世界遺産級 管弦楽曲
作曲家 アーロン・コープランド
曲名 エル・サロン・メヒコ  ほか
指揮 レナード・バーンスタイン
演奏 ニューヨーク・フィルハーモニック
独奏 Cla.スタンレイ・ドラッカー
録音 1989.10 エイブリー・フィッシャー・ホール
プロデューサー ハンス・ウェーバー
エンジニア ハンス・ペーター・シュヴァイクマン
その他 Live  Mix−down Rainer Maillard
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ 10
ダイナミックス 10
平均点 9.4
商品番号:431 672−2 グラモフォン  ステレオ 
解説
グラモフォンレーベルの音作りの中において、この録音は驚異的に生々しくダイナミックな音像表現を成し得ている。クレジットにミックスダウンのエンジニアが記載されているのも例外的なことである。
さて、バーンスタインのこの時代の通例で、この録音もライヴセッションである。副数日のテイクをつなぎ合わせる、編集を前提としたライヴである。この手法を採る時グラモフォンは極限まで会場のノイズを削除し、それがアダとなって空虚で殺伐とした音像に陥ってしまうのであるが、この録音では意外なほどに客席の気配を残しており、会場の雰囲気を生き生きと伝えることに成功している。このちょっとした配慮によってホールトーンや奏者の息遣い、さらには指揮者バーンスタインのむせび泣くような歌声までも捉えることができたのである。
エル・サロン・メヒコは、冒頭からスピード感のある鋭い音像が炸裂する。いい意味で荒っぽく粗野な響きが、オーケストラを迫力一杯に放射させ、野太いダイナミズムがリスニングルームを揺るがすほどである。曲の中間部では弦セクションによる美しいメロディが歌われるが、その優美なアンサンブルを見事に捉えているのも素晴らしい。バスドラムの伸びやかな重低音やスネアドラムの硬質なアタック音など、この録音はコープランドの楽曲に欠かせない要素を妥協のないリアリティで捉えている。躍動するリズムとブラスの華やかなサウンドが絶妙のバランスと実存感で描かれた、最高品質の録音に仕上がっている。
同録のクラリネット協奏曲は、ソロがやや強調された音像であるが、オーケストラ全体のバランスではほとんど問題はない。「劇場のための音楽」は編成が幾分小さくなっているため、音像のボリュウム感がやや大きく捉えられている。それにより各楽器のリアリティがいっそう増したように感じ、一音一音が生々しくエネルギッシュに描かれている。
最後の曲、「コノテイションズ」は、近代的で暴力的な楽曲であり、軽妙さとは正反対の精神性の高い内容である。豪快に展開するオーケストラは超人的なパワーでド迫力のTuttiを聴かせ、一瞬の気の緩みも見せない最高のアンサンブルを示している。録音もそうしたダイナミズムを余すところなく捉え、オーディオ再生の限界に挑戦している。
唯一、マルチマイクによる重ね録りが、この録音の実存感をあと一歩食い足りないものとしているのが残念である。しかし、グラモフォンのコンセプトに関わる問題でもあるため、エンジニアの技術においては完璧な録音を成し得たのかも知れない。
今回は、エンジニアの志向に加え、マスタリングの技が冴えていたことも影響していると思われるが、いずれにしても歴史に残る素晴らしい録音であり、グラモフォンにとってもオーディオマニア向けの貴重な成功例となっている。
世界遺産級