重心のやや高い音像表現である。冒頭の、夜明けと自然の主題の部分では、これほど完璧に、そして壮大に演奏したオーケストラは他にないだろう。録音は、そうしたオケの力量をみごとに捉えている。ティンパニーのソロでは、楽器の位置がステージの左右どちらにあるのか分からなくなるが、これは、打音がステージの中で乱反射されるためで、定位が不明瞭になっているのだ。マンハッタン・センターでのオーケストラ録音は、通常、ステージではなく床面を使ってのセッティングとなる。客席を取り払ったホールは空間が広くとれ、奥行方向への響きも確保される。コンサートホールでのステージ録音では得られないオーケストラの広がりが表現できるのである。そして楽器の配置やマイクアレンジも自由度が増すというメリットがある。デッカがウィーンPoをゾフィエンザールで録音し続けたのと同じスタイルである。このようなフロアホールでの録音ではあるが、オーケストラからは素晴らしい音像表現が捉えられている。客席から見通すステージ上のオーケストラが確かに聴こえてくるのである。マンハッタン・センターにオルガンがあるのかどうか未確認だが、おそらくは別録りであろう。
マルチ録音では、通常ピックアップマイクを使って近接音を録り、機械的に定位を決めていくのであるが、この録音ではそうした補助的な操作を感じない。グラモフォンではワンポイント録音はありえないと思うが、マルチ録音に行き詰ったエンジニアが実験的に行なった音像表現なのかもしれない。このエンジニアは、後にアバド・ウィーンPoとのブルックナーを録音するのだが、残響たっぷりにオーケストラを表現し、大失敗している。
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