文化財級 オペラ/合唱曲
作曲家 レナード・バーンスタイン
曲名 ホワイトハウス・カンタータ
指揮 ケント・ナガノ
演奏 ロンドン交響楽団
独唱 トーマス・ハンプソ
バーバラ・ヘンドリックス
録音 1998.9 ロンドン・アビーロード・スタジオ
プロデューサー クリスチャン・ガンシュ
エンジニア サイモン・ローズ Simon Rhodes
評価項目 評価内容
ホールトーン
ステージレイアウト
リアリティ
クオリティ 10
ダイナミックス 10
平均点 9.4
商品番号:463 448−2 グラモフォン ステレオ 
解説
バーンスタインが1970年代に作曲したミュージカルからの改作である。
《ホワイトハウス・カンタータ》は、バーンスタインが台本作家のアラン・ジェイ・ラーナーと組んで、1972年から76年にかけて作曲したミュージカル《ペンシルヴェニア通り1600番地》を演奏会用に改作したもの。元になったミュージカル(タイトルはホワイトハウスの実在の住所を示しています)は、歴代の米大統領の居住地であるホワイトハウスを舞台に、南北戦争をはさんだ約100年間に起こった歴史上の事柄を当時の大統領が次々に登場し、トピックス的に歌い演じる内容となっている。そこには当然のことながら、人種問題や政治腐敗への辛らつな視点が盛り込まれ、風刺の効いた骨太の内容となっている。祖国アメリカの歴史を風刺的に扱った刺激的な現代のカンタータである。
クラシック、トラディショナル、ポピュラーなど、ジャンルを超えた様々な要素を融合させた音楽は、まさに“バーンスタイン”的な音楽スタイルで、ウェストサイド・ストーリーの“マリア”や“トゥナイト”を思い起こさせる抒情的な旋律もたっぷり含まれている。世界初録音となるこのディスクには、トーマス・ハンプソンをはじめとする強力な歌唱陣が参加している。バーンスタインの晩年の愛弟子の一人であったケント・ナガノが、共感溢れるタクトで全体をまとめ上げている。
ミュージカルは、バーンスタイン自身が「唯一の失敗作」と皮肉るほどに、作品の豊かなインスピレーションに比べて、ほとんど評価されることなく消え去ってしまっている。いわゆるミュージカルの枠に収まりきれなかったことが、この作品の不幸の根源といってもよい。同様に初演時に不発だった「キャンディード」が、何度も改作を重ねながら「演奏会形式」でのスタイルで作品の価値を高めたことを考えると、この曲が「カンタータ」となって世に残り、こうしてレコーディングされたことは、ある意味必然とも言えるが(商品ラインアップとして)、とてもうれしく思っている。

録音は、アビーロードスタジオを使用した、セッション録音である。大規模なホールに響く残響成分と、そこに漂う空気感が程良く調和し、伸びやかで生き生きとしたオーケストラ音像に仕上がっている。透明感もあり、音像が奥行き方向へも十分に広がっていることが好ましい。
飛びぬけて鮮烈な印象を与えるような特徴はないのだが、すべての項目で最高レベルの評価を与えることができた。一言で表せば「まとまりが良い」ということになるだろうか。
劇場型の楽曲ではあるが、オペラハウスでのステージを思わせるような音像表現ではなく、スタジオでの録音であることをメリットにしたアプローチとなっている。もともとがミュージカルであったことを考えれば、軽妙で洒落た楽曲にふさわしく、メリハリとパンチのある聴きやすい録音であると評価できる。
独唱は幾分クローズアップされた音像となっているが、バックのオーケストラが明瞭に定位しているため、アンサンブルのつながりが損なわれることはない。
オーケストラ本来のアコースティックな響きや、十分なステージレイアウトも保たれていて、この録音が一級品の仕上がりでることは疑う必要はないだろう。
音質面やダイナミックレンジも、最新のデジタルスペックの内容を十分にクリアしていて、申し分ない。
文化財級