文化財級 交響曲
作曲家 ヨゼフ・ハイドン
曲名 交響曲全集(1番から104番)
指揮 アンタル・ドラティ
演奏 フィルハーモニア・フンガリカ
録音 1969−1972  セント・ボニファティス教会
プロデューサー ジィムズ・メイリンソン ほか
エンジニア コリン・モーフォート ジョン・ダンケリー ほか
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点
商品番号:478−1221 デッカ  ステレオ 
解説
ハイドンの104曲の総ての交響曲を網羅した、文字通りの交響曲全集である。CDのセットは33枚に及ぶ。この存在自体が歴史的な文化遺産であると言える。録音は1969年から72年という短い間に集中的に行われている。指揮者ドラティも、ここでようやくメジャーの仲間入り、と言ったところだろうか。
セッションが集中して行われていたこともあり、演奏面も録音面も、プロデューサーやエンジニアの一貫したコンセプトを感じることができる。実際には複数のエンジニアがクレジットされているが、録音のアプローチにブレはない。
さて、104曲の録音を一気に聴く事はできても(現在も視聴しながらの執筆である)、批評を総てに行うことは現実的でないので、録音の新しい72年セッションのものをサンプルにして評価を行った。平均値ではあるが、大きくは外れるものではないだろう。

まず、録音の仕上がりは最新のデジタル録音かと思うほどの瑞々しく溌剌としたサウンドに驚かされる。編成が小さい分録音レベルを高めに設定してあるようだが、それがダイナミックなサウンドを印象付けている。ffでの伸びやかな弦の倍音成分やぐいぐいと押してくる管の音圧などは、どんなオーディオで再生しても聴き取ることのできるポジティブ要素である。
ただ、このリリースでどの程度リマスタリングが行われているかは不明であり、ホールトーンなどは「後付け」の感が否めない。しかし、33枚のCDの質的レベルを統一するのがマスタリングであると理解するならば、録音後の加工は止むを得ないのだろう。いずれにしても、104曲の交響曲を気持ちよく、そして何よりもハイドンの「才気」に驚かされながらの試聴は楽しく喜びの得られる時間となるだろう。

なお、録音批評からは話がそれるが、この全集の市場相場は6000円程度である。考えられないデフレ価格である。
クラシックの録音市場は低迷を続け、明らかに斜陽産業である。最新録音は精彩を欠き、大金を払って購入するのは躊躇われるし、ほとんどがライブ録音(自主録音)となってしまった現状では、本物を求めて、より古い録音に目を向けるしかなくなった。
だが、録音市場は古いものほど安く買うことができる。つまり、いいものほど安く買えるというゆがんだ世界なのである。
安易な廉価版は仕上がりに不安を感じるし、原音から乖離したリマスタリングも横行している。リスクは少なくはないが、ステレオ録音初期のアルバムに耳を傾けてみてはいかがだろうか。
文化財級