EMIにとってもステレオ録音の最初期のものとなる1955年の録音である。テープノイズはほとんど問題なく、時代的なリスクはまったく感じないと言ってよい。これはリマスタリングの成果であろう。
モノラル録音も同時に行なわれていた当時、ステレオは実験の域を出ていなかった。にもかかわらず、ここに聴くような完成度の高い内容のものを実現していたことに驚かずにはいられない。音像は自然な仕上がりで、極めて良好なステレオ再生を成し得ている。オーケストラのことを知り尽くしていたEMIの技術陣のレベルの高さを窺い知ることができる。
キングスウェイ・ホールの豊な残響をそのまま捉え、オーケストラサウンドは贅沢な広がりを持って華やかに鳴り渡る。左右への広がりと奥行への深々としたステージレイアウトは現在の録音でもなかなか聴かれない仕上がりである。音質こそ若干かさついた感じは否めないが、pからmfまでの室内楽的な響きにおいては、アナログ後期の録音と比べても決して劣る内容ではない。ダイナミックレンジは、いま一歩伸びやかさが欲しいが、全体のバランスの中では特に問題とするほどのものではない。EMIの現在まで通じているオーケストラの音像表現は、この時点で既に完成されていたのだということが良く判る。むしろ、デジタル時代に入って雰囲気に流されているような音像表現が多くなったこのレーベルにとって、この録音は、原典回帰となる貴重なステレオ表現となっている。
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