文化財級 管弦楽曲
作曲家 モーリス・ラヴェル
曲名 バレエ「ダフニスとクロエ」第2組曲 ほか
指揮 ロリン・マゼール
演奏 ニューヨーク・フィルハーモニック
録音 2007.4.28 エイブリー・フィッシャー・ホール
プロデューサー ハルトムット・ベンデル Hartmut Bender
エンジニア ロウレンス・ロック Rawrence Rock
その他 ニューヨーク・フィルハーモニックLive
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.4
商品番号:00289 4777175 グラモフォン  ステレオ 
解説
ニューヨーク・フィルハーモニックの定期演奏会をグラモフォンがリリースするという企画アルバムである。ニューヨーク・フィルハーモニックは、通常はホームページで演奏会の音源を期間限定で配信しているが、更にDGは、一旦CDアルバムにまとめた上でコンテンツ配信をしている。既に何枚ものアルバムがネットのみでの販売が行なわれている。そうした動きと並行する形で、やはり実態のあるCDでのリリースも行なわれている。本アルバムは2枚目のリリースである。
プロデューサーはDG側にあるが、制作全般はニューヨーク・フィルハーモニックの中で行なわれている。いわゆる自主レーベルの制作スキームに近い。そのため、この録音を「記録」と見るか「表現」と見るか迷うところであるが、他の自主レーベルの仕上がりと比べても一際優れた内容であり、ここでの評価が妥当と判断した。
ライヴであるが、なぜか拍手はカットされている。楽曲の最終音は、おそらくリハーサルから持ってきたものと思われる(それ程に不自然な残響が響き渡る)。ジャケットにも複数の演奏会の日時がクレジットされているので、リスナーは「継ぎはぎ」を大前提として聴かなくてはならない。この確信犯とも言えるDGの開き直りを納得できる人にしか、このアルバムは薦められない。しかし、出来上がった音像がオーディオソースとして充分に楽しむことができる内容なのであれば、それも良しとすべきなのかも知れない。
録音は、細部までよく捉えられた繊細で肌触りの良い音である。スタジオセッションと比べても引けをとらないリアリティがある。マイクセッティングは床からのスタンドマイクではなく、おそらく天吊りマイクであると思われる。本数的にも限りがある条件の中で、積極的に豊な音像を狙っている。
ホールトーンはそれほど豊ではないが、その分各楽器が明瞭に捉えられている。ステージ上の程よい残響に支えられて、オーケストラは伸びやかに適正に定位している。各楽器の配置も自然で人工的なバランスは感じられない。コンサート会場の雰囲気をリアルに伝えている。
音質面でも全くストレスはなく、唯一、ダイナミックレンジにあと一歩の積極性が足りないのが惜しまれる。ffでのTuttiで、エンジニアの「記録」に対する責任意識が表れてくる。要するに、安全圏に収めるためのリミッターが掛かってしまうのである。ニューヨーク・フィルハーモニックの超ど級のブラスセクションが、せっかくのクライマックスで尻すぼみになってしまうのである。アルバムに収められたラヴェルやストラヴィンスキーの楽曲も、金管楽器への挑戦的なアプローチを求めている。そうした聴き所を期待すると、この録音の「自主レーベル」的な弱さが露呈してしまうのである。
この録音は、果たして記録なのか表現なのか。結論はプロデューサーに聞いて見るしかなさそうだ。様々な弱点はあるが、このCDのコンセプトが今後どのように展開していくのか楽しみである。
文化財級