ
曲名 序曲「セビリアの理髪師」 ほか
指揮 クラウディオ・アバド
演奏 ヨーロッパ室内管弦楽団
録音 1989.4  Ferrara,Teatro Comunale
プロデューサー クリストファー・アールダー
エンジニア グレゴール・ツィーリンスキー
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ 10
ダイナミックス
平均点
商品番号:431 653−2 グラモフォン ステレオ 
解説
このアルバムは、二人のエンジニアの手によって、異なる2箇所で録音されている。曲によってその音像表現の違いが楽しめる内容となっている。ここでは、上記ツィーリンスキーの録音を高く評価している。
室内管弦楽団による演奏は、フルオーケストラとは違う軽やかで爽快な印象を持つが、録音された音像も、そうしたイメージを否定しない内容となっている。室内楽といっても、編成上の違いは弦セクションの人数が少ないといった程度で、管楽器は通常のものとの違いはない。ただ、響きのベースとなる弦楽器が少ないことで、管楽器も音量的にも抑制された演奏を聴かせている。室内楽の粒立ちの良いクリアなサウンドが、この録音の評価を左右することになる。
この録音は、フルオーケストラでは聴こえない、あるいは際立たせる必要のないアンサンブルの中枢までも狙った音像である。奏者の息遣を捉えたような生々しさとは趣を異にするが、各楽器を覗き見るような明瞭な音像処理で、ごまかしのない実物大のオーケストラを表現している。広がり過ぎないステージレイアウトも好感の持てる仕上がりであり、各楽器を適正に定位させている。左右への配慮はもちろん、奥行への広がりも充分に表現されている。この演奏が、人数の少ないオーケストラであるということを、一つ一つの音が説得力を持って示してくれる。
Tuttiでのffでも音圧が飽和することはなく、伸びやかでスピード感のあるアタックが捉えられている。また木管の美しいソロは、オーケストラの全体像の中でも繊細なハーモニーを紡ぎ出し、透明感のある豊な響きを重ねていく。この録音には、耳障りで刺激的な音はどこにもないのである。
一方の、キリスト教会での録音は(ウィリアム・テルほか)、ホールトーンこそ豊に捉えられているが、雰囲気に偏重気味で、全体のバランスにまとまりがない。各楽器のポジショニングも曖昧で、曲想に拠ってばらばらに定位しているように聴こえる。響きが雑然としているため、オーケストライメージがクリアに聴こえてこないのである。
文化財級