文化財級 交響曲
作曲家 アントニン・ドヴォルザーク
曲名 交響曲第9番ホ短調「新世界より」
指揮 フリッツ・ライナー
演奏 シカゴ交響楽団
録音 1957.11.9  オーケストラ・ホール
プロデューサー リチャード・モア
エンジニア ルイス・レイトン
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ
ダイナミックス
平均点 8.2
商品番号:JMCXR−0013 RCA(JVC)  XRCD  ステレオ
解説
今から半世紀前に録音され、今もなお、この曲のベストチョイスに挙げられる、ライナー&シカゴ交響楽団の名録音である。このコンビの演奏には民族的、土俗的な粘り気はないが、近代的でスマートな演奏が、それまでのドヴォルザーク観を一変させたと言ってよい。輝かしいブラスサウンドと過剰な情感を持ち込まないライナーのアプローチが、語りつくされた「新世界」の普遍性を認めさせてくれる。
一方、抒情楽章における歌心は、意外なほど心に染みいる感動を与えてくれる。音楽が自然体に流れていく時に得られる、本能的な美しさとでも言えるだろうか。人生の達観の域に達した、巨匠の虚無のタクトが導いたのかもしれない。
ライナーがシカゴ交響楽団とRCAに残した演奏は120曲を超えるというが、ドヴォルザークは極端に少なく、交響曲はこの「新世界」のみである。

さて録音は、このコンビのシリーズに一貫した、明瞭でリアリティ抜群の音像表現である。ホールトーンは必要十分な残響以外は意識して捉えられてはいない。ホールの空間規模を感じ取るような広がりを持った残響ではなく、各楽器が発する、自然な響きを素直に捉えたものである。
ステージレイアウトは、3chステレオ録音による十分な広がりと定位感に優れた音像に仕上がっている。ただ、音像のまとめ方に幾分迷いがあるのか、それとも試行錯誤の積み重ねの過程なのか、止むを得ないことではあるが、各セクションあるいは各パートの配置に曖昧さがあり、幾分強調されすぎている音像が散見されてしまっている。実際のステージを思えば、音像にばらつきがあるのである。
しかし、そうしたバランスの不整合さは、ステレオ初期のこの時代を鑑みれば、機械に頼らない人の感性が前面に出た結果であり、不快になるどころか、むしろエンジニアたちの熱き思いを感じ取りながら鑑賞できる、喜びの一つであると言える。現在の、雰囲気だけを頼りにした曖昧で実体の無い音像志向に比べれば、はるかに理想的で説得力のある録音であり、クラシック界の文化遺産であると評価できるのである。
一本のマイクが捉えた、時代の生々しい記録であり、そのリアリティは息をのむほどに美しい。
その他の評価は、音質面でのクオリティやダイナミックレンジは、スペック上の限界もあり時代相応の内容となっている。ノイズ感など、大きなマイナス要素は無いが、特筆して評価できる内容でもない。
文化財級