文化財級 交響曲
作曲家 チャールズ・アイヴズ
曲名 交響曲第4番
指揮 小澤征爾
演奏 ボストン交響楽団
録音 1976.2 ボストン・シンフォニー・ホール
プロデューサー Tomasu W.Mowrey
エンジニア ハンス・ペーター・シュヴァイクマン
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.4
商品番号:423 243−2 グラモフォン ステレオ 
解説
立体感のある奥行が、ステージを広々とした空間に表現している。この第4交響曲は、アイヴズの最後の交響曲でもあり、管弦楽曲としても最も複雑で規模の大きな作品である。通常のオーケストラに加えて、チェレスタやオルガン、テルミンまで使われており、それに合唱団と弦楽アンサンブルが加わる形となっている。こうした多種多様な楽器が複雑に入り乱れ、統一感の無い混沌とした演奏が展開されていく。時折現れる歌謡的なメロディが、一瞬、曲想が明瞭に聴き取れる手がかりとなるが、大半は捉えどころの無い、メロディとハーモニーのぶつかり合いである。録音は、そうした雑然としたオーケストラの響きを、マルチマイクによって可能な限り克明に捉えようとしている。しかし、ピックアップした音像を聴きやすく整理してしまうようなことはせず、音の洪水が溢れ返るがごとく、あるがままのオーケストライメージに仕上げている。まさにステージ上に放り込まれたかのような音像表現である。
ホールトーンは積極的に捉えられたものではないが、各楽器はほどよい残響成分を含んで伸びやかに描かれている。分離も良く、それぞれが曖昧にならずにクローズアップされている為、オーケストラのTuttiでも楽曲の複雑さが単なる飽和状態となることなく、一音一音聴き取れる見通しのよさを確保している。大編成でダイナミックレンジも広い曲の為、ブラスセクション、打楽器セクションに対して、弦セクションが少々控え目な印象になっているが、それ自体が実物大のオーケストラ音像であると言え、必要以上に弦セクションをクローズアップしなかったことが、エンジニアの良識であったと評価できる。
アイヴズは、この第4交響曲に対して、「人間の精神が人生について問いかけるのは、“人間は何のために生きるのか?”という命題であり、それはまた“人間はなぜ生きるのか?”という命題に発展していくのである」と述べている。1楽章の前奏曲は、まさにこの命題に対する問い掛けであると言える。また2楽章は「世俗的な社会の進歩を、この国を開いた清教徒たちの試練に対照させたコメディである」と定義し、3楽章は「形式主義と儀式主義に対する人生の反応」を表現し、終曲を「人間の実存という現実とその宗教的な存在とに関わる神格化である」と意味づけている。
録音は、日本人指揮者として世界的飛躍を遂げた小澤征爾の、グラモフォンによる近代音楽集の一つである。

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